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※世界はSRW設定です。
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☆XI☆
ブライトは頭に血を上らせたままラー・カイラムの廊下を歩いていた。先日ネオ・ジオンへ出向いたシャアの様子がおかしいと思ったら、こんな事態になっていたとは。
「どうして肝心なことを相談しないんだ、あの人は!!」
そんなに頼りにならないか、私は、とブライトは憤然としているが、実際の所はシャアもこのロンド・ベルのカミナリ親父にだけは気を使っている事だし、何より自分の決断でアムロの同情を引いたりしたくないのだろう、ということくらいは容易に想像がついていた。
有効策はアムロに全てを話して引き留めに行って貰うことだろうが。思ったけれど、その選択肢をブライトは切り捨てた。今回に限り、その方法は失敗すると返ってシャアの強硬な反発を招きかねない。しかも、初めにシャアがアムロには話さないと決めているのなら、彼のプライドの高さを知っている苦労性のブライトとしてはその気持ちも出来うる限り尊重してやりたいと思ってしまうのだ。
「だから貧乏籤が好きだというんだ…!!」
自分が、ともシャアが、ともつかない憤然とした言葉と共に、ブライトは『クワトロ大尉』の私室のドアを猛然とノックした。此処へ来る前にシフトは確認している。彼は今は非番で自室にいるはずだった。
「クワトロ大尉、少しお話があるので入れて頂けないでしょうか!!クワトロ大尉!!」
返事はない。確かこの艦の全部屋分の合い鍵が自分の部屋には有ったはず、と非常事態の強権を発動するかどうかブライトがしばし悩んでいた、そのとき。
ぱしゅ、と音を立てて隣の部屋のドアが開き、その部屋の住人であるアムロが中から出てくる。自分の隣の部屋の前に勤務中の筈の艦長の姿を目にして、ひどく驚いた表情になった。
「あれ?どうしたの、ブライト。」
望んでいなかった人物の登場に、ブライトが心底ぎくりとする。さっきシャアのシフトを確認するついでにアムロのも覗いたのだが、彼はこの時間は、確か。
「…お前こそ、今はパイロット詰め所で待機中じゃなかったのか?!」
「うん、ちょっと忘れ物して取りに来ただけだけど…。」
言いながら、ブライトがさっきまで血相を変えて叩いていたドアにちらりと視線をやる。
「シャアならさっき出かけたみたいだよ?」
間違いない。自室へ物を取りに戻って暫くして隣の部屋に住人が帰ってきた気配がした。久々に壁一枚隔てた身近に感じる存在にどきどきしながらも彼が隣の部屋にいる気配にびくついて、さっきまで自分は部屋を出られなかったのだ。
アムロののほほんとした言葉に、ブライトは思わず猛然と食ってかかった。
「なんだと、アムロ、お前止めなかったのか?!」
「止めるって…なんで止める必要があるのさ?」
いきなり怒鳴りつけられてきょとんとする赤毛の青年に、そういえばこいつは事情を知らないのだと気付いたブライトが舌打ちする。
「俺の動きを予測して先に行動に出たか…。」
恐らく、一足先に地球入りして交渉の根回しでもするつもりなのだろう。自分の身柄を、死を取り引きする商人達に最も高額に売り付けるために。華々しく劇的に、効果的に。名優シャア・アズナブルは華麗に自らの最期を演出するつもりに違いない。ぎゅっとブライトは拳を握りしめた。
「…だからといってむざむざ只で死なせるか!」
呟きながら身を翻して駆け出そうとしたブライトの、その言葉を。
アムロが聞き咎めた。氷より冷たい気配と共に、低い声と強い腕が走り去ろうとした彼を引き留める。
「…ブライト、今、なんて……?」
しまった、と思ったがもう遅い。真剣な瞳の色でブライトを睨むアムロから僅かに視線を逸らし、ブライトは言った。
「……お前にはもう関係がないことなんだろう?アムロ。」
「関係なんて大ありだよ!あいつが死んだら誰があのちびっ子共の山盛りの始末書の面倒見るのさ?!」
言葉は冗談めいているが口調も目付きも全く笑ってなどいない。さぁ吐け、と射殺しそうな視線で促され、ブライトは仕方なく覚悟を決める。
迂闊だった、とブライト・ノアはこの日何度目か分からない己を罵る言葉を呟きながら、渋々足を止めた。
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アムロはデッキ目指して走っていた。
ブライトが艦橋に問い合わせた限り、シャアは『ちょっと出てくる』と伝言を残し、愛機の格納されたデッキに向かったという。駆け込んできたブライトとアムロの剣幕に、オペレーターはちょっと怯えながらそう返事をした。
「なんだって?シャアはもう出発した?!」
「はい、既にサザビーで出たとの事です。」
メインコンピューターで割り出された行き先は、地球。整備員を上手く言いくるめて大気圏突入の装備も固めていったようだ。
慌てて通信機を呼び出したが、受信を拒絶しているらしく回線を開くことさえ出来ない。
「くそ、手遅れか……。」
「…っ、まだまだっ!!」
アムロがぱっと体を翻す。
「?!アムロ、何処へ行く?!」
「連れ戻しに行くんだよ、当然だろ?!」
舌打ちをして、アムロはブリッジを飛び出し全速力で格納庫に走り出す。待機中だったのでノーマルスーツ姿だったのが幸いした。途中の廊下ですれ違う人間の二、三人や四、五人、威嚇のプレッシャーで跳ね飛ばしたかもしれないが、そんなことすら気に留める余裕もない。
駆けつけた先には、いつも対になって並んでいたモビルスーツのうち、片方が欠けていた。荒れた呼吸を整え、やっぱり、と苦い声を噛み潰す。同時に、たまたま通りかかった犠牲者を捕獲し、有無を言わせぬ口調で問いつめる。
「アストナージ、あのバカのド派手なモビルスーツはどうした?!」
アムロの剣幕に、締め上げられた哀れな整備主任がたじたじとなる。
「サザビーなら、クワトロ大尉が乗って出かけましたよ、五分ほど前のことです。本当は百式が有れば良かったと仰っておりましたが…。」
ぱっと掴んでいた胸ぐらを離し、その勢いでがん、とデッキの壁を殴りつける。
「あんの、てっぺんバカ野郎!!」
普段意外に温厚なアムロが声を荒げる相手は、この艦の中にただ一人。久々復活の対・シャア専用アムロの罵声に、周囲の整備班やパイロットが何事かと振り返る。げほげほと締められた喉を押さえて咳き込みながら、アストナージがエースパイロットに尋ねた。
「追いかけますか?シャトルで?それともカミーユにZのウェーブライダーを…。」
「いや!」
アムロは首を振り、近くに据え付けてある自分のヘルメットを手に取る。カミーユは昨日アムロ自身が決めた編成シフトによると今は非番の筈だ。出てこいと呼びつける時間さえ、今のアムロには惜しい。駆け出しながら指示出しをする。
「間に合わない、νを回せ!超特急だ!俺がガンダムで出る!!」
「しか…。」
「なんのために毎日誠心誠意整備してるのさ?この位のスクランブル、なんて事はないよ。」
諦めたように対外ハッチを開ける機械室に向かいながら、アストナージがアムロに向かって叫ぶ。
「ブライト艦長の許可は…。」
「もう取った!!」
叫び返しながら、体は既にコックピットに沈み込んでいる。整備員が退避を始めるのを横目に慣れた手付きで機動作業を進め、ハッチが開くと同時にアクセルに当たるフットペダルを思いきり踏み込んだ。
「νガンダム、緊急発進!アムロ、行きます!!」
エンジンが火を噴き、類い希なパイロットの腕により機体が最高ギアで発進される甲高い音が、ドック内に響き渡った。
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To be Continued.
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