夜の樹 |
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ボードのような光沢を放っていたスモークガラスの透明度が上がっていくのに従って、アムロの視界は広くなっていく。 「おい、シャア」 「別にスイートというわけではないから気にするな」 「気にするなって言ったって」 それなりの広さを持つ部屋はアムロだったら連れがいたとしても決して取らないような代物だ。調度品が年代物に見えるがそれも気のせいではないだろう。 「静かな場所が欲しかったのでね」 静かな場所なら他にもあるだろうと言おうとして思いとどまる。この男のことだ。それを言っても結局は自分のやりたいようにするのだろう。 「それより私は君が来てくれないのじゃないかとその方がひやひやしたよ。正直怖かった」 「──変なやつ」 アムロは小さく笑った。 「それで?」 「ああ、君さえ良ければ少し早いが夕食はどうかな」 時計を見ると確かに夕食には早い時間だ。だが一件で終わらないだろうことを考えると出掛けても良い頃合だ。その一方でシャワーを浴びたいな──。アムロの脳裏で呟く声があった。
(おい、街に繰り出すんじゃなかったのか) メモを残していくのならせめていつ戻るくらい書いていけば良いのに。しかたなく濡れ髪にタオルを乗せてソファに座る。 出来る事なら二人以上。パーティーであればこんな殺風景な景色も余興に華を添えられるだろうか。 「‥‥‥‥‥」 人は闇を恐れるのに何故こうも目を逸らす事が出来ないのだろう‥‥。
「‥‥眠ったのか‥‥」 語りかけているとも独り言とも取れるシャアの声。ようやく覚醒出来たのは、名前を呼ばれてからだった。 「悪い‥‥。寝てしまったらしい」 「疲れていたんだろう。すまない、起こさない方が良かったか」 「いや、今寝たら腹が減って夜中に目を覚ましそうだ」 「そうか」 時計を見ると十五分も経っていない。シャアを見ると急いで戻ってきたのか少し乱れた風体をしている。手にはさっきまで見かけなかった細長い包み。視線に気付いたのだろう。シャアが包みを持ち上げた。 「どうしたんだ」 「知り合いに前々から頼んでいたのがようやく手に入ったんだ。君と飲もうと思ってね」 地球産のワインだとシャアは言った。 「それより出ようじゃないか。タイミングを外すと市街地は混むからな。それに君は空腹のようだ」
「おい、今から酔っているんじゃないだろうな」 「酔ってなどいない。あぁ、アルコール以外になら酔っていると言ってもいいかもしれんな」 先程から気になっていた事を思いきってアムロはシャアに聞いてみた。
「アムロ」 部屋のドアを閉めると、アムロは応接のソファの上でシャアがのしかかってくるのを受け止めた。 「──君はさっき笑ってくれたが、あれは私の本心だよ」 「?」 「私の誘いに来るも来ないも、選択肢は君の手にあった」 シャアの指先がアムロのこめかみを優しくなぞる。 ここでなら抵抗出来ただろうに、抵抗‥‥しないのか───? アムロはシャアから視線を逸らした。 「‥‥今になって、それを言うのか」 抵抗がないわけないのだ。 「そうではない」 「シャ‥‥ア‥」 シャアの指が体内に潜るのを微かに身を強ばらせながらアムロは耐えた。吐く息が甘くなる。 「君を手に入れたなどとは思っていない」 下肢から生まれる感覚に耐えられずアムロはシャアの首にしがみいた。 ──だから、自分の拒絶が怖いだと? 「‥あっ‥‥はっ‥‥」 ──馬鹿を言うなっ そんな男がこんな真似をするものか。 「──くそっ」 アムロは毒づいた。 「うっ‥‥っ」 アムロは震える身体を自らシャアに下ろしていった。
「どうしてこんな場所選んだんだ」 「傷心を慰めるには、良いだろう」 ふざけた男だ。拒絶が怖いとほざいた殊勝な男がどこにいるというのだ。 「あんたの感情の波に振り回されるこっちの身にもなれよ」 自分を信じろとは言わないが、連絡を入れ、ここに来た自分の気持ちも考えて欲しい。 「あのワイン。ヤケ酒用だったのか」 「まさか。まあ君は価値を知らないからそう言えるのだろうな」 知るかっ、そんなもの。 「‥‥‥‥そんなに良い物なのか?」 「それなりには、な」 「ふうん」 「君への土産だ。私はまだしばらくは帰れないからな」 アムロは上体を起こした。隣のベッドの皺ひとつない白いシーツが目に痛い。どうやら隣は使わずに終わりそうだ。 「コロニー」 「え」 「‥‥早く、帰ってこいよ」 たとえそれがちっぽけなコロニーでも、優しく包む緑が恋しかった。 **********
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65000をカウントしました雨野とりせ様のリクエスト。 --------------------------------------------------- 笹螺尚さんのサイトで、表65000HITを踏んだ・・・かな・・・? というので頂いて参りました!! もうお話を頂いて、この読後感が凄く好きで、何度も何度も読み返しました〜v 「揺れる」などという抽象的なリクエストをしましたのに、 ホントに何回も捻って手元に還ってきた気分です!! 揺らめく二人の関係と、流されるアムロと浮ついたシャア。 ああ、なんて素敵。 「帰ってこい」ですよ、「帰ってこい」! 笹螺さんの、どこかのコロニーで暮らしているらしい二人の話好きなんですが・・・ そのお話の二人ですよ〜v しかもアムロが焦れるくらいシャアが煮え切らない話、好きなんです、私(笑) 笹螺さんのお話はいつも読む度にほぅ、と溜息をつかされるのですが、 そのお話を自分でリクエスト出来る日が来ようとは・・・(感涙) 笹螺さん、ありがとうございました!! |