「ひざ下の境界線飛んでしまおうよ」




「にいさま、こっちよ」

 金色の髪の毛を輝かせて、幼い頃の面影を無くさない妹が笑う。

「キャスバル兄さん、早く。待っているんだから」

 私もそちらに行こうとして、足が動かないことに気付いた。妹は私の名を呼びながら去っていく。

「シャア、なにやってるんだ。さっさとこっちにおいでよ」

 笑いながらアムロが招く。珍しいことに、腕まで伸ばして。

「さぁ、怖い事なんてないんだから、ひとつも」

 私の足は竦んでしまって動かない。

「大尉、いい大人なのにそんな低い所が怖いんですか?」

 呆れたようにカミーユも向こう側でこちらを見ている。

「平気ですよ、案外。ぽんと超えてしまえばなんてことありません」

 それでも、私の足は既に、鉛のお守りがついたようだ。

「アレなんじゃない?目をつぶれば?」

 黒髪の少年がケタケタ笑っている。

「そこに境界線があるって思っているのは、案外あんただけかもしんないぜ?」

 でも、私の足は地面に根を張ってしまって、今ではびくとも動かない。

 このまま木になってしまうのだろうかと途方に暮れていると、私の手をそっと取る柔らかい手があた。

「大佐」

 褐色の肌の少女が、エメラルドの瞳を瞬かせて私の手を頬に当て、微笑む。

「シャア大佐、どうしてあなたの膝の下までしかない境界線を怖がっておられますの?飛んでしまいませんの?」

 何か言おうとしたけれど、遂に私はどうやら本物の木になってしまったようだった。鱗のような皮で覆われようとする私の唇に、ララァが背伸びしてキスをしようとする。

「ララァ」

 その時、向こう側から彼女を呼ぶ声がして、彼女はふいとそちらを振り向いた。

「あら、…アムロ?」

 その瞬間、私は完全に木になってしまった。魔法を解くはずの彼女のキスは間に合わなかったのだ。

 完全に木になってしまうその瞬間にああ、私はこうやってアムロに殺されるのを待つのだなと、そんなことを思った気がする。




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