プレアデス・リグレット

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《後編》


 更に数ヶ月が経過したある冬の日、遂にスバルは原因不明の熱を出して寝込んでしまった。必死で看病するシャアの献身にも関わらず、彼女を蝕む病魔は悪化の一途を辿っているようにしか見えなかった。暫くは小康状態で寝たり起きたりを繰り返していた少女が完全にベッドの住人となるまでに、そう大した時間は必要ではなかった。

 考え得る最高の医療技術に手を尽くさせたシャアがそれでも食い止めることさえできない病魔の進行具合に絶望を覚えつつあったある日、久しぶりに気分がいいからとベッドの上に起きあがっていたスバルが、近くの椅子に座って本を読んでやっていたシャアにふと思いついたように声をかけた。

「ねぇ、シャア、じこぎせいってどういうこと?」
「ああ」

 読んでいた本の一節を気にする少女に、シャアはできる限り平易な言葉で語りかけてやる。

「誰かのために自分の大切なものを捧げることだよ」
「そうか……」

 少女は呟いて暫く考え込んだ後で、シャアの顔を真摯な表情で覗き込んできた。

「シャア、わたしそのことばのいみ、むかしからしっていたきがする。ねぇ、わたし、シャアにいまからなにがしてあげられる? してあげられること、なにかある?」

 その突然の言葉に、シャアは思わず言葉を失ってしまった。

「……君は、自己犠牲など考えるより先に、体を治さなくては。そうしたら、私もスバルにして欲しいことを一生懸命考えるよ」

 しかし、少女はどこか思い詰めたようにシャアを見ながら首を振った。

「だめ、はやくしないとまにあわないって、ママにいわれたの」
「お母さん……?」

 シャアは再び言葉に詰まり、まじまじと少女の琥珀色の瞳に浮かんだ切羽詰まった色を見た。褐色の肌に生えるエキゾチックな黒髪は既に幾分艶を無くし、普段は考えないようにしている少女の病み窶れた様を際立たせる。そんな中、目だけを炯々と輝かせ、少女はシャアに迫った。

「うん、わたしのおかあさん。おかあさんがね、シャアのやくにたちさないっていうの」
「ば、……馬鹿なことを、言うものではないよ、間に合わない、などと……」

 シャアは自分自身のポーカーフェイスの仮面を取り繕おうとしたが、そこまでが精一杯だった。少女は既にこの世にいないララァと話をし、しかも彼女の魂に引かれているようだった。

(スバルを連れていかないでくれ、ララァ)

 そう思った瞬間、シャアの顔から仮面が剥がれ落ちた。

「スバル、……すまないでは許されないかもしれないが、私は知らなかった。君が大人になってはいけない体だなどと、知っていたなら君を……」

 しかし、そこで少女の細い指がシャアの手をそっと握り、止めどない悔恨の言葉を遮る。シャアが顔を上げ、こんな子供に愚痴めいた言葉を聞かせた事への後悔で再び表情を翳らせる。その金髪の男に言い含めるように、スバルは一生懸命言葉を紡いだ。

「シャア、いいの、わたし、おとなになりたかったの」

 言った後で、ごめんね、と少し笑ってみせた。

「ほんというと、ちょっといそぎすぎちゃった。はやくおおきくなって、シャアのやくにたちたかったの」

 少女の言葉を聞いて、シャアは思わず強く少女の手を握り返しながら叫んでいた。

「君は役に立つなど考えなくても良かったのだ! 君はただ、幸せになれば、それで良かったのに……」

 それだけで良かったのに、と言葉尻を途切れさせたシャアに向かって、スバルはなんだ、よかった、と曇りのない笑顔で微笑んだ。

「だったら、わたしもう、しあわせだから」

 言った後、付け加える言葉を探すように暫く首を捻って、一生懸命想いを伝えるようにシャアに向かって語りかける。

「シャアがいっぱいいっしょにいてくれて、しあわせだから、だから」

 そこでもう一度首を捻り、少女は記憶の中からシャアに出会ってから初めて覚えた言葉を引っ張り出す。彼女はこの言葉を短いシャアとの生活の中でそれこそ数え切れないくらい使ったが、今使うのがもっとも相応しいものであると今は少女にも確信できていた。

「シャア、ありがとう」

 シャアがはっと胸を衝かれたように顔を上げた。

「やさしくしてくれて、ありがとう」

 言い終えて、一仕事終えた気分でほっと息を吐いた少女は、しかし次の瞬間困ったように手を伸ばし、男の白皙の頬に触れた。

「シャア、なかないで。……かなしいの? ありがとうっていったのに、かなしいの?」

 困ったように言われ、シャアは腕を伸ばして少女を抱き寄せながら、いや、と囁いた。

「教えてあげよう、人間は、嬉しくても泣けるのだよ、……私も幸せだ、ありがとう、スバル」
「よかった」

 少女は一言言い置いて微笑み、シャアの胸の中でそっと瞳を閉じた。閉じた瞼の向こうで、自分によく似た女性が微笑んでいるのを見て、得意そうに言う。

(ママ、わたし、シャアにちゃんとありがとうっていえた。ありがとうって、だいじであたたかいことだって、シャアがおしえてくれたから、ちゃんとシャアにもいえたよ、ねぇ、ママ)

 そこで少女は思いだしたように瞳を少しだけ開けて、譫言のように呟いた。

「そうだ、パパにも、ありがとうって、いわなくちゃ、……わたしを、つくって、くれて……」

 そこまで言って、凍り付くシャアを置き去りにするように眠りに落ちた少女は、短い命の最期を燃やし尽くすようにしてシャアの心を温め、それきり二度と目を覚ますことはなかった。


■ □ ■ □



 親衛隊員のギュネイ・ガスは真夜中に突然総帥公邸に呼びつけられたことに不審を抱きながらエレカを運転していた。

「なんだっていうんだ? 誰にも見つからずに出てこい、なんてさ」

 呟いた少年は辿り着いた総帥の公邸で、シャアが腕にシーツにくるまれた少女の亡骸を抱いて出てきたことに思わず言葉を失う。シャアは抑揚のない声で少年に秘密裏に小型艇の用意をするよう命令を下した。

「ギュネイ、手伝え。彼女の亡骸を秘密裏に処分する。……ニュータイプ研究所の人員にも、無論連邦の輩にも、スバルの灰の一欠片も渡しはしない」

 言葉の最後は独り言に近かったが、鬼気迫る総帥の表情に完全に呑まれた少年は黙って頷いていた。有無を言わせない迫力が今のシャアにはあり、ギュネイ如き若造が口を差し挟めるような状況ではなかったのだ。

「突然籠の中から連れだして、つかの間だけ夢を味合わせて、今また手厚く葬ってもやれないとは」

 ギュネイを使って火葬と宇宙にその灰を散骨する手筈を整え、やり遂げながらシャアは己を嘲るような口調でそう呟いていた。暗い宇宙の中では、灰になったスバルの骨の欠片は肉眼で確認することすらできない。永遠に宇宙を周回する星々の屑の一つになれ、そしていつかはその名前の通り若々しい新しい星となって戻ってこい、と祈りながら、シャアは心の中で一つの昏い決意を固めていた。

「自己犠牲、か。……」

 そう呟いて星空から目を逸らし、シャアは硬く拳を握り締めた。不安そうに側に着いていたギュネイをご苦労だったと返して一人になると、シャアはスバルの痕跡を私邸から消し去るために片づけを始めた。最早、己の為に彼女との想い出の感傷に浸る行為などすら一瞬たりとも許せないくらい、心の中で暗い炎がちろちろと燃えさかり始めている。

「連邦政府もネオ・ジオンも、結局は同じか。人間を食い物にして、生き血と怨嗟を吸い上げて糧にしている」

 言った後、シャアは汚らわしいものでも眺めるように己の両手を見た。

「そして、私こそがその組織の長だ、滑稽なことだ。それなのに、目をかけた子供一人救ってはやれんとは」

 言うと、シャアは再びその両手を拳にして握り締め、低い声で静かに呟いた。

「……私は私自身をも含め、人類の革新を食い物にする人間達を粛正する」

 そのシャアの密やかな決意を聞いていたものは、この地上には誰一人として存在していなかった。
 後日、シャアは嘗てララァ・スンと出会った真っ白な小さな花をつける沙羅双樹の咲き誇る土地に、小さな墓を建ててそこにスバルの名前を刻んだ。

「いつか必ず君の父親を連れてくる、そして君の名前を呼ばせるから、君の言葉を伝えるから……。その日まで安らかに眠れ、スバル・レイ・スン」

 墓の前で頭を垂れて呟くと、シャア身に纏っていたはネオ・ジオン総帥の華麗な衣装を翻して歩き始めた。二度と地球には帰らないことを決意したその足取りに、もう微塵も迷いはなかった。


■ □ ■ □



 アクシズが地上に墜ちることが回避された後、νガンダムの搭乗者でもあったアムロ・レイは、田舎町の病院の片隅でゆっくりと目を覚ました。左右を見回すと、命の遣り取りをしていた筈の宿命のライバルの黄金に輝く頭が目に入って思わず瞠目する。

「シャアっ……!」

 叫んで身体を起こそうとしたアムロは、全身に走った鈍痛に呻いて再びベッドに沈没した。その様子を呆れたように見ていたシャアが、静かな声でアムロの症状を告げる。

「そう大袈裟に叫ばないでくれたまえ、怪我は打ち身くらいだそうだ。つくづく運のいい男だったな、貴様も私も」

 シャアの言葉を聞いたアムロは、シャアの腕に撒かれた包帯に目を遣る。その後で、やや引きつった調子で尋ねた。

「あんたは?」

 シャアは暫く口ごもったが、直ぐに不敵な微笑を浮かべる。

「私か? お陰様で少しの火傷と左腕の骨折で済んだ。お互い大気圏から堕ちたというのに、嘘のようだな」

 シャアは包帯を巻いて肩から吊った片手を翳すと、アムロに向かって早く怪我を治したまえと言った。

「君と、行きたい場所があるのだ。そこまで付き合っては貰えないか、アムロ・レイ」

 突然のシャアの申し出に、アムロは横たわったまま目をぱちくりとさせる。

「行きたい場所だって……?」
「ああ」

 頷きながら、シャアはアムロがふと見せる表情がスバルが嘗て見せていたものと非常によく似ていることに気付いて、アムロの顔から視線を逸らしてしまった。自分自身が生き残ってしまったことに忸怩たる思いはあるが、アムロ・レイと共に生き残ったことは正に嘗て彼が大切にしたいと思いながら腕から擦り抜けてしまった二人の少女の意志のような気がしてならなかった。

「君に紹介したい、人が居るのだよ」

 そう言ったシャアの声はほんの僅かに震えていたが、アムロの方はそんなシャアの心の動きには気付かず、今更シャアが自分にどんな相手を紹介したいのだろうかと、そればかりを不審に思っていた。


■ □ ■ □



 カレンダーが捲れるほどの充分な時間が経って、長距離の移動にも耐えられるほどに体力の回復したアムロを伴い、シャアは沙羅双樹の咲く土地を目指して旅立った。
 容赦のない気候を保つ熱帯地方の旅は空調のコントロールされた宇宙での生活に慣れた二人には厳しいものがあったが、何かに憑かれたように自分を連れて行こうとするシャアの気迫に呑まれ、アムロは生き残ったこともシャアのことも連邦軍に報告することもなく、男と二人で旅を続けていた。
 何度か一体自分を誰に紹介したいのかシャアに尋ねたこともあったが、シャアは多くの場合ただ黙ってアムロの顔を観察するように見つめるだけだったので、アムロもその内に何となく聞き辛くなり、とにかく目的地に着けば分かるだろうとそう己に言い聞かせ続けていた。

 そして、シャアは遂にあの日人類の粛正を誓った丘の上に辿り着いた。ここだ、と言われたアムロは、周囲に咲き誇る白い花と、その間から射し込む光に照らされた小さな墓標を見つけて息を呑む。

「墓、か? 一体、誰の墓だ、子供のようだが……」

 生没年を確認して訝しげに言うアムロに向かい、シャアはゆっくりと言葉を紡いだ。

「君に紹介したいのは、彼女だ」
「彼女、って……この墓の中の人なのか?」

 流石に物故者だとは思っていなかったアムロが驚いた声を上げるのに、シャアはそうだと頷いて、ずっと心の中に仕舞っていた言葉を何も知らない青年に向かって告げた。

「君の、……君の子供の墓だ、アムロ・レイ」

 それを聞いて、アムロがぎょっとしたようにシャアを振り向く。

「俺の、子供だと?」

 当然だが信じられない、という表情をしたアムロに向かって、シャアはただそうだ、と頷いてみせた。

「君と、ララァの娘だ。……信じられないのも無理はないが」
「俺と、ララァの……」

 シャアの言葉をそのまま呆然と繰り返し、アムロは恐る恐る小さな墓に近付いた。そのアムロの背中に向かって、尚もシャアの説明が続く。

「そうだ。一年戦争の後にフラナガン機関のデータを得た連邦政府は、ララァ・スンの冷凍保存していた卵子を、君のものと掛け合わせることを思いついた。生まれながらの純血種のニュータイプの誕生だ」

 言いながら、シャアは自らもその小さな墓に近付き、久しぶりだと声をかけた。

「私はどうしても、ララァの子供をそんな風に扱われるのに我慢がならなかった、なので彼女の存在を知ったその時に連邦軍の研究所から秘密裏に彼女を連れだした、しかし……」

 男はそこで一旦言葉を切り、未だ思い出すと胸の痛む記憶をそろそろと話し始める。

「……しかし、人工授精と冷凍の卵子が拙かったのか、それとも君とララァの遺伝子の相性が良くなかったのか、彼女は大人になるまでは生きられない運命で、助け出してから間もなく永遠の眠りに就いてしまった。……無論、君に報せる手段も時間も無かった」

 シャアの言葉を呆然とした面持ちで聞いていたアムロが、そこで初めて言葉を発する。

「ここが、その子の墓だというのか?」
「そうだ」

 頷いたシャアは、アムロが墓の前の地面にそっと触れるのを見て、再び口を開く。

「その墓の中に彼女の亡骸はない。死後も研究材料にされるのが嫌だったのでね、亡骸は灰にして宇宙に撒いてしまった。無論、データも全て私が破棄したから、彼女が存在していた記録は宇宙の何処にも存在しない」
「存在しない?……俺も知らないのに? 会ったことがないのに? 見たこともないのに?」

 全く身に覚えのない娘の、変わり果てた姿との対面に動揺したように激した声でシャアに食ってかかったアムロに向かい、シャアはやや皮肉を込めた調子で返事をした。

「確かに、君は知らなかっただろう。知ろうともしていなかっただろう。採取された細胞の行く末など、気にもしていなかっただろうね。しかし、彼女は存在していたのだよ、確かに」

 ロンド・ベルにアムロが参加した頃に彼が完全に敵に回っていなければ、会わせることも可能だったはずなのに、という悔いが再びシャアの心に浮かんできて、そこでシャアは思わず目を閉じる。……アムロに恨み言をぶつけても仕方がない、スバルの伝言を伝える方が先だと己に言い聞かせ、大事に肌身離さず持ち歩いていた一枚の写真をアムロに差し出す。

「一枚だけ、写真がある。見せてあげよう、これが君の娘だ」

 出された写真をアムロは穴が開くほどに見つめた。見る見るうちに少女によく似たアムロの琥珀色の瞳が涙で覆われていく。

「……俺の、俺と、ララァに娘がいた……」

 言葉を失ったまま褐色の肌の少女の笑顔の写真を食い入るように見続けるアムロに、シャアは彼女の名前を教えようと口を開く。
「名前はスバル・レイ・スンという。研究所では名前がなかったので、私がつけさせてもらった」
 シャアの言葉を聞いて、アムロがハッとしたように顔を上げた。

「俺の名前をつけてくれたのか?」

 アムロの言葉に、シャアは当然だという風に頷いた。元々、少女が希望するなら本当の父親であるアムロの所に帰してやりたいと思っていた位だから、シャアにとっては当然のことだった。

「ああ、君とララァの子だろう」

 当然のように言うシャアのことがアムロには信じられなかった。言葉の調子や、言っている事から推測するに、シャアは自分とララァの娘を、恐らくはララァの娘だからという理由が一番大きいだろうが、大切に可愛がってくれていた様子なのだ。
 それなのに、情の移っていたはずのその子供を帰すつもりだったという事がアムロには俄に信じられなかった。シャアを評して純粋な人だ、と言ったミライの言葉がやっとアムロの中で腑に落ちた気がした。

「そうだけど、……」

 そこで言い淀むアムロの目頭にまた熱いものが滲む。今や完全にシャアに対する殺意や敵愾心はアムロの中から消え去りつつあった。

「俺は、こんな子供が自分にいたことさえ、知らなかった……のに」

 つかえながらやっとそれだけを言ったアムロに、シャアは自分達があのアクシズから地球に引かれて墜ちるとき、自分にはスバルの励ますような声が聞こえていたと言うことを告げようかと思ったが、言いかけたところで思い止まった。優れたニュータイプであるアムロならば、その内スバルとも無意識に気持ちを通じ合える時が来るだろう、ならば彼女から直接聞かせて貰えばいいと思ったのだ。
 彼女に助けられたのかもしれない、などということは。
 シャアはアムロの嘆く姿を黙って暫く眺めた後、殊更ゆっくりとした口調で口を開いた。

「名前を呼んでやってくれ、アムロ。それが彼女の、スバルの願いだった」

 促されるままに、アムロが少女の名前を呼ぶ。最初は実感が湧かなかったのだろうが、名前を繰り返す内に段々と少女の存在が胸の中に形作られて来たのだろう、涙混じりに少女の墓石に向かって呼び掛けるアムロの肩に、男はそっと手を置いた。

「私はね、アムロ。君を許せないと思っていたが、殺すことはできなかった。なぜなら彼女が君に会いたいと言っていたからだ。私は、必ず君を彼女の所に連れてくると誓ったのだ」

 そして、シャアは涙に濡れた顔で自分の方を振り向いたアムロに、あの日少女から伝えられた最後の伝言を告げた。

「つくってくれて、ありがとう、と。スバルはそう言って死んでいったよ」

 それを聞いたアムロはシャアの腕を掴んだままずるずると地面に崩れ落ち、ぎゅうと殆ど縋るように最後にシャアの両手首を強い力で握り締めた。

「どうしてあなたは、こんなにも死んでいく魂に惹かれるんだ……」

 シャアが言った瞬間、アムロには彼を護るようにシャアの側で戯れる少女が、アムロに向かって微笑んだように思えたのだ。
 これは、とアムロは無知だった己への哀しみの中で決意を固めていた。これはきっと、自分の娘はこれだけでは許してくれないだろう。きっと、その母親も。彼女達は間違いなく、彼を、シャアを守るために自分をこの世に残したのに違いない。
 そう、死に逝く魂に惹かれ、このままではアムロをスバルの墓に連れてきたという目的を果たした後で少女の後を追いかねない男を、この世に留めるために。
 一頻り俯いて涙を零したアムロがよろよろと立ち上がるのを待っていたように、シャアが赦しを請うように青年に向かって告げた。

「とても……私はとても、彼女のことを愛していたよ、アムロ・レイ」

 呟くように言ったシャアに向かって、アムロは彼女だってあなたを愛していたよ、母親に負けないくらい、と涙を拭いながら告げた。

「俺とララァの娘なら、小さくてもいっちょまえにあなたのことが好きだったさ。間違いない」

 アムロの言葉に、シャアが不安そうにアムロを見遣った。

「そうだろうか」
「そうだとも、父親の俺が言うんだから、間違いないよ」

 胸を叩いて請け負いながら、アムロは金髪の男が自分はここでこの墓の世話をしながら暮らしていくと言い出すのを聞き、案の定だよ、と段々通信がクリアになってきた娘の意識に向かって語り掛ける。

(心配しなくても、大丈夫。この人は俺がもう、死なせやしないから)

 それだけが今はもうこの世にいない血を分けた少女に向かってアムロのしてやれる唯一のことであるということを寂しく思いながら、青年は金髪の男の向こう側で花を落とす沙羅の木を見上げた。
 花々の間から、弾けるような少女の笑い声が木漏れ日に混じって零れ落ちてきたような気がして、アムロは泣いて腫れぼったくなった目を細め、どこまでも抜けるような青い空を見上げた。

 どうやら、この土地はこれから本格的に一番暑い季節を迎えることになりそうで、アムロは空と同じ澄んだシャアの青い瞳を思い、自分達を永遠に見守って欲しいと天の娘達に向かって密かな祈りを捧げたのだった。







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+++END.

 

 

パラレルなお話でしたが、最後は一応ハッピーエンドで。
これでもシャアムとか言い張ってみるんですが(笑)
書いている内はすごく楽しかったですよ〜。
もうちょっとバッドエンドのつもりでしたが、意外に幸せだったなー・・・。
お付き合いいただきありがとうございました!

リクエストしてくれた大神さんもありがとう!(笑)

 

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