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※世界はSRW設定です。
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☆Z☆
脇をZガンダムのウェイブライダーに護られて帰還したサザビーがまず目にしたのは、メインモニターに映し出されたブリッジの様子だった。人間が黒山の人だかりになっている。
『クワトロ大尉、無事の帰還、おめでとう。しかし、あまり無茶はしないで頂きたい。』
「すまないな、ブライト艦長。どうも若い頃の経験が抜けなくてね。」
苦笑混じりに答えて回線を切り、デッキに降りたって格納庫にサザビーを納め、ノーマルスーツだけでメインブリッジへ向かう。その途中でも、整備班やすれ違うクルー達に散々声をかけられ、健闘を褒め称えられた。
「いや、あのサザビーで出たと聞いたときは正気を疑いましたが、流石は『赤い彗星』。」
「…誉め言葉として聞いておくよ、アストナージ。すまないが格闘で右腕の肘関節を少しやったようだ。武器と一緒に整備を頼む。」
ぽん、とヘルメットを放り投げて任せ、ばさっと金の髪を空気に開放する。現れる、見惚れるほどの美貌にすれ違った女性士官がほう、と息を飲んだ。気にも留めずに先に進み、メインブリッジへのドアを開けた途端。
「クワトロ大尉、凄かったです!」
「ただの変な演説する説教小言オヤジじゃなかったんですね!!」
などと無礼なことこの上ない発言と共に、若手のパイロット達が低重力ボディーアタックをかましてきた。
ひらりひらりと三倍速の軽やかさでそれらを華麗に除けながら、何とか中心のブライトの所へ辿り着く。そして先程の戦闘についての報告をしようと口を開いた。
「ブライト艦長、ただいま帰還した。敵の間諜は撃墜したが、どうやら新型機らしい。性能は其程でもないがステルス装甲を使われているのは厄介だな。警戒のレベルをもう少し引き上げた方が…。」
「あなたみたいに調整途中の機体でビームサーベル一本だけぶら下げて出ていく機体よりはラー・カイラムはよっぽど安全だよ、ご心配なく。」
言いかけた報告をとてつもなく重圧感のあるプレッシャーと氷を含んだ言葉で遮られ、シャアがぎょっとして脇を振り向く。
「…アムロ?」
「お帰り、『赤い彗星』。随分楽しそうに戦ってたけど、気は済んだ?」
アムロの余りの剣幕に何か口を挟もうとしたブライトが押し黙り、回りにわらわら群がっていたちびっ子達も蜘蛛の子を散らすように雲散霧消する。シャアも流石に少し顔を引きつらせたが、そこはアムロとの付き合いが誰よりも長い男、苦笑しながら口を開く。
「気が済んだ訳ではないよ。そもそも気晴らしに出撃したわけでもない。」
「あ、そう?俺にはそうとしか思えなかったけど。」
「アムロッ、口が過ぎるぞ!!」
流石にブライトが傍らのエースパイロットの毒舌を咎めるが、アムロはふん、と鼻で嘲笑うだけ。
「おや、ネオ・ジオン総帥に利いた風な口を叩くと処罰対象かい?俺はネオ・ジオンじゃなくて連邦軍人だから、彼の作った組織に従う義務はないはずだけど?」
規律と常識に厳しいブライトがアムロのこの行き過ぎた発言に色をなす。
「アムロ、そういうことを言って居るんじゃないことは分かるだろう?一体どうしたんだ今日は!なんでクワトロ大尉に食ってかかる必要がある!!」
このままでは艦長とエースパイロットが舌戦になる、と判断したシャアは急いで間に割って入る。
「アムロ、言いたいことがあるのなら向こうで聞こう。私もいい加減部屋に帰って休みたいのでね。構わないだろう?ブライト。歩きながらでも話はできるだろう。」
「あ、ああ、それは…。」
ブライトは頷きかけたが、アムロはそっぽを向いた。
「俺には別に言いたいことはないよ。さっさと部屋帰って寝れば?四日ぶりのベッドだろ?」
シャアが不本意だ、と言わんばかりの表情になった。
「おや、アムロ。添い寝も子守歌も歌ってくれないのか?」
「…二度と起きあがってくる必要が無いようにしてあげようか?」
益々厳しさを増すプレッシャーに、なんでこの男はこういう状態のアムロにまだ軽口まで叩けるかな、と内心呆れ返りながらブライトがアムロを背後から小突く。
「アムロ、艦長命令だ。また途中でどこかに逃げられては敵わないからな、クワトロ大尉を無事に自室までエスコートして差し上げろ。」
「…ブライト艦長、私は子供かね。」
流石に抗議めいた口調になるシャアに、一瞬嫌な顔をしたものの既に歩き出したアムロが声をかける。
「子供より図体でかい分タチも悪いだろ。行くぞ。」
シャアは深く溜息をつき、一礼して素直にブリッジを辞することにした。
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「アムロ、訊いてもいいか?一体どうしてそんなに怒っているんだ?」
「怒ってなんかいない。」
「嘘を言うな。さっき通信回線で話したときは何でもなかっただろう。何があった?」
着替えて普段の軍装に戻ったシャアがドレッシングルームから出てくると、アムロは廊下で怒ったように腕組みをして押し黙って彼を待っていた。しかもシャアがドアから出てくるのを見計らうと、さっさと先に進もうとする。思わず追いかけて腕を掴むと、邪険に振り払われた。
「アムロ…。」
「ああもう、うるさいなぁ。俺はあなたみたいに自分の体を大事にしないヤツは大嫌いだし、それに……。」
怒気さえ孕んだ瞳で強くシャアを睨み据える。
「それに、戦いを愉しむ人間の気もしれない。」
気付いていたのか、とシャアはぎくりとしたが、思ってみればアムロはニュータイプの中でもずば抜けて勘がいい。同じような体質でもあるシャアの気持ちなど、トレースするより理解するのは容易いだろう。なのでいっそ悪びれないことにする。
「…君と違って私は骨の髄まで生粋の軍属の身なのでね。軍人の業には逆らえんのだよ。」
「詭弁を…!」
怒鳴りつけたいような表情になって、アムロがシャアに強い視線を向けた。本気で腹を立てている気配に、また怒らせてしまったか、と内心溜息をつく。しかし、だからといって取り繕うために陳謝したり心にもない台詞を言うことは、アムロに対してだけはシャアの本意ではない。案の定、アムロはカッとしたように男に向かって言い放つ。
「あんな敵一機くらい、あなたならやり過ごして機体速度で攻撃を交わして増援を待てただろう?どうしてわざわざ自分から危ない真似をする?!自分の力でも見せびらかしたいのか?!」
シャアが堪えきれないように笑い出す。
「…アムロ、君がそれを言うか?ロンド・ベルのエースパイロットは誰だね?君だろう。他にも、この艦には私など及ばないような機体もパイロットも勢揃いしている。今更、老兵が己の力を誇示してみたところで未来への力には敵わんよ。」
アムロが更に腹立たしそうにその発言内容を咎めた。
「ここのところ、あなた自分のことをまるで年寄りのように言うことが増えたよね。言っておくけど、あなただってまだまだひよっ子の年齢じゃないの?」
「なに、じいさんさ。この艦の中ではね。そして、私は組織にはいつも柔軟であろうとしているのだ。」
シャアが肩をすくめる。そして、このロンド・ベルの中で私が果たすべき役割はお目付だろう、と続けた。その後にアムロにだけ分かる少しだけ照れた口調で付け加える。
「…まぁ、ああいう戦い方もあると少年達に教える良い機会だと思ったことは否定せんよ。」
その言葉に、憮然としながらアムロも先程のシャアの戦いぶりを評価をせざるを得なかった。
「…あなたのあの戦い方が見事だったことだけは認めるけどね。」
永遠の好敵手からの手放しの讃辞受けたシャアは、少しだけ寂しげに微笑む。
「ニュータイプには出来ない…いや、必要のない戦い方だろうな。」
「そんなことは…。」
反論しようとして、その言葉が無いことにアムロは気付いた。確かに、ニュータイプである自分たちは敵の気配を本能的に感じ取れるので、先程シャアがやって見せたような己を捨てて敵の力を受け流すような戦法を取る必要はない。
だけれども反抗的な気分を引きずったまま、アムロは執拗に食い下がる。
「でも、でもあなただってニュータイプだろう、それを言うなら!」
スクリーングラスを外して胸ポケットにかけながら、シャアは殊更なんでもないことのように言う。
「君ほど感覚が鋭くないのでな。私の武器はニュータイプの感覚というより寧ろ試合勘と経験だけだよ。」
「それがあるのが凄いんだってば…。」
言いかけたアムロの方に素の視線を送り、シャアは苦笑した。
「だが、こちらはニュータイプのように本能的に感じ取るものではないからな。離れると鈍るし、腕も落ちる。」
「…シャア?」
声の響きに不審なものを感じ取ったアムロが男の名前を呼ぶ。見知らぬ他人のような表情で振り向き、男は低く言葉を紡いだ。
「業が深いと言っただろう?私は軍人しか喰う方法を知らないとも。常に戦場で、前線に居ることでしか、私は私で居られないのだよ。」
今度こそ、アムロは言葉を無くした。
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To be Continued.
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