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※世界はSRW設定です。
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☆XII☆
『白き流星』。
贈られた二つ名そのままに、アムロは宇宙を翔る。収まらない怒りが、彼の回りの空気を白い炎のように燃え立たせていた。高速で広大な星々の間をひた走る純白の機体は、燃え上がる流れ星のようだ。
先に逝くとか。もう必要ないとか。あの男は、この世の全てを自分一人の判断で決めて、それで正しいと思っている。ちょっとは他人を頼れよ馬鹿野郎、と今まで自分はあの男に何度言ってきたことか。
νガンダムの360度視界のフルスクリーン全てに感覚を凝らし、知覚能力全てをフル動員して赤いモビルスーツを探す。微かなエンジン音でさえ、聞こえてくれば他の機体とあの機体を識別できる自信があった。
まだ、先には逝かせない。アムロ自身が彼に対する答えを完全に出し切れていない、今はまだ。納得できないかもしれないが、今まで散々振り回されたツケから考えるとその位安い物だろう。
「どこだ、どこにいる……。」
低く呟きながら、舵を地球方向の座標軸に修正する。寄り道など、多分するはずがない。既に連邦にもネオ・ジオンにも自分たちにも、あの男は背を向けている。寄港する場所などありはすまい。
昔、オペラだのクラシックだのにやたら詳しいあの男に教えられた。『Mit Gewitter und Strum aus fernem Meer』という曲が好きだと言っていた。『恋人よ、南風がなかったら、ぼくは君のもとにたぶん行けない。ああ、いとしい南風よ、もう一度吹け。恋人よ、もう一度会いたい。』とかなんとかそんな歌詞だった気がする。確かなことは言えないが。
帰る港を失った船。そのフレーズにまたゾッとした。まるで西欧の海に伝わる彷徨えるオランダ人の伝説のようではないか。神を呪い、その咎として永遠に港に近づくことを許されない幽霊船。
「なんで、そんな淋しい生き方をするんだよ…。」
呟く声が怒りと納得できない気持ちで震える。だからインテリは嫌いなんだ、と吐き捨てるように呟きながら。帝王学だとか為政者の当然の態度だとかマキャベリズムだとか義務だとか倫理観だとか、そんなものに雁字搦めにされたシャアの取る行動が別に其程突拍子もないものではないことくらいアムロにだって分かってはいる。理解することが出来ないだけで。
いや、承伏しかねると言ってもいい。シャア以外の人間が同じ立場で同じ行動を取ったとしたら、ひょっとしてアムロは立派な行動だ、素晴らしく感動的な自己犠牲と博愛だ、と感心するかもしれないのだけれど。
身勝手でもなんでも、自分はもうシャアを知ってしまっている。そして、彼は……自分のものだと。
そう、シャアはアムロのものでもあったのに。
「勝手に離れていくなんて、…許さない!!」
結局の所、それが本音。
そして。滑るように指を動かして操作を続けるνガンダムのレーダーが対象を捉えるほんの一瞬前。アムロの脳裏に小さな落雷のような白い光が弾けた。ぱちん、と視覚に広がった色彩は深紅。
「…見つけた!!」
小さく叫ぶとνの感覚を全てそちらに向ける。程なく、νガンダムの感知範囲に一機のモビルスーツが現れた。最高加速を続けながらどんどん距離を詰めてゆく。機体反応は殆ど同じかも知れないが、機動性とスピードはアムロのガンダムの方が僅かに上の筈だ。それに、パイロットの気合いも。
「止まれ、シャア!!」
叩きつけるようにコンソールに指を走らせ、回線をハッキングする勢いで無理矢理にこじ開けて、サザビーに向かって怒鳴りつける。音声だけじゃなくニュータイプとしての感覚で分かっているだろうに、相手からの返事はない。赤い機体も止まる素振りさえ見せない。猛烈に腹立たしくて、アムロは何が何でもシャアを止めてやる、と必死に追う。しかし、前に回り込んでも素直にシャアが説得に応じるとは思えない。
アムロは指を忙しなく走らせながら、整備員詰め所を呼び出す。
「ごめんアストナージ。サザビーの修理と整備、仕事に追加しておいて。」
主任を出せと叫んでおいて、哀れな犠牲者を引き続き演じているアストナージが出るやいなや物騒な通信をラー・カイラムに向けて入れ、返事を待たずにぶち切る。
ぶぅん、と白い機体の腕にビームサーベルが出現した。決心したアムロが吼える。
「悪いけど。落とすよ、シャア!!」
途端に慌てたようなメインブリッジからの通信が割って入ってきた。
『待てアムロ、短気を起こすんじゃない!』
どうやらブライト達は一部始終をラー・カイラムで傍観しているらしい。そういえば誰も後を追ってこないところを見ると、巻き込まれてこれ以上二次災害あるいは遭難の被害が増えるのを恐れたブライトが皆を引き留めているのだろう。
最も、本気で怒っている白き流星アムロと赤い彗星シャアの間に割ってはいる度胸の在る無謀な奴もそうそう居ないだろうが。誰だって我が身は可愛いし命は惜しい。
アムロはひとつ深呼吸をすると、きっぱりとした口調で言い放つ。
「ブライト、お説教なら帰ったらあのバカと二人でとことん聞くから、今は邪魔するな!!」
ばちん、と雑音を遮断する。どうせ向こうだってこの位は覚悟しているはずだ。アムロは一瞬で作戦を頭の中で組み立てた。
機体とエンジンを繋ぐ直結のエネルギーバイパスさえ切断すれば、理論上ではモビルスーツは止まるはず。自分も幾度となく整備を手伝った機体だ、サザビーの設計図なら今のアムロの頭にはνガンダムと同じくらい完璧に入っている。何処を狙えばいいかは調べなくても知っていた。
「…行くぞ、シャア!!!」
言葉と同時に、抜きはなった光の刃を手にνガンダムとアムロはサザビーの正面に回り込んだ。
赤い機体もやむなく足を止め、自分もビームサーベルを出現させた。
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艦橋では、ブライトが頭を抱えていた。その隣で見守っていたジュドーが呆れたような声をあげる。
「…なんていうか、壮大な痴話喧嘩っすねぇ。」
「ジュドー、お前でもそう思うか…。」
「ていうかあれ、痴話喧嘩以外のナニモノでもないでしょ?」
あっさり言い切られ、がくっと肩を落とす。こういう事になると思ったから、アムロにだけは言いたくなかったのにと今更ながら後悔しても仕方のないところなのだが。
じゃれ合いとか痴話喧嘩というにはあまりに殺気立ったスキンシップに涙が出そうになる。今時夕焼け番長じゃあるまいし、殴り合いの後で仲直りして夕日に向かって走る年じゃないだろう、あのハタチより三十代に近い二人組は。大体モビルスーツで取っ組み合いとかしないで欲しい。部品だってあの二機は特別製だの別注だの規格外だのばかりで、只でさえ経費の多いロンド・ベルの金喰い王者決定戦が出来るのに。今日日戦時中でもあって物価は高騰しているし、ビスの一本でもタダじゃないんだぞと内心で毒突く。次の予算交渉には絶対あの二人を行かせてやろう。ブライトは心の中でガンダリウム合金より固く固く誓った。
亭主元気で留守がいい、良くできた上にニュータイプでさえある愛妻ミライの貴方出世して下さいましねプレッシャーまで脳裏に浮かんだりして。親父、お袋、俺そもそもホワイトベースに乗ったのが人生の過ちだったよ…ミライに会えたのは幸運だったけれどあの二人とも出会っちゃったんだもんなぁとブライトの神経も結構臨界点寸前だ。
いつも思うがどうして彼奴等は事態を穏便に納めるという至極当たり前で真っ当なことが出来ないのだろう。大体、シャアに至っては政治家じゃないか。しかも特に戦略と策謀、対外交渉に関して有能だと噂の。
噂なんて所詮いい加減なものだあの派手好き共め、とぐりぐりと深くなる一方の眉間の皺を揉みほぐしながらブライトがぼやく。
「……そうなんだ…ああ、全く、もう少し大人になれよ、あの馬鹿共は……自分の行動に責任を持てない年じゃあるまいし。」
二大エースの大人げない行動に深々と溜息をつく艦長。メインブリッジには今や何事かと集まったクルーが全員集合の体を成している。スクリーン画面上で繰り広げられるツートップエース達のあり得ない攻防戦に、歴戦の彼等ですら皆一様に言葉を失うばかり。
ガキィン、と音がしそうな勢いで二本のビームサーベルがぶつかり合って火花を上げる。組み合うと同時に離れ、また撃ち合う。モビルスーツの関節の上げる悲鳴が聞こえそうな勢いだ。うわ、アムロさん本気だよ今の勢い、とカミーユが呆然と呟くのが聞こえてきた。相手がシャアでなければ、一撃目でさえ受け止めるのは不可能だっただろう。
ジュドーは無言でぽむ、と一回り小さくなった艦長の肩を叩いた。
「同情します。」
「…お気持ちだけ有り難く受け取っておこう。」
「…ブライト艦長、応援してます。禿げないでくださいね。」
「…一言多いぞ、ジュドー。」
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To be Continued.
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