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Chill out,
What you yellin' for?
Lay back, it's all been done before
And if you could only let it be
You will see
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朝、目が覚めるとそこには赤い糸が見えていた。
アムロは民間伝承になど詳しくなかったのでとりあえずえんやこら!と左手の小指に結ばれたそれを引っ張ってみた。
ずるり、と糸はアムロの足下に長く手繰り寄せられた。
どうにもこうにも固く結ばれていて、朝からあの器用なアムロが解こうとして幾ら格闘しても一向に解ける気配が無かったからだ。
だらだら長く続く糸の果てが知りたくて引っ張ってみたが、ずるずると永遠にたぐり寄せられるばっかりで足下には糸玉が出来そうなほど赤い糸が溜まってしまった。ハロが絡まって遊べそうだ。
切れないのかなこれ、とふと思いついてハサミや工具類を試してみたが、高々糸の癖に全く切れもしなければ細くなる気配もない。
「へぇ、いいなこれ。何で出来てるんだろう。アナハイム製の新素材か何かかなぁ?…寄り合わせてワイヤーケーブルにしたらガンダムとかに使えそうだなぁ。」
どこまでもオタクなことを呟きながら、アムロはつんつんと更に糸を手繰り寄せてみる…と。
するり、と糸の端がアムロの手の中に入った。どうも、どこにも繋がっては居なかったらしい。
しげしげと一体何で切断するのか分かるだろうかとその糸の切り口を見てもよく理解できなかったので、アムロはとりあえず現在のランニングと縞パンツ一丁という服装をどうにか人間生活を送れるものに整えてから外に出て原因を究明しようと思い立った。コンピューター解析にかけたら何か元素構造式くらいは分かるかも知れない。
思いながらクローゼットの方に向かうと、部屋のインターフォンが鳴った。
「はい?」
『おはよう、アムロ。私だ、クワトロだ。艦長から預かった書類を持ってきたのだが…。』
応答ボタンを押すと聞き慣れた声がしたので入って来いよと言いながら解錠した。金髪の美丈夫が書類を片手に部屋の中に入ってくる。
「朝っぱらから失礼する、パイロット編成のシフトで一個所変更して欲しい所があって…と、失礼、着替え中だったか。」
足を止めるクワトロに、軍服のシャツに袖を通しながらアムロが構わないからと苦笑した。
「男同士で着替え中もへったくれもあったもんじゃないだろ。…それより、どこを変えて欲しいって?」
「ここだ、ウッソ君とVガンダムを後方の増援の方に回して欲しいと…」
「えー、そこでV抜かれると痛いんですけど。あなたこのとき後方のチームキャプテンだろ?じゃ、ジュドーとZZ頂戴。」
「ZZ?ブライトに聞いてみないと分からんな。」
「んじゃーカトルとサンドロック。等価交換してくれないと痛いってば。はないちもんめじゃないんだからさー」
「νにこの間カミーユと開発していたハイパーヨーヨーを搭載してはどうかね?」
「ヨーヨーじゃないってのに!」
ぼやきながらジャケットを羽織るアムロはふとあることに気がついてクワトロを呼んだ。
「な、シャア。」
「なんだ?」
「あなたの左手の薬指から下がってるその赤い糸…何なのか分かるか?」
「赤い糸?」
クワトロがスクリーングラス越しに左手をまじまじと見つめ、次いでグラスを外して確かめた後、アムロの方に不審の視線を投げる。
「そんなもの、どこにある?」
「え!結んであるじゃない!!俺の左手にも、ほらほら!!」
言いながら左手をかざしたが、クワトロには見えないらしい。じっとアムロの左手を凝視した後、首を振った。
「失礼だが、私には見えないようだ。…アムロ、徹夜シフト続きで疲れているのではないか?」
「そ、そうなんかな…」
そういわれるとアムロに反論の台詞はない。もごもごと呻きながらもふと、クワトロの糸は短くてやはり端が切れていることを目に留めた。掬い上げて、切断面を見るがやっぱり何で切れているのか見当も付かない。自分の端を手繰り寄せて見比べてみるが、全く同じような太さの同じような物質に見えて、同じように斜めに切れた形跡はあっても、材料さえ見当がつかないままである。
エースパイロットの不可解な行動に、クワトロが焦った声をあげた。
「アムロ?…大丈夫なのか、本当に。今日はもう休んではどうだ?艦長には私の方から言っておくぞ。」
「いや、大丈夫…だと思う。」
言いながら、ものをいじくり回す癖のある赤味がかった鳶色の髪の青年はなんの気無しにその二本の糸の端を結んでしまった。
その途端。
「……え、へぇ?!」
「……アムロ?」
驚いた声を上げるアムロに余計にクワトロが不安になる。
アムロは本当に大丈夫なんだろうか…七年間連邦に軟禁されていた間にまさかロボ○ミー手術を受けて前頭葉を改造されていたりとか…。
アムロはアムロで心底驚いていた。結びつけた途端、二つの赤い糸は結び目が消えて一本に繋がってしまったのである。なんて不思議な材質なんだ!!
これいいなぁ、本当にガンダムに使えないかなぁと考えていて、アムロはふととんでもないことに思い当たった。
これ、どうやって切ればいいんだ?!
愕然としているアムロを君は今日はもう本当に寝た方がいい!とベッドに押さえ込み、ブライトにアムロは本日病欠の旨を伝えた後、クワトロはそそくさと部屋を後にした。
結果として翌日その赤い糸はもうどこにも見えなくなっていてアムロは安堵の息をついたが。
その後ひょんな事から同性であるクワトロ大尉とつきあい始める羽目になった原因だけは、やっぱりどう首を捻っても分からないままであった。
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「うーん、どうしてもここのパーツの接続が上手く行かないんだよなぁ・・・」
「どうした?アムロ」
設計図を開いて唸っているアムロの手元を、通りがかったシャアがひょいと覗き込んだ。
「あ、シャア。良いところに。あのさぁ、見てよこれ。νガンダムのここの所の部品の接続だけが上手く行かないんだ。上手に組み合わせようとしたら今あるケーブルでは耐荷Gが足りなくて・・・」
シャアがアムロが差しだした仕様書と設計図を見比べながら問題の個所を長い指でなぞる。その後で得心したように頷いた。
「うん?・・・ああ。この負荷ではいくらガンダリウム合金ワイヤーでも辛いだろうな。」
その言葉に、やっぱりなぁとアムロがわしわしと頭を掻いた。
「だよなー!!ああ、どうしようかなぁ。」
「こことここのムーブメントを逆にするしかないんじゃないのか」
シャアが暫く設計図を眺めた後、徐に口を挟む。
アムロほどではないとはいえ、彼もそれなりにロボット工学は修めている身である。
おまけに身近にいる同僚(ついでに恋人も)はどこを切ってもマニアマニアマニアガンオタの混沌の海。これで詳しくならない方が嘘みたいなもんである。
というより人並みより遙かに詳しいのだが、シャア自身は周りが余りにリミッターを振り切っているため、自分ではまだまだモビルスーツの仕様は無知だと思い込んでいる(責任が誰にあるかは言わずもがな)辺りが切ないくらいだ。
そのシャアの偏った知識に対する諸悪の根元・アムロが唇を尖らせた。
「そうだけどー、それは分かってるんだけどー、美しくないんだよー!その設計だと!今の装甲からかなりはみ出るんだよー!!外付けになっちゃうんだ!!」
シャアが子供っぽいエースの主張に苦笑するより先に呆れた顔になる。
「・・・実用性が先だろう。」
それを聞いてアムロが更にぷう、と膨れた。
「俺のνはあんたのサザビーほどごっつくしたくないー!!可愛くない!!折角装甲薄くしてるの台無しじゃない!」
「・・・・・・・おい。」
眉間に皺寄せるシャアのツッコミをものともせず、アムロは先程からずっと考えている疑問を口に出した。
「あー、何か昔どっかで見たんだよね、あなたの機体みたいな色のさ、すっごい丈夫なケーブル。アナハイムのかと思ったんだけど、カタログ取り寄せても色々調べてもどうしてもその素材見つからないんだよ。なんかさー、細い糸みたいなので赤くて柔らかくて、どんなに負荷加えても・・・って強度テストまではしてないから確かなことは言えないけど、結構な負荷でも切れなくて、あれ寄り合わせたら絶対!ν今より強くなるから!!」
暫くアムロの訴えを頭の中で吟味した後、シャアが恐る恐る口を開く。
「・・・・・今でも宇宙最強じゃないのか?君の機体は?」
その疑問に、アムロはさっくり即答した。
「もっとだって。」
いや、ていうか比較対照自体既に存在していないのだけれども。
シャアはここで譲ってはいつもの二の舞、と更に食い下がる。
「・・・・・・・・必要有るのか?」
既に宇宙最強の機体の強化をこれ以上してどうするのだろう。それくらいならシャアとしては改造してやりたい機体は他に幾らでもあった。
しかし。
「ある!俺が満足する!!」
エースパイロットのこの一撃であえなくシャアの常識論は撃墜される。
「ああ、そうか・・・しかし、そんな素材あったかな・・・」
説得は早々に諦め(アムロが拗ねるとそりゃぁ手に負えないのだ)、手っ取り早く話題を次に移そうとシャアが首を捻る。すぐに手に入るものならさっさと搭載してやった方が結局はロンド・ベルのためだ(決してアムロの為ではない)。
しかし、アムロは瞳を輝かせてけろりんと言い放った。
「開発してよ、ネオ・ジオンで。あなたそーゆーの得意じゃない。」
シャアが渋い顔をした。サイコフレームの開発とは訳が違う。
「しかし、素材のとっかかりも分からないのでは・・・」
「頑張ってよー、俺の為だと思って!!来月と再来月のやりたかった改造我慢するから!!」
この、アムロの問題発言に。
現役ネオ・ジオン総帥は、深く深く項垂れて溜息をついたのだった。
「・・・・・・・・・・アムロ、ネオ・ジオンの軍事費は君の小遣いじゃないんだが・・・・・・・・」
いつのまにやら恋人と言うよりはブライトからアムロの父親役を譲り渡された気分のシャア総帥であった。
しかし。
「あ、ちょっと待って、なんか思い出した・・・ああ、そうそう、結びつけたら一本に繋がるんだよ!!」
アムロが満面に顔を輝かせてぽんと手を打つ。
「それで俺もびっくりしたんだ!そうだそうだ、結ぶと結び目も消えるんだよ!すごい素材だと思わないか?!」
「結びつけると結び目が消える?!」
シャアが益々渋い顔をした。
そんなナマモノみたいな素材はネオ・ジオンではなくてむしろネルフの得意分野じゃないのか。なんだっけ、あのナマモノ秘密兵器。制御外れると暴走して敵味方関係無しに喰っちゃうとんでもなく傍迷惑な。挙げ句暴走してシンクロ率上がるとパイロットも溶かして取り込んじゃうとかいう危険すぎるやつ。
ララァには母になって欲しいがエヴァが母親はノーサンキューだな、などとなかなかエヴァスキーさんには失礼なことを考えるネオ・ジオン総帥に向かって、アムロは満面の微笑みを浮かべつつ言い放つ。記憶を奥底から引っ張り出してとても気分がいいらしい。
「間違いないよ、俺の左手の小指とあなたの左手の小指からぶら下がっててさー、絶対解けないし切れないし、これなんだ?とか思ってつい結んでみたらみょいーんって繋がってそのままになったんだもん。そういやあれ、次の日には見えなかったなぁ。一体どこに行ったんだろう。」
この発言を聞いて、シャアには遠く遠く記憶の底に一つだけ思い当たる民間伝承があった。
「・・・・・・(まさか。)」
くらり。
シャアは僅かな目眩を覚えた。
それでも彼は一応記憶の底を探って思い当たる節を考えてみたのだ。
そういえば、そんなことも在ったような気がする。なんとなく。
そういえば、確かあの後くらいからいきなりアムロと自分がひょんな事から急接近して気がついたら男同士なのに恋に落ちてつきあい始めていたような・・・
・・・・・・
・・・・・・・・・・・・
・・・そういえば、「ひょんなこと」の「ひょん」ってなんだろう、っていうネタが『勝手に改蔵』にあったな、などと余りの衝撃にシャアの思考も脇に逸れ気味である。
「ねぇ、シャア、あなたやたらめったら博識だからなんか知らない?そういう素材」
「・・・知っているような・・・知らなかった方が良かったような・・・」
「え!心当たりあるの!なになに?!」
「いや・・・きっと気のせいだろう・・・」
ははは、と力無く笑うシャアの思考の中で、結んだのはお前かアムローーーー!!という叫びがいつまでもリフレインが叫んでるしていたのはいうまでもない。
月下氷人の結ぶ縁が良かったのかどうか、この二人はこの後も末永く幸せに(それなりに)暮らしたようである。
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Why do you have to go and make things so complicated?
I see the way you're
Acting like you're somebody else gets me frustrated
Life's like this, you
And you fall and you crawl
And you break and you take
What you get and you turn it into
Honesty Promise me I'm never gonna find you fake it
*:*:*:*
**********
+++END.
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