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「こっちへおいで」
手招きをされたので、キッチンで部屋を暖めるついでに紅茶を入れようと湯を沸かしていたアムロは振り返って首を傾げた。
「シャア?」
「ちょっと、こちらに来てくれないか」
問いかけに要請で返され、暫し迷った挙げ句、言い訳代わりにコンロの火は点けたままでアムロはソファの前に座ってテレビに見入っていた筈の男の所まで歩み寄った。
「今、紅茶いれようと思ってたんだけど」
「ありがとう」
言いながら、男が腕を広げる。
意図が汲み取れなくて、アムロが躊躇った声で名前を呼んだ。
「シャア?」
「アムロ」
広げた腕の意味は抱擁だろうが、でも、なんで?
「火、点けたままだし」
「お湯が沸くまでに離すから」
本当だろうか、とかなり疑わしく思いながら、なんだかんだ言いつつも甘いアムロはひとつ溜息をついて男の腕の中にするりと入り込む。
「ちょっとだけだぞ?」
膝の上に腰を下ろしながら言えば、わかっている、と嬉しそうに囁きながらぎゅっと抱きしめられた。
「…なんなんだよ、急に?」
「うん―――…」
歯切れが悪い。
大方照れ臭いのだろうが、大型犬の耳や尻尾が見え隠れしそうな勢いでアムロの頭に頬ずりをするいい歳の男をくすぐったい、と窘めながら、アムロも金糸の頭に手を伸ばす。
「言えないの?」
「言いたくないんだ」
ふぅん、と少々意地悪くアムロが呟き、滑らかな手触りの黄金の髪に差し込んだ手で梳きながら、間近に迫った形のいい耳に囁く。
「言ってくれないと、新年のキスはお預けにするけど?」
「………」
ぴくん、と耳が反応する。
黄金の毛並みの男は、暫し迷ったようであったが、諦めたように口を開く。
「いや、」
優美な指先が持ち上がり、退屈な正月番組を垂れ流し続ける画面を指差す。
「さっきから、カウントダウンのイベントの特集をやっているのに、カップルばかりで、その」
「俺達だってものっすごくあり得ないくらい珍しく二人で年越ししてるじゃない」
「それは分かっているけれど、そうじゃなく」
「なに?カウントダウンとか行きたかった?でも、あなた姿見せると大騒ぎになっちゃうじゃない」
「それは君も同じだろう」
一通りうだうだと益体もないことを言い合った挙げ句、今度もシャアが折れる。
「だって、…なんとなく、…だが。悔しいじゃないか」
「はぁ?」
「―――…分からないなら、いい」
アムロが思い切り不審な顔をすると、シャアは遂に拗ねてしまったらしい。
紅茶の湯が沸いてしまうぞ、と邪険に腕の中から追い払われそうになって、ふとアムロは気付いて、吹き出しそうになった。
「ね、もしかしてあなた、対抗意識?」
「画面の向こうのカップルばかりにベタベタ見せつけられる道理はあるまい」
「や、だって向こうに俺達見えないし」
「見えないからいいんじゃないか。誰が私に甘えるアムロを他人に見せたいものか!!」
最後の方の口調は遂に照れ隠しなのか、不機嫌そのものである。
ニヤニヤ笑いを浮かべる口許を隠しながら、アムロが浮かしかけた腰を再び下ろし、シャアの青い瞳を覗き込んだ。
「いつも思うけど、あなたって結構乙女ちゃんだよね」
「……せめて、ロマンティストと言ってくれないものだろうか」
「キスしてあげようか?」
「――――…別に」
「無理しちゃって」
「してなどいない!」
取り敢えず、二人の間の力関係は変わらないまま翌年に続く。
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...end.
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