無声慟哭

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(そして今、ここで。私自身のことについて語ろうと思う)

(この引き裂かれそうな二つの心を、魂をどうか見ていて欲しい)

(君の、ただ一人君の前でだけ、私は一人の修羅であるのだ)

(そこで、君が見ているのならば、私は修羅でもいられるのだ)



■ □ ■ □



 アウドムラは、静かにアフリカ上空を航行していた。クルー達の何人かは既にダカールに入り、議会工作に勤しんでいる筈であった。

「いよいよだな、『クワトロ大尉』」

 背後から声をかけられて、金髪の男は憮然として振り返る。想像した通り、そこには鳶色の髪の毛の青年が立っていた。

「ああ、アムロ大尉。やっとここまで来たと思うと、臆病者のように膝が震えるね」
「あなたらしい冗談だな」

 言いながら、アムロ・レイは二つ手にしていたパック入りの飲料の片方を男に手渡しながら、それで、と聞く。

「本当に俺の機体に乗っていくのかい?」
「勿論だとも。いざとなったら操縦桿を奪い取って、君に代わりに議会に行って貰うつもりだからね」
「こらこら、笑えないジョークは止めろって言ってるだろう?」

 アムロが軽くクワトロの肘の当たりを小突くと、クワトロはあながち冗談ばかりというわけでもないのだがね、と苦笑した。
 再会してすぐはどこかにぎこちなさが残っていた二人であったが、一旦話を始めると、同じ釜の飯を食ってきた仲間の絆は強く、それほどに危ぶむ事もなく元通りに話せるようになっていた。

「ジョークなどではない、私は今でも、エゥーゴの代表には君が相応しいと思っているのだよ。―――君は、本当に、宇宙には、まだ?」
「くどいな、行かないって言っているだろう?」
「しかし、ホワイトベースに居た頃の君は……」

 言いかけたクワトロは、アムロの些か以上に剣呑な視線に気付いて口を閉ざした。気安さに紛れて、踏んでは行けない地雷に足を掛けてしまったらしい。

「……済まなかった、私が言うことではなかったな」
「ああ、そうさ。あの時あなたが俺達と一緒に来ていれば、こんなことにはなっていなかった筈なんだからな」

 自業自得というものだよ、とアムロは低い声で呟き、体調だけは崩すんじゃないぞ、と付け加えた。

「あなたは、いわば俺達、神輿を持たない者達にとっての掛け替えのない切り札なんだから。誰よりも、スペースノイドに対して、ね」

 重々しいご託宣を下すかのようなアムロの言葉を聞いて、クワトロは低い声で呟く。

「ブレックスが」
「なんだ?」
「ブレックスが、私の素性を知っていたとは夢にも思わなかった」
「ああ」

 アムロは苦笑して、手にしていた空になったパックを握り潰した。水分補給と各種サプリメント入りの飲料とケースに書いてあったが、シャイアンの基地で散々に肥えた舌はどうにもこの合成的な味には慣れない。

「それこそ、蛇の道は蛇というやつだろう。俺だって、初めて知ったときは驚いたさ。まさか、あなたが……」

 言いながらじろりと不穏当な目つきで睨まれ、今度はクワトロが苦笑する番だった。

「やれやれ、どこまで行ってもこの血脈の呪いからは逃れられんということか」
「言っておくが、初めにその血統の呪いとやらに引き寄せられたのはあなたの方だ、それを忘れてくれるなよ」

 言いながら、アムロが射抜くようにその琥珀色の差す瞳でじっと己を見つめてくるのに、クワトロがほろ苦い思い出を胸の中に去来させながらゆっくりと首を振る。その後で、ふと思い出したように眉間に刻まれた深い古傷に指で触れる。

「私には、残ってしまったよ」

 君のはどうだ、と問われ、アムロは肩をすくめた。

「今ここでお見せできないのが残念なくらいだよ」

 そうか、とクワトロは呟き、青年の服越しに見通すかのように、恐らくは対の古傷が残って居るであろう右肩をじっと見つめた。
 アムロはやや居心地が悪そうにしたが、それだけだった。

 代わりに、もう七年も前に、自分達が乗っていた、木馬と呼ばれるあの白亜の船の中で最後に起った出来事を思い出していた。


■ □ ■ □




 崩れ落ちる要塞の中で、アムロはホワイトベースまで残った人員を導くために、開花したニュータイプとしての能力を最大限に発揮させていた。
 そして、あらかたのクルーを誘導して退避させた後で、何故か敵であるジオン兵の残党と合流しようとしているシャアの姿を見つけて愕然とし、青年を必死に引き留めに掛かっていた。

 おかしいと思っていたのだ。寄港したサイド6で出かけた際に、車のエンジントラブルがあって、と一人遅れて集合したシャアは、その後どことなくぼうっとしている事が増えた。
 おかしいおかしいとアムロを始めとするニュータイプ勢が思っているうちに、敵方に組する褐色の肌の女神に出会ったのだと密やかに告げられた。

 最後の戦場で、孤独な魂を抱えていた彼女はアムロと意識を同調させ、納得して消滅したように見えたのに、―――いつの間にか、シャアの心も道連れにしていたらしい。

『シャア、行くな、行くなよ! あんたは、あのララァって娘に魅入られているんだ、そっちに行ってもララァは居ないんだよ!』
『しかし、あちらから、私を呼ぶ声がするのだ。私が必要だと、誰かがそう言っている! もしかしたら、ララァかもしれない』
『ララァは死んだだろう、あなただって見てた、俺が殺したんだ!不吉な予感がするんだ、シャア、思い止まってくれ』

 ともすれば、この長く過酷な戦場に置いてずっと兄代わりに慕っていた青年の背に向け、少年は必死に懇願した、が、金髪の青年は首を振った。

『アムロ、ホワイトベースで君のような仲間に出会えて、私はとても嬉しかった。しかし、私はもう、行かねばならない。ザビ家が滅びて、今、ジオンを導く者は誰もいない―――誰も』
『だからって、あなたが行くことはない! なにもあなたが人身御供になることなんて、ないんだ!』
『アムロ、分かって欲しい』
『分からず屋は、あんたの方じゃないか!』

 思い余ったアムロは、銃を引き抜いてシャアに突きつけた。

『行くんじゃない、撃つからな。本気だぞ、僕は本気だ! 僕が帰る場所にはもう、誰一人として欠けちゃいけないんだ!』
『アムロ、君は』

 愕然とした表情のシャアに向け、溢れる涙を拭う事さえせずにアムロは叫んでいた。

『ジオンの人間だけが、あなたを必要としているだなんて思うなよ! ふざけるな、僕はみんなと、ホワイトベースに帰るんだ!』
『君には沢山仲間がいるだろう。ホワイトベースの仲間達が』
『他人みたいなことを言うなよ、あなたは! それじゃあ、あなたはどうなるんだ! あなただって僕の大切な仲間じゃないか』

 ここまで一緒に戦ってきたのに、と涙混じりに言われて、シャアは苦悩するように眉間に皺を寄せた。

『それでも、……私は、誰か一人は、選べないんだ』

 許してくれ、アムロ。言葉と同時に、アムロの手から拳銃が弾け飛んだ。シャアの手には壁に掛かっていたと思しい、対になった抜き身のサーベルが握られていた。


『君の知ったシャア・アズナブルは死んだ、このア・バオア・クーで戦死したのだ! 次に見かけたら、それは修羅道を往く亡霊だとでも思って、殺してくれても構わない』


 咄嗟にアムロの手も残されたもう一振りのサーベルを掴む。堪えきれない涙でヘルメットの中が霞んで行く。ぎりりと奥歯を噛み締める。もう、どんな言葉を尽くしても決してこの男の事は止められないと、本能が感じ取っていた。

『だったら、そんなに生きたまま亡霊になりたいんだったら、苦しまなくていい。今すぐここで、僕がこの手で、―――……!』

 剣戟の音と共に火花が散り、つい先程まで同じ艦のクルーとして共に命を懸けて戦っていた筈の二人の間で、お互いの行く末を決める激しい戦いが始まった。

 その戦いは、今なおアムロの肩とシャアの額に刻まれた生々しい傷跡として、禍根を残し続けるものとなっていった。


■ □ ■ □




「あの時には」

 アムロの言葉に、同じように過去の事を思い出していたクワトロがふと我に返る。

「あの時は、俺には何も出来なかった。そしてあの後も、何も出来なかった。この間、初めてあなたを見たときは、過去の亡霊が甦って出てきたのだと、信じて疑っていなかったよ」

 アムロが、ニュータイプの能力を開花させた事によるシャイアンでの長きに渡る不当な軟禁生活から解放され、カラバの面々と合流したその場に丁度居合わせた金髪の男は、これもまた巡り合わせというものだろうな、一年戦争の時、たまたま同時期にサイド7に居たこともね、と小さく笑う。
 その後で、些か真面目な表情に戻り、アムロに問いかけた。

「再び変節した私を臆病者だと思うかね?」
「いや。あなたが今でもアクシズにいたら、俺はあなたをいつか、殺す羽目になっただろう。あの星は、あなたには不吉なんだ」
「―――確かに、凶星ではあったかもしれないな」

 七年前と同じ事を口にするアムロに、クワトロは静かに呟いた。
 アムロにも他の誰にも告げる気はないが、この七年は、彼をして再び故郷よりも連邦軍の土を踏ませるほどに、優しいものではなかったのだ。
 覚悟を決めて行った筈のアクシズには、魑魅魍魎のような権力の妄執ばかりが氾濫し、嘗てのジオンの御曹司の居場所等、既に一欠片も残っていなかった。それを確認しただけの、七年の年月だった。

「それでも、莫迦だと思うかね。私は、あの時の選択を後悔してはいないのだよ。君を傷つけ、仲間を見捨てた男が何をか況わんや、といったところかもしれないが」

 クワトロの告白じみた真摯な言葉を聞いたアムロは、充分に時が行き過ぎたことを示すかのように、ただ静謐に微笑んでみせた。

「分かるような気はする。だから、今回だって連邦議会の壇上に立つ気になったんだろう?」

 ホワイトベースに居た頃から知っていたよ、あなたはそういう人なんだ、優し過ぎるんだよ、何事に対してもと言われて、クワトロは敵わないなと肩をすくめた。

「ブライトにまで同じ事を言われたよ、ハヤトにも。全く、皆で結託して私を嵌めようとしているとしか思えないな」

 クワトロのぼやき文句を耳にして、アムロが愉快そうにくくっと低い声で笑った。

「被害妄想だよ。香港にいる、ミライさんにも会わせたかったな」

 その名前に、クワトロがまた、僅かに懐かしそうな表情になる。彼女にも、どれだけ優しくしてもらった事だろう。
 この七年を棒に振って、初めて分かった人との繋がりの温さを、大切さを。―――もう間違いたくないと、真剣にクワトロは考えていた。

「ああ、そうだ。ブライトから、ミライ宛てのディスクを預かってきたんだ。後で持ってくるから、彼女に送ってやってくれないか」
「おやすいご用だよ」

 言った後で、それよりも、とアムロが気遣わしげな表情になる。

「カミーユは大丈夫なのか。俺には随分気丈そうな事を言っていたが、……やはりあなたが導いてやってくれないと」
「やれやれ、責任重大だな」

 苦笑して、それでは私はカミーユの様子を見てくるよ、とクワトロが踵を返した。アムロに軽く手を振り、当日は頼む、と念を押す。

「信用がないな。七年前は俺にガンダムを任せてくれていた癖に」

 アムロが軽口を叩くと、クワトロも併せたように笑みを浮かべる。

「今、ガンダムに乗っているのは君じゃない」

 厳しい言葉に、アムロの表情が僅かに硬くなった。
 こういう、生真面目な所のある男だった。分かっていても思い出すのに時間はかかる、もうちょっと空気を読めよと恨めしく思いながら僅かに唇を尖らせる。

「……そうだな」
「カミーユには、人目につく所に居て貰いたいんだ。単なる勘、なのだがね。カミーユの乗るZは、私達の希望になるかもしれないよ」
「例えば、アクシズでのあなたのように?」

 精一杯の皮肉をこめてアムロが言うと、クワトロは立ち止まったままいいや違うな、とアムロの言葉を訂正した。

「七年前の君のように、さ。アムロ・レイ」

 真剣に言っているのは言葉の響きから分かって居たが、今更持ち上げても無駄だよ、とアムロが呟く。

「俺はもう、ガンダムには乗れないよ」

 どこか拗ねたような響きさえ聞き取れる青年の台詞に、クワトロが軽く肩をすくめた。

「それでいいのさ。残念だとは思うが、誰しもがいつまでも子供では居られないのだから」
「それじゃ、ガンダムは子供の玩具みたいじゃないか」
「先程の君のお言葉を返すようだがね。もしもだよ、もしも再会したときに、君がもう一度、ガンダムに乗りたい等と言いだしていたならば―――私は、君に幻滅したかもしれないよ」

 言いながらスクリーングラスを外してポケットにねじ込みながら再び近付いてきて、すっと顔を寄せたクワトロに、アムロが息を飲む。
 七年前の記憶と寸分違わない、澄み渡って冴え冴えとした蒼い双眸が文字通りアムロの瞳を底まで達するように射抜く。

「私は、弱い人間だよ」
「知ってる」
「なのに、選ぶのは修羅の道ばかりだ」
「不器用なんだな」
「修羅、という言葉の意味を?」
「いいや。えらくオリエンタルな響きの言葉だとは思ったが」
「戦う者であり、諂曲なる人間のことだよ。表面上は聖人を装い、うつくしいことを言い、謙虚に人に併せる癖に、内心では恨み辛みが渦巻いている、そんな者を修羅と呼ぶのだ」

 アムロは僅かに眉を上げただけで、クワトロのどこか警告するような脅しめいた言葉に動じる素振りも見せなかった。

「ならば、俺も一人の修羅なんだろう」
「しかし私は、君にだけは修羅の道へは踏み込んで欲しくない気もしているんだ」
「身勝手だな」

 今更そんなことを言ったって遅すぎる、と低い声で言って、アムロは間近に迫る瞳を睨み返した。

「そんな風に俺を脅して怖じけづかせようとしても無駄だ。俺はあなたなんか怖くない。あなた自身がそうである程あなたを怖がっちゃいないし、信じていないわけでもない」

 一気に言うと、さっさと部屋に帰れ、とクワトロの肩を叩いた。

「夜は早く眠って、考え事は朝にするものだって、そうじゃないと悪い方にばかりどんどん沈んでろくな事にならないって、ブライトのお小言を聞かなかったのか?」
「私が聞いたのはフラウ・ボウからだったよ。懐かしいな」

 クワトロの言葉に、アムロが幼馴染みの顔を思い出しながらフラウのやつ、ちょっとハンサムだからってシャアばっかり贔屓してたもんな、と軽く舌打ちする。

「妬かないでくれたまえ。仕方ないだろう? 持って生まれたものは」
「あなたのそういうところ、変わってなさ過ぎていっそムカツクね」

 苛立ったように言うアムロの頬に、クワトロがそっと手袋越しの指先で触れた。アムロが電流でも走ったかのようにびくりと反応して、困惑したようにクワトロを見上げる。

「なに。……なにを不安がって居るんだ?」
「こわいのさ。断罪の日を待つしかないのが。―――こういうのは好きじゃない。動いている方が余程気が楽だ」
「そういうもんだろう、御神輿ってのは。諦めて慣れろ」
「つれない言い草だな。君も乗ってくれれば良かったのに」
「柄じゃないさ。器でもない」

 言いながら、アムロは頬に当てられたクワトロの掌の上からそっと自分の手を重ねて、よっぽど緊張しているのか、手袋越しでも冷たいな、と呟いた。

「仕方がないから優しくしてやるよ……来い」
「それはそれは」

 ぐい、と手を引っ張られ、歩き出したアムロに付き従う形で歩きながら、クワトロが遂に俯いて笑い出す。

「なにが、おかしいんだ」
「君、耳まで赤いぞ。照れたんだろう」

 アムロは何も言わず、黙ったままで隣に並んだ男の向こう脛を綺麗に蹴飛ばすという曲芸に成功すると、蹲るクワトロに向かって先にあなたの部屋に行っているぞ、罰として酒類の調達は任せる、と言い捨てて大股で歩き去っていった。


 後に残されたクワトロの哄笑が爆笑に変わるまで、さほどの時間はかからなかった。



■ □ ■ □




 ダカールでの自らの出自を明らかにした演説が大成功に終わった後、カミーユと二人、早々に宇宙に帰還することになったクワトロは、忙しないなと労うアムロとハヤトの二人に暇を告げていた。

「地球のことは君たちに任せる。私とブライトも、宇宙からできる限りの援護はさせて貰うよ」

 クワトロの言葉を聞いて、頼もしいなとハヤトが笑う。

「有り難いけど、またブライトにどやしつけられる日々の始まりか」

 途端に微妙に画鋲でも呑み込んだような表情になるアムロとクワトロの顔をまたおかしいと一頻り笑った後で、ハヤトはクワトロと握手を交わしてブリッジに戻っていった。
 残されたアムロに向かい、クワトロは手を伸ばして握手を求める。しばし躊躇った後で、アムロもその手を硬く握り返した。

「さようなら。次には宇宙で再会できるといいが」
「また七年掛かるかもしれないよ」
「それでもいいさ。君がアムロ・レイで在ってくれるのなら」

 クワトロの言い方に、アムロが軽く肩をすくめた。この男は、どれだけ真っ直ぐで正直なのだと少々呆れたくなる。

「変えられやしないさ、今更。生憎と、あなたのように別人になれる気概もない。残念ながら、俺は多分ずっと、このままだ」
「それでいい」

 微笑んでそれじゃあ、と歩き始めたクワトロが、ふと何かを思いだしたようにまたアムロの方を振り向いた。

「アムロ!」
「なんだ? また忘れ物か?」

 諦めて宇宙に戻れよ、カミーユが待ってるぞ、と呆れたように言ったアムロに、クワトロが首を振る。

「この間私は、連邦の大統領になれとカイに言われたよ」
「それは、尤もな意見だと俺も思うね」
「なれると思うか」
「あなたさえその気なら」

 俺に決めさせようだなんて、そんな狡いことは認めないよと言い放つアムロに唇の端を上げて苦笑しながら、クワトロは、かけていたスクリーングラスを外そうか躊躇って止めた後、続ける。

「ア・バオア・クーでは君の手を離してしまったが、今度は着いてきてくれないか?」
「そんなことは俺が決めることだな。あなたはあなたの道を往けばいい。もしも着いていきたいと本当に思ったなら、俺は嫌がられてもあなたの側に居るさ」
「……手厳しいな、出直してこいということか」

 簡単には靡いてくれない青年の返答に苦笑して、そのまま歩き出すクワトロの背中に向い、今度はアムロの方から声をかける。

「シャア!」

 足を止めた男の僅かに寂し気な背中に向かって、不安になんて思うことはなにもないだろう、とアムロは内心鈍い男に苦笑の念を禁じ得なくなりつつも、前に言った言葉を再び繰り返す。


「心配するなよ、今度こそ、俺があなたを守ってみせるさ」


 クワトロは、ゆっくりと片手を上げると振り返ることもせず再び歩き出した。

「信じてみるよ」
「任せておけよ」

 最後に残された言葉に、どこまでも素直じゃないなと少し笑って、アムロは金色の髪の毛の男を見送った。そして男の行く末は再び紅蓮の炎で彩られることになるのだろうが、迷えば何度でも同じ道に連れ戻してやろうと、呟いて、そっと肩の傷に触れたのだった。



 ただ独りで修羅の道を往く男の行く末を、誰にも聞こえないその嘆きを、どこまでも自分が見届ける覚悟をしながら。







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+++END.

 

 

「連邦シャア」という企画本に寄稿させて頂いたお話です。
もう結構時間経ちますが、まだ御本出てないみたいなので、
もういいかな〜、って思ってアップ。
オフライン用に書いたお話なので、ちょこっとだけリライトしました。

 

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