想い想われ恋焦がれ




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「フラウ行ってくる!!」

「ちょっと待ちなさいアムロッ」

「あっ何するんだよ!」

終業のベルが鳴ると同時に席を立った僕の腕をフラウはがしりと掴んだ。

「放っておきなさいよ。もう終わった事じゃない」

「何が終わったものか」

「行ったって体良くあしらわれるのが分からないの?」

「そんなのやってみないと分からないじゃないか!!」

「もうっ、どうなっても知らないから!!」










『頑張ってね』くらい言ってくれたっていいじゃないか‥‥‥。
フラウは振り切ったけれど、彼女の言葉は僕を少し傷つけた。けどどうってことはないと自分に言い聞かせる。だってこれから起こるだろう出来事を考えたらくよくよなんてしてられないのだ。

「カミーユ、ジュドー」

僕の教室より2人の教室の方が玄関に近い。一足先に学校を出ていたのだろう。校門の外で親友のカミーユとジュドーが待っていた。

「遅いぞ」

「ごめん。フラウに捕まりそうになった」

「早く行こうぜ。じゃないと橋が上がっちまう」

ジュドーに急かされ僕らは土手の先にある橋に向かって走り出した。この時間帯は船の往来が多い。早く渡らないと船を通すために一度開口した橋は当分元に戻ってくれないのだ。

(そういえばカミーユも女の子の名前だってからかわれていたっけ)

あの時の出来事を思い出した僕は傍らを走るカミーユを盗み見た。

「‥‥なんだよ」

じろりとにらみ返されて「なんでもない」と慌てて視線を逸らす。

「なあところで何を握りしめてるんだ?」

「ん?‥‥‥挑戦状」

「マジかよ!!って、実はラブレターだったりして」

口笛を吹いて冷やかすジュドーの頭をパシンと僕ははたいた。

「ジュドー茶化すなら帰れよ」

「わりぃ、わりぃ」

「おーい!!3人とも早くしてくれよ」

声がした方に視線を移すと橋を渡る人だかりに混じってキースが僕らに手を振っていた。その背後にはジオニズム大学の見るからに古そうな建造群が黒い連なりを作っている。それはまるで不吉な黒い翼だ。










ことの発端は十月のハロウィーンだ。
パーティーをやるから君らも来ないか?
そんな招待状がなんとジオニズム大学のカレッジの一つから届いたのだ。正確に言えばその招待状は女子寮に届いたものだけど、人数制限はなかったし男は来るなとも書いてなかった。目と鼻の先の距離なのにカレッジどころかジオニズム大学すら覗いた事のなかった僕達は、招待された女の子達に頼み込みこんで一緒にカレッジに押し掛けたのだ。

「いつ見ても圧倒されるぜ」

ジュドーが感心したように呟く。
近づくにしたがい風雨に晒され黒々とした外観は蒼い空に伸びていく。年月をかけて増設されていったネオ・ゴシックとかいう様式の大学は、まるで地球史の時間にホログラムで見た巨大な要塞か城壁のようだ。
橋を渡ったところで僕は後ろを振り向いた。
運河をはさんで見えるのが僕らの学校と住む街だ。太陽に照らされて建物が銀色に輝いて見えるせいか、まるで近未来の新興住宅地といった感じだ。実際は近未来でも新興住宅でもなんでもないのだけれど、こっちが古くて重厚な建物ばかりだからそう見えるのだろう。
時々この星の有権者はどうしてこんなに対照的な街を造ったのだろうと思う事がある。それだけ僕らの住む向こう側とこちら側では世界が違った。
今時の金持ちは光速小型艇を持っているし、各星に張り巡らされた転位装置も自由に使える身分だ。それらを使えばあっという間に何光年も離れたこの星にだって来れてしまう。有力者達はだからパブリックスクールを創立する必要もなければ一つの外観にこだわる必要がなかったのかもしれない。
本当の所はどうなのか。それは僕には分からない。どちらにしても金持ちだから出来る事で、僕ら一般人には遠い世界の話のことだ。
ジオニズム大学は昔は王侯貴族や由緒正しい家柄の子供だけが学んでいたという歴史の古い学校だ。広大な敷地にはカレッジや研究施設が数えきれないほど点在している。今でこそ敷居も低くなって一般にも開かれるようになったけれどそれはまだ最近。カレッジによってはまだ鎖国を貫いてるところもある。実は僕らが招かれたロンデニオンもそんなカレッジの一つだった。
今思うとそんな所にのこのこと行った僕らも馬鹿だったんだ。
最初は初めて覗くロンデニオンの内部やラボ、それに美味しい食べ物に浮かれまくった。でもどうやら向こうは退屈しのぎに僕らを呼んだだけらしいと気がついた。
そりゃあ何世紀も続いている古い歴史の大学と、十数年前に建てられた高校とは格が違うだろう。だからって珍獣扱いされれば僕らだって怒るさ。しかも学校を馬鹿にしただけでなく、僕らの憧れの生徒会長セイラ女史にちょっかいを出したのだ!!そしてあいつ、そう一番むかついたのはあいつだ!!
あいつはセイラ女史を守ろうとした僕を「ふんっ」と勝ち誇ったようにせせら笑ったんだ!鼻でだぞっ!!

ああ、思い出したらやっぱり許せない!!

あの日から僕は決心をしていた。
こっちに友達のコウを巻き込み(片思いの彼女がこの近くに住んでいるんだ)まずあいつの行動範囲を探った。大まかな行動が掴めた後は、あいつと二人だけで接触出来る場所を探した。
そしてようやく今日がきたんだ。
これは男と男の勝負。

許せないあの男と今日こそ決着をつけてやる!!

僕らはカレッジに向かわず運河を横目にずんずんと川上に向かって歩き出した。大学といっても広大なそれは街を無尽に走る運河と同じですでに街と混じりあっている。どこまでが大学の敷地でどこからが街なのか、僕には見当もつかなかった。
僕達の街のなんでもありの雑多な繁華街と比べると、同じ雑多でも外観が統一されているせいなのか随分違った。一つ川を越えただけでこっちはまるで外国のようだ。広い石畳の並木道には女の子が好きそうな小さな露店や明るい商店が並んでいる。僕らはその一角を曲がった。










水上レストラン『木馬亭』。
元は誰かの別宅だったのを、レストランと奥の一部をホテルとして開放したものらしい。

「アムロ、なあこれって不法侵入だろ?」

「だったら?」

「いいのかなぁ。カレッジで呼び出してもらった方が──」

ああうるさい。ここにきてキースがごね出した。

「そんなこと出来るかよ。毎週この時間ならあいつは一人でこの店にいるんだ」

「毎週来てるからって今日いるかどうかわからないじゃないか」

その情報源はお前の友達のコウだぞ。それに僕だって確認済みだ。今日もいるのは間違いない。

「落ち着けキース。アムロ、俺とキースはここで見張ってるから先に行けよ」

ごねるキースに手こずっているとカミーユが助け舟を出してくれた。サンキュと僕はカミーユに礼を言うとジュドーと『木馬亭』の塀を乗り越えた。
季節は十二月。
でもこの星に冬はない。あるのは春だけだ。だから蝶はいつでも舞っているし花も緑も絶える事はない。塀を無事乗り越えたところで、ジュドーが小声で話しかけてきた。

「なあアムロ、さっきそれって挑戦状って言ったよな」

今はポケットに入っている封筒を指差す。

「‥‥‥そうだけど」

ジュドーがにやりと笑った。

「ほんとはラブレターだろ。正直に俺にだけ教えろよ」

「しつこいぞ(怒)」

僕とジュドーは壁伝いに中庭を目指した。










緑の生け垣が厚く張り巡らされている。僕はその中を一人で歩いていた。最初のうちこそ潜り込むのに抵抗もあったけれどすっかり慣れてしまった。本当はいけないのだろうけど、まあ泥棒をするわけじゃないしこれくらいは許してもらおう。
いつ来てもそこは花でいっぱいだ。色とりどりの花と緑に囲まれた小さな庭は、宿泊客のためのプライベートスペースといった感じで、飲食も出来るようにと建物の外観と同じ白いテーブルと椅子が並べられている。この庭であいつは毎週どういうわけかひと時を過ごすんだ。
ジュドーとは生け垣の手前で別れた。あれ以上手紙の詮索をされたくなかったから、あいつには悪いけれど自分から見張り役で残ってくれて内心僕はほっとしていた。

「‥‥‥」

ああどうしよう。
さっきから僕の心臓は激しい脈を繰り返し打っている。もちろんあいつのせいだ。もうすぐ会えるかもしれないと思うと、僕の意思に反して勝手に心臓がバクバクしてしまうんだ。
僕は恐る恐る生け垣の隅からあいつを探して庭を覗き込んだ。

(いたっ)

途端に僕の心臓は悲鳴を上げた。
僕は溜息をつかずにいられなかった。‥‥‥胸が苦しい。心臓を鷲掴みされるってのはきっとこういう事を言うのだろう。切なくて、突然悲しくなってしまう。でもその苦しさが僕は嫌じゃなかった。
いつもの定位置にあいつが座っている。
僕から見えるのは横顔だけだ。それだけでもあいつの顔の良さが分かる。ああ、僕って面食いだったんだなぁ。それに僕の目はどうかしてしまったらしい。本を読んでいる難しい顔さえ様になってるって思うんだ。
心臓はますます暴走していた。このままいったらそのうち破裂するか目眩を起こしそうだ。

いけない‥‥。

今日はそんな状況から脱出したくて来たんじゃないのか?
眠れない夜を過ごして睡眠不足を耐えるより、男なら当たって砕ける道を選んだんだろう?
落ち着けアムロ。
こういう場面は何度も想定したはずだろう。
そう、深呼吸するんだ。
僕は生け垣から抜け出した。足下は相変わらずふわふわとして頼りないけれど。










ぱたり、と本を閉じる音がした。

「君は確か──」

「ア‥ムロ・レイです。覚えてないかも知れませんが‥‥‥ハロウィンパーティーに参加していたネェル・アーガマ校の」

見上げられる視線にどぎまぎとしながら名乗った僕に『ああ』とシャア・アズナブルはさほど驚かず答えた。

「知っているよ。良く覚えている。パーティの時私に突っかかってきていただろう」

「あれはっ」

さっきまでの僕の意気込みは消し飛んでいた。
全て僕のせいだというのですか。あなただって───。
そう思いながら言い出せない。

「あの時は失礼したね。私達もからかいが過ぎた。謝りに行こうかと思っていたのだが、思いあぐねている間に時期を逃してしまった」

「そう‥‥ですか」

「それで私に受け取れと言う手に持っているそれはラブレターかな?」

「ち、ちがいます‥。あのっ‥‥」

その時シャアの指が伸びてきて僕の頬に触れた。咄嗟のことに抵抗も出来ずにいた僕にシャアはふっと微笑みを浮かべた。

(ああ‥‥‥)

僕の手紙は‥‥、初めは怒りに任せた抗議文のつもりだったのに修正していくうちにそれが挑戦状になっていつの間にかなんだかわけの分からないものになってしまった僕の手紙は‥‥。
誰にも言えなかったけれど本当は‥‥。

「あのっ僕本当はっ」

と、その時、

「あらアムロ。ここでなにをしているの?」

「セイラ女史!?──どうしてここに??」

突然声をかけてきたのはセイラ女史だった。僕は慌ててシャアから飛び退いた。もしかして今の場面を見られてしまっただろうか。

「ロンデニオンに訪問の帰りよ。アムロはどうしてここにいるのかしら?」

「え‥と‥僕は」

なんて言い訳をしたら良いのだろう。そんな僕と女史の間にシャアが割って入った。

「私が招待したのさ。パーティの時少々失礼をしたのでね。忙しい所呼び出してすまなかったねアムロ君。改めてこちらからも伺わせてもらうよ」

動じない様子のシャアに頼もしさを感じて、僕はひそかに甘い溜息をついた。









足早に生け垣に潜っていくアムロを見送ると、ジュドーは素早くカミーユとキースに連絡を入れた。

「ばれてるんだけどな」

『そうそう』

『分かってないのはアムロだけだ』

隠しているつもりらしいがアムロの目の色を見れば一目瞭然だ。がつんと文句を言ってやるどころか、あのパーティー以来がつんと心を奪われているのはアムロの方だ。確かに最初は抗議を入れるつもりだったんだろう。しかし今じゃすっかり恋する少年の瞳だ。見ているこっちが恥ずかしくなるようなのぼせ具合だ。

『こういう場合友達としては応援するものかな?』

「うーん‥‥」

キースの言葉に長い長い沈黙が続いた。今の時代、同性だからという弊害は全くないがシャア・アズナブルという男はどうも胡散臭い。ひと癖もふた癖もありそうでこのままめでたしめでたしで締めて良いのかも分からない。しかしアムロを止められなかった以上、友の幸せを願う友人としては最後までつき合うしかないのだろう。

『なあ、パーティーの時のセイラ女史のあれ、怪しかったと思わないか』

カミーユの言葉に「お前もか」とモニタ越しに三人は顔を見合わせた。どうやら自分達は同じ疑問を抱えていたらしい。アムロがセイラ女史に憧れていたのを知っていてわざとシャアは突っかかるよう仕向けていた気がする。しかし今さらアムロにそれを話したところで彼は聞く耳持たないだろう。
だって、恋とはそういうものなのだろう?










「あら果し状?」

「恋文だよ」

すかさず訂正する。

「そう」

「せめてキスぐらいは許して欲しかったものだな」

セイラの突然の介入に、アムロは逃げるように去ってしまった。セイラがここにいる理由まで気が回らなかったのは良かったが、もう少し話がしたかったとシャアは思った。

「私がいなかったらそれだけで済んだか怪しいものね。今の顔アムロに見せたいわ。デレッとしちゃって」

「いいだろう。私だってそういう時はある。言っておくがパーティーの時以外小細工はしてないよ」

妹にお忍びで会いにネェル・アーガマに行った時、栗毛の小柄な少年が目に焼き付いてしまった。
彼をパーティーに連れ出してくれるよう妹に頼んだのは確かにこの自分だ。もう一度会いたかったからだ。しかしそれ以上の事は望みこそすれ何もしていない。時運に任せてこうなったのだ。シャアが毎週ここに来るのを突き止めたのは彼自身であり、生け垣から熱い視線を送って寄越すようになったのもアムロ自身の心情だ。

『シャア・アズナブル!!これを受け取って下さい!!』

そう言って差し出され受け取った手紙をシャアは幸せそうに眺めた。それから真面目な視線をセイラに移す。

「アルテイシア、今になって私の恋路の邪魔をしようというのではないだろうな?」

「まさか。許してなかったらアムロと会わせたりするものですか」

ただし、とセイラは付け加えた。

「私をだしに使うのは金輪際止めてもらうわよ。兄さん」










合流した僕らの帰りはのんびりとしたものだった。露店で買ったスナック菓子を回し食いしながらもと来た道を歩く。

「どうだった」

「ばっちりさ。がつんと言ってやった」

興味津々早速成果を聞いてくるキースに僕はにやりと笑ってみせた。実はまだ心臓はバクバクしていてそれどころじゃなかったけれど、もちろんこのことは秘密だ。

「ふうん」

「あ、カミーユは疑ってるのか」

「いや、決着がついたならいいじゃないか」

「そうそう、終わった事は深く考えないってね」

「なんかみんな突っかかる言い方だなぁ」

でもまあいいか。
シャアと話が出来たのはパーティー以来だ。僕の心は幸せに膨らんでいた。







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裏で250を取った雨野とりせ様のリクエスト
「シャアに惹かれる心のタガが思わず緩んでしまいっぱなしで、
回り(シャアから見てからすら)バレバレなのに本人は往生際悪くじたばたしている」お話。
でしたが、なんだか微妙に趣旨からずれてる気がします。
す、すみません〜〜〜!!
しかもすっごい仕上り遅っ!!
実は最初スパロボD設定で書いていたのです。
が、
どーにも出来がよろしくなかったので構想も新たに書き直しました(いいわけ)。
なおスパロボD設定話は仕上ってましたが本当によろしくない出来なので完全ボツです。



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笹螺尚さんのサイトで、裏250HITを踏んで頂きましたvお話は表仕様でv(笑)
もうね、アムロが可愛い可愛い!!(笑)めちゃバレバレ!!
カミーユやジュドーにまでラブレターだって突っ込まれてるのに挑戦状だの抗議文だの・・・
かーわーいーいー!(笑)アムロ可愛い!!
シャアも一目惚れして妹ダシにしてお膳立てするって話ですよ!!!
多分、茂みからひょこひょこ見え隠れするアムロの頭にシャアの口元は果てしなく緩んでいたと思われます(笑)
笹螺さん、本当に有難う御座いました〜〜v

 

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