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※世界はSRW設定です。
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ようように発せられた言葉は、非難の響きを含んでいた。
「…シャア、あなたはもしかして、俺に対して戦うことを正当化しようとしているのか?」
「誤解しないでくれたまえ。戦争を正当化する気はない。」
毅然とした口調で言うシャアに、アムロはまた言葉に詰まる。
確かに、武力行使は辞さないと言う構えは崩さないにせよ、ネオ・ジオンは相変わらずの軍事国家であっても一時期の極端な軍国主義からは方向を転じつつあった。
それはひとえに総帥であるシャア・アズナブルの手腕によるところが大きいというのは、一般見解を越えた世間の共通認識である。
風の噂でしかないが、地球連邦との完全和平が成し遂げられた暁にはシャア・アズナブルは総帥職を辞し、選挙で選ばれた代表による民主主義に切り替わるのではないかという噂すらあった。
最も、その場合においても当選するのはまず現「総帥」であろう、というのが専らの皮肉な下馬評であったが。
「戦いは不毛だ。だけれども、人間の最も輝く一瞬はその不毛さの中にこそ存在する。…皮肉なものだな。アムロ、知っているか?人間の科学技術が最も進歩するのは戦時中に於いてだそうだ。今に残る発明や発見など、その殆どがそもそも軍事目的のために開発されたものに過ぎん。」
論点をすり替えようとするような「大人」の物言いに、アムロの中の妥協しきれない部分が反応して強く疼いた。
かつての仲間を盾に強制的に実験対象で在ることをを強いられた、地球の重力に捕らわれた年月日が麻薬のフラッシュバックのように脳裏に弾ける。男に答える声は固く、微かに震えてすらいた。
「…技術の平和時における利用、ね。勿論知っているさ。だけど、ガンダムも強化人間も、平和のために使えるようなものかい?…ニュータイプも、さ。」
その言葉に答えはなかった。代わりに、アムロから遠く視線を外したままでシャアが呟く。
「では、君に聞きたい。…私は、変われると思うか?」
再び。
アムロは絶句した。様々な語句や質問が頭の中を駆けめぐり、アムロを混乱させる。
―――変わる、ってなんのことだ?
―――あなたが戦争屋から統治者に変われるか、っていうこと?
―――それともあなたや俺が、この戦争が終わっても平和に適応できるかどうかを言っているのか?
どの問いについても、答えはアムロの中の何処にも見つけられなかった。分からないよ、と黙って首を振る。
「あなたはあなたで在るだけで凄いから。俺には、正直言ってあなたがなんでそうまでして俺に拘るのかが分からない。」
「アムロ?」
言った瞬間、アムロは自分がこの男に対してやはり相当に腹を立てていたのだということに遅蒔きながら気がついた。一人だけ分かったような顔をしている癖に肝心なことは皆彼に言わせたがる、目の前の狡い金髪の男に。
そうだ、いつだって答えを出すのも背中を押すのも俺じゃないか、と思うと純粋に癇癪めいたものが腹の底から迫り上がってくる。抑えようともしないまま、感情の全てを迸らせてシャアにぶつけた。
「シャア、あなたに俺の気持ちが分かるか?あなたと比べられて、俺はいつだってあなたより勝っているなんて思ったことはない!卑屈になるくらいだ、嫌になるよ。ニュータイプというだけで俺を憧れの象徴のように言うのは止めてくれ。あなたはニュータイプじゃないかもしれない、俺はそうは思わないけれどあなたが自分で言うなら多分そうなんだろう。でも、それが何?」
そこで言葉を切って、憧れと言うよりは憎しみにすら近い眼差しで青い瞳を見上げる。
「あなたはもう既にシャア・アズナブルじゃないか。それ以上なにになりたいんだよ!」
シャアの眉がぴくりと吊り上がる。
「アムロ、君はもしかして…。」
アムロは首を振って、男の言葉を全て拒絶した。元々広くあろうとしていない彼のキャパシティは既に限界値を訴えている。シャアの存在は彼にとってはそれほど重く、大き過ぎた。
「だからもう、俺に何かを求めないでくれよ!困るんだよ、そういうの。俺はララァの代わりにはなれないし、あなたを導けるほど偉大でもない。ただ、俺は。」
―――あなたが側にいて欲しいと願ったから、ただそれだけで俺は。
その言葉は口にされることなく、別の表現を無意識に選択する。どうして自分はシャアの元にいようと思ったのか。その答えが今やっと、アムロの胸の中から迸る。
「シャアが側に居て欲しいっていうんなら、俺は。」
「…随分と言いたい放題言ってくれるものだな、アムロ。」
皮肉げに呟くシャアの口調には、いつもの温かさがなかった。ぎょっとして顔を上げるアムロの肌が、冷たく余人を拒絶するプレッシャーを感じ取る。未だかつて、シャアからは彼が一度も感じたことのない感覚だった。
「…構わない。」
「え?」
言われた言葉が上手く聞き取れなくて、アムロが目を見開いた。
「なんだって?シ…。」
「構わない、と言ったのだ。『側に居てやっている』のならば、な。」
シャアは徐にそのコバルトブルーの瞳を偏光グラスの下に押し込め、色つきの世界越しにアムロに言い放った。
「そういう理由なら、結構。そこまでして君を縛り付けておく趣味はない。奪うだけで与えるものなど何もない関係など不毛な限りだろう?私は乞食でも物乞いでもないのだからな。」
「し…。」
呆然とする何が起こっているのか理解できないアムロの前で、シャアは淡々と言葉を紡ぐ。
「私は君になりたいのかもしれないし、出来損ないのニュータイプと言われることで劣等感を抱いても居るのかも知れない。」
「…!、俺…。」
何か言おうとするアムロを手と気配で制する。ひしひしと迫ってくるプレッシャーに氷の気配を感じて、さしものアムロが完全に気圧された。為政者の顔で、シャアは淡々と言葉を紡ぐ。激しているようでも恫喝している訳でもないのに、ずしんとアムロの腹の底一番奥に落ちて、そのまま鉛の固まりになる、言の葉。
「君にララァを求めたり、君になりたい気持ちが何処かにあることは否定しない。だが、それは私だけの心の問題だろう?いつ私が君にそうであれと強制した?アムロ、私はそこまでさもしい男ではない。」
その存在は、既に赤い炎だった。全身に紅蓮の色彩のプレッシャーを纏い、シャアは話し続ける。
「私は私であり、シャア・アズナブル以外の何者でもない。そのことで君に助力を願おうとは思わない。確かに君は私の人生に必要だ。けれど、その為に無理をして君が自分を歪めるくらいなら止めたまえ。大した覚悟もなく麗しい自己犠牲の精神を発揮して貰おうとは更々思わない。」
最後に強い視線を投げ、シャアは言い放つ。
「見損なわないでもらおう、アムロ・レイ。…君なしでも私は生きていけるのだから。」
殆ど言い切るようにキッパリと拒絶を口にし、シャアはさっさと先に歩いていってしまった。
「……あ。」
取り残されて。がっくりとリノリウムの貼られた床に膝を突く。
アムロは本当に舌を噛んで死んでしまおうかと思った。
尊重すべきことは、あの男の誇り高さだったのに、とアムロは後から後から込み上げる苦い思いを噛みしめる。
結局、シャアのことを一番悟っていなかったのが、理解しなかったのが誰だったのか、アムロは否応なしに思い知らされた。
どんなに日頃道化のように振る舞おうと、シャアの矜持は矢張り王家出身のそれであり、例え世俗の黄塵にまみれたとしても、汚れたのではなくしなやかな強さを手に入れただけなのだと。彼自身が変質することはないと。最高級の矢車草色のサファイアのような、コバルトの惑星にも似た何者にも屈しないあの高貴な色の瞳が、最もそれをよく物語っていた。
アムロに哀れまれる位なら、自噴して死ぬだろう。
そういう激しさと、臥薪嘗胆の忍耐力を併せ持つのがシャア・アズナブルという男だった。
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To be Continued.
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