**********
リラ
イ ト
どうも、私の記憶の中にある「彼」は相当に美化され純化されていたようだ。
いざ実物を目の前にして私は微かな目眩を覚えた。確かにあの夕闇の中で通じ合うものを感じ取ったように思ったのだけれど、それは所謂「美しい幻影」であり、脳内で、しかも恐らくは私一人だけの脳裏に映し出された願望の活動写真のようなものであったに違いない。
今現在私の目の前で、ファーストニュウタイプだという青年は何処か途方に暮れたように着ている支給品と思しき革のジャケットの裾を弄くっていた。それがまた子供の一人遊びのようで酷く勘に障る。自分の頭の中の記憶回路に対する信頼が一瞬で消滅した。
幻滅したかというとそうではない。彼は現に私の眼前で先程ただの輸送船で敵機を見事に沈めてみせたし、記憶にあるより身長も手足も伸び、それなりに大人びた顔もするようになっている様ではある。しかし、そもそも私の記憶している「彼」の映像自体が既に七年も前のもので、その後全く更新をかけられていなかったから私的レコードの中で「彼」はまだ十代の少年に過ぎなかった。
だったら一体私は一体彼の何にこんなに興味を減殺させられたのかというと、これはもう分かってしまえば単純なことで、私は私が彼を思うほど彼が私のことを気にかけていなかったことにがっかりしたのだ。喩えるならば少年が思春期の或る一定時期に年上の女性、文学的に言うのならばファム・ファタルに抱くような多分に憧れ含みの憧憬の眼差しのフィルター越しに、私はずっと「彼」を捉えていたに違いない。微細な玻璃硝子の欠片を拾い集めてはこつこつと組み上げ、歪んだ光線のスペクトラムを幾ら集めようとも、それによって結ばれた残像は勿論、歪んでいるに間違いはない。「彼」という個体へのプラジアリズムに責任はない。
女神にならば既に出会っている。これ以上私に信仰の対象は必要がない。なのに、どうして私は歯痒いまでにこうして「彼」の持つ磁場に惹き付けられ、誘蛾灯に誘われる哀れな羽虫のようにその周辺を卑しく飛び回らねばならないのだろうか。
それは多分、私の古傷は眉間にあって常にその存在感を主張し意識の一角を陣取るものであったのに引き比べ、彼の身体に残る傷が、これは後から彼自身の口から聞いたのだが―右肩の後ろ、彼の視線の届かないところに施されたものであったからに違いないと私は確信を抱いている。思い出したときに思い出しただけ痛むものと絶えず生傷で在り続けるものが等しいもので在るわけがなかったのだ。これは全く私の認識不足というものであった。私は「彼」にも同じように傷を着けたというその事柄だけで七年間も履歴効果のみで無為に満足していたのだから。
傷はまた、私にとってアムロ・レイという概念の拡張の可能性の極限を暗示するものであった。消してリライトしてもう一度再構築される新しい「彼」の無限の概念を果たして受け容れられることが出来るかどうか、己の器と懐の広さを試されているような気がするのは考えすぎに過ぎるのかも知れないが。
とにかく、端的に言うのならば私は失望した。「笑いに来た」のはむしろ「彼」をではなく私自身をこの壮大なるスペースオペラの中のファルスの一幕の単なる道化として笑い飛ばして仕舞いたかった事の裏返しに過ぎない。地球の重力で変形してしまったニュウタイプの波形から変質する前の元の姿を読みとることは困難である。それをいうのならば私はそもそも本当の「彼」という概念の真理を知っているのかという問答から議論を開始せねばならないのであろうが。どちらにしても私には彼に対して負っている負債が余りにも大き過ぎるような気さえしてくる。
以上の様なことをつらつらとたゆたう脳内の思考の海に惑溺しながら幾度も反芻していると、「彼」は不意に厭な顔をして私を見上げてきた。「やめてくれないかな、そういうの」琥珀色の挑むような視線はそう伝えているような気がしたが、実際には彼は何も言わず、私はぶるぶると憑き物を落とすように首を振った。どうやら意識はすっかり目の前の等身大の「彼」から逸れてしまっている。見たくないものは見ない、私の悪い癖だ。たった今目の前に存在するアムロ・レイも過去からの確かな実存の連続体に間違いは無いというのに。
どうも、今日の私の思考は随分な極論に走りがちな傾向があるようだ。修正される必要を感じる。
リラ
イ ト
**********
+++END.
|
昨日日誌で言っていた、アジカン(と略すらしいとボッソに聞いた)の「リライト」より。 |
軋んだ想いを吐き出したいのは
存在の証明が他にないから
掴んだはずの僕の未来は
「尊厳」と「自由」で矛盾してるよ
歪んだ残像を消し去りたいのは
自分の限界をそこに見るから
自意識過剰な僕の窓には
去年のカレンダー、日付けがないよ
消してリライトして
くだらない超幻想
忘られぬ存在感を
起死回生
リライトして
意味のない想像も君を成す原動力
全身全霊をくれよ
芽生えてた感情切って泣いて
所詮ただ凡庸知って泣いて
腐った心を、薄汚い嘘を消して
リライトして
くだらない超幻想
忘られぬ存在感を
起死回生
リライトして
意味のない想像も君を成す原動力
全身全霊をくれよ
【リライト】