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―――――THANX ! 600000HITS!! 踊る上sama!!
ネオ・ジオン総帥シャア・アズナブルが、長い春の終わりに自身の配偶者候補として手元に迎え入れたのは、嘗ての宿命のライバルであり、現在は「いいお友達(公式発表)」でもある、アムロ・レイであったというのは今やスペースノイドだけではなく、アースノイドの間でも(恋に夢見るお嬢様方の間では特に)広く知れ渡っている事柄であった。
その切っ掛けとなる著作の筆者である友人のカイ・シデンからは印税を巻き上げ損ねたが、代わりに(なにがなんの代わりなのかは分からないが)連邦側から特使の為にと、先の戦争で大破したνガンダムの修理と再配備をを通達されて、アムロは複雑だった。
νガンダムは、シャアを倒すための機体だ。シャアが倒すべき存在ではなくなった今、その存在自体に意味があるのかどうかも怪しい。それでも悩み抜いた末、アムロはνガンダムを再び自らの手元に置くことにした。
もう二度とないと思いたいが、もし万が一またシャアが事を起こした場合、それを未然に防ぐのが自分の役目だと思っている。まぁ、νガンダムは抑止力と言うよりもむしろ一つ間違えば再びシャアを煽りかねないとは分かっていたが。
そんなこんなで暫くはアナハイムにも出向があったりで様々に忙しく、シャアとの間にあったことはアムロの中でとりあえず棚上げされ、無かったことにもなりかけていたが、そうは問屋が下ろさなかったというか、水面下で着々となにがしかの計画は順調に進行をしていたようで、ある日アムロが珍しくデスクワークをしていると、軽いノックの音と共にシャアが部屋に入って来た。
「あれ、久しぶりだな」
「全くだ、私の所に顔も見せてくれないじゃないか。何の為の監視役だね、一体」
「すまないな、そのお目付役の正式な認可も貰わなきゃならなかったし」
アムロの言葉を聞いて、シャアが手にしていた書類をアムロに差し出した。
「私が来たのも正にその用件だ。アムロ、連邦から届いた、査察官の任期更新の手続き書類だそうだ、サインを頼む」
「なんだ、あなたが直々に持ってこなくて良かったのに」
アムロが驚いた顔をすると、シャアは軽く片目を瞑ってみせる。
「なに、私が君に会いたくてね、秘書官から取り上げて来たのさ」
言いながら、シャアはアムロの机の上に書類の束を広げた。
「結構枚数があるぞ、いいか?」
「まぁ、仕方ないだろう、手続きなんだし。あなたに秘書の真似事させちゃって、すまないな」
それでも正直に溜息をつきながら、アムロが観念したように天を仰いだ。
「気にしないでくれたまえ。一番下の物だけは、私のサインも必要なので、どうせ私の手元にも来る書類だ」
「そっか。じゃ、ペン貸して」
手を差し出され、胸ポケットからペンを取り出しながら、シャアがアムロに聞く。
「中身は読まないのかね?」
「あなたは読んだんだろう? どうせ十年一日だろ。俺の身売り書類には変わりないんだし」
暗に信用している、とそう言ってやると、シャアは些か微妙な表情で頷いた。
「……まぁ、そうだな」
シャアの微妙な表情を勝手に気遣いと片付けたアムロが、中身もろくに読まずにその場にある書類に次々とサインを書き込んだ。
「……っと、これで最後の一枚かな。できたぜ」
アムロの手から書類を受け取って確認し、シャアがにっこりと青年に向かって微笑みかける。
「ありがとう。それでは、後は当日宣誓書にサインをして……」
「当日?」
シャアの言葉が腑に落ちず、首を傾げたアムロに向かって、シャアは悪びれずに言い放った。
「結婚式の、だよ。ああ、この婚姻届は先に出しておくから心配はいらない」
それを聞いて、アムロが焦ったように腰を上げる。シャアの手には、先程自分がサインを終えた書類があった。言われてみれば、確かに婚姻届と書いてある。
「こっ……!? ちょ、ちょっと待て!!」
手を伸ばしてくるアムロを華麗に避けながら、シャアはさっと出口の方へ遠のいた。
「身売り書類は十年一日なのだろう? 一枚くらい婚姻届が混じっていることもあるさ」
「あるかバカ! 返せー!!!」
アムロの叫びとシャアの笑い声がネオ・ジオン政庁の廊下に一頻り響き渡り、一部の総帥に心酔する人々は慎ましやかに見なかったことにし、一部のお嬢さんたちは羨ましいなぁと遠巻きに仲睦まじくしか見えない様子を眺めていたようだが、それはさておき。
■ □ ■ □
結局の所、自分達はこれでも巧く行っている、とそれはアムロも渋々ながらも認めざるを得ないことではあった。
紆余曲折を経て、ライバルだった筈の男といつの間にか恋仲になりつつあった、というのは恋愛小説なんかでもよく見かける話だ。
ただし、それが自分自身に降りかかってくるとは夢にも思っていなかったアムロ・レイは、ハッピーエンドから続く道の途中経過ポイントとして、つつがなく挙式が執り行われるまで、あと一ヶ月を切った……と、いうことを今日久々に見たパソコンのスケジュール帳でチェックして、心底顔から血の気が引いていくのを感じた。
「うそ、……だろ?」
嘘もなにも、今日のスケジュール(そもそもアラートが鳴ったからスケジュール帳を開いたのだが)には『衣装仮縫い』等という目を擦って夢ではないか何回も見直したいような事が書いてある。余りのことに、とりあえずアムロは一度ウィンドウを閉じて、ばくばくと早鐘のようになる心臓を抑え付けてみた。
「落ち着け、……落ち着くんだ、アムロ・レイ。きっとこれは何かの悪い冗談だ、いやもしかしたら夢だ、幻覚だ、白日夢だ」
「なにが冗談なのかね?」
「わぁあ!!」
その時、背後から声をかけられて、アムロは文字通り飛び上がって驚いた。振り返ると、相変わらず人の悪い微笑みを浮かべた金髪の男が佇んでいる。
「な、急に後ろから声かけるなよ、びっくりするだろ!?」
「これは失敬、驚かせてしまったとは知らなくて」
ニュータイプの癖に鈍いね君、などとシャアは悪びれもせずに言うと、ひょいとアムロの手元を覗き込んだ。
「わっ、こら、俺は仮にも査察官だぞ、スケジュールを勝手に見るんじゃない!」
「私のスケジュールは君に全て渡してあるというのに、君のを私が知らないというのは不公平ではないのかね?」
「それとこれとは話が別だろう? 俺のスケジュールはあなたに併せて組まれるんだから」
言いながら、アムロはそうだ、と思い出したようにやや憤然とした表情でシャアの方を向き直った。
「それで思い出した、俺のスケジュールを併せるっていっても、やたらと会食とか入れないでくれるか? しかも俺とあなたでサシのばっかり」
咎めるようにアムロが言っても、シャアははぐらかすように笑っただけだった。
「しかし、連邦との対話のために君とは色々腹を割って話し合っていかないと」
「本当にそうなら俺の階級じゃ不足だって。第一、今までいつそんな話が出たよ、俺達の間に」
世間様じゃデートって呼ばれてるんだよ、これ、と唸りながら机に突っ伏したアムロの耳元で、放り出したままの携帯電話が鳴った。
「もしもし」
もしかしたらシャアの呼び出しだろうか、それなら直ぐに引き渡してやると勇んで電話を取ったアムロの耳に、事務的な女性の言葉が飛び込んでくる。
『アムロ大尉でいらっしゃいますか? 本日の仮縫いのご予定は聞いていらっしゃいますね、あと15分でそちらに伺わせていただきますので、ご準備の方を宜しくお願いいたします。』
「ちょっ、待っ……!」
しかし、アムロが何かを反論するよりも先に無情にもぶちりと電話は切れ、呆然とするアムロに向かってシャアがやや同情的な調子で語り掛ける。
「そんなに結婚式がイヤならば、思い切って手に手を取って二人で駆け落ちでもするかね?」
「そういう問題じゃないだろ、第一、一体誰の所為でこんなことになったと思ってる!」
なんで俺が逃げなければならないんだ、と憮然とした表情でアムロが言うと、シャアは楽しそうに笑った。
「そうだな、君はどんな試練とも困難とも逃げずに正面から立ち向かう人だと思っている」
「……いや、そうでもないけど」
面と向かって終生のライバルに誉められ、僅かに気をよくしたアムロが照れたような微笑みを浮かべた。そのアムロの肩に、シャアがぽんと手を置いてにこやかに語り掛ける。
「ならば、仮縫いなど君の敵ではあるものか。さぁ、正面からなぎ倒して来たまえ」
「……って、なんでそうなる!?」
一瞬、危うくシャアの口車に乗りそうになったアムロが慌てて反論する。シャアが残念そうな顔で呟いた。
「つまらない、引っかからないのか」
「当たり前だ! 誰が婚礼衣装の仮縫いなんかしたいものか!」
アムロの反論に、シャアはぽつりと呟いた。
「……私は昨日済ませてきたというのに、往生際の悪い」
つまり、自分は昨日既に義務は果たしたので、今度はアムロをからかいに来たということである。質が悪い、と内心でアムロは拳を握り締めた。
「なんかさ、あなた色々開き直り過ぎじゃないか?」
険悪な視線で睨み付けてやると、シャアは白々しいほどの胡散臭い笑顔で首を傾げる。
「そうかね」
「そうだよ、そんなイイ性格していたか? それじゃ、まるでセイラさっ……」
言いかけて、アムロは口を噤んだ。そうだ、目の前にいるこの金色の生き物は、本を正せばセイラ・マスの兄であった。『アムロにならできるわ』という言葉に散々に乗せられていた十代の頃を思い出す。思い起こせば、その頃から自分は全く進歩していないのではなかろうか、もしかして。
この手の系統の顔に滅法弱い自分を内心で罵りつつ、アムロはふいとシャアから視線を逸らして余所を向いた。シャアの方もアムロのいわんとするところが分かったのか、ますます人の悪い表情を浮かべる。
「アルテイシアに似てきた?」
「……地なんだろ、そっちが。地球じゃあんなに殊勝にしていた癖に、騙された」
悔し紛れに嫌味を言って睨み付けてやっても、シャアは気にする素振りすら見せず、むしろ嬉しそうにしている。
「騙してなどいない、私だって今まで自分の中にこんな部分があるとは知らなかった。君には新しい自分に出会わせてくれた礼を言いたい気分だ」
大仰な身振りで言われて、アムロはげんなりした表情を隠そうともせずに言う。
「俺としては、そのまんま永遠に眠っていてくれても良かったと思いたいけど」
「何を言う、君が私を変えたのだ、アムロ」
にこやかに微笑みながら、シャアはアムロの手を握り締めた。間近に金彩の秀麗な容が迫り、この男に惹かれつつある自覚のあるアムロはどきりと心臓が跳ねるのをどうしても押さえられなくなってしまった。
「ちょ、シャア、近付きすぎ……」
思わず視線を逸らしながら言っても、シャアは益々距離を詰めてくるばかり。
「共に暮らして時にはベッドを分け合う仲じゃないか、なにを今更」
「いや、その表現には誤解があるだろ!」
ベッドに一緒にとはいっても添い寝以上の展開になったことがないアムロが顔を真っ赤にしてシャアに食い付く。シャアが更に意地の悪い微笑みを浮かべながらアムロに囁いた。
「もしかして、進展を期待していたのか? それは悪かった……」
「するか、ふざけるな!」
ぶんと腕を振ってシャアの手を振り払ったアムロが、更にシャアに何か言ってやろうと口を開いたところで、シャアはもう一度清々しいほどに爽やかな微笑みを見せて、ところでアムロ、と青年の名前を呼んだ。
「何だよ」
不機嫌極まりない声と表情で振り向いたアムロに、シャアの暢気な声が告げる。
「そろそろ時間だな」
「……時間?」
不思議そうな顔をしたアムロの肩に、シャアがぽん、と手を置いた。
「十五分経過した、逃げるのならタイムアップだ。諦めて仮縫いを済ませてもらうのだな」
「はっ……謀ったな、シャアーーーっ!!!」
何処かで聞いたような悲鳴をアムロがあげるのと、仮縫いのためのスペシャルチームがアムロの居る部屋に踏み込んできたのは、正に同時ともいえるタイミングであった。
■ □ ■ □
ぐったりとして仮縫いから解放されたアムロは、一部始終を部屋のソファに腰を据え、ニヤつきながら見ていた金髪の男に恨めしげな声で詰め寄った。
「あなた、かなり意地が悪くなっていないか?」
「まさか。君の考えすぎだよ」
にこにこと微笑みながらそう返事をするシャアに、アムロは首から抜き取ったネクタイをぶつけた。シャアからは当然のように抗議の声があがる。
「酷いな、なにをする」
「その位甘んじて受けろ、っていうんだ」
軽く毒突いた後、アムロは深々とした溜息を漏らす。元着ていた服に着替えると、急に開放感に満ちあふれた気分になった。
「まぁ、ドレス着用と言われなかっただけマシかと思ったのは、俺が毒されて来てる証拠なんだろうか」
ジャケットを羽織りなおしながら呟くと、シャアからはすかさず混ぜ返しの言葉か飛んでくる。
「慣れの問題だな。物足りないなら、お色直しにはドレスを着てみたらどうだ?」
「絶対いやだ。そんなに着たいならあなたが着ろ、俺がエスコートしてやるから」
顔を顰めて言った後で、うっかりその光景でも想像したのか、アムロが青ざめてやっぱりいい、と呟く。
「よく考えたら、ネオ・ジオンの善良なる皆さんが可哀相だ、そんな光景。総帥を信じて着いてきた筈が、女装好きでライバルと結婚しようという凝った趣味の男だったなんて」
世間様ではそういうの、変態っていうんだぜ、知ってるか、とアムロに言われて、シャアは首を傾げた。
「……似合うかもしれないと思ったのだが」
君が本気でエスコートしてくれるなら着てみてもいいと言われて、アムロは白旗を上げた。
「似合っても問題だろう、それはそれで。総帥は伴侶を得たんじゃなくて嫁に行きました、なんて言われたらどうする」
アムロが呆れた口調で言うと、元より本気で言っていなかったシャアも、そうだなと笑って話を終えた。
「それよりアムロ、身体が空いたなら、午後のお茶に付き合ってはくれないか? 君が仮縫い部隊に捕まっている間に用意を頼んでおいたのだが」
言われて、アムロはソファでくつろぐ男をまじまじと見つめ返した。
「いいけど、暇なのか、あなた」
ちゃんと仕事はしろよ、と釘を刺すアムロに、シャアは軽く肩をすくめる。
「まさか。アムロの仮縫い衣装を見ないと仕事が手に着かないと言って、ちょっと抜けてきた」
「おいっ!」
シャアの言葉にアムロが咎めるような眼差しをすると、シャアはまたにっこりと笑って言葉を続ける。
「本来は花婿は式の日まで花嫁衣装を見てはいけないとか不吉だとか言われたけれども、君と私ならその位のジンクスは覆すと大見得を切って来た手前があるから、何が何でも幸せにならないと」
「いや、それちょっと違うと思う」
思わずツッコミを入れながら、アムロはふとシャアが漏らした「幸せ」という単語がどこかくすぐったくて、困ったような表情で男から視線を逸らす。
「なんか、馴れ合いはよくないんじゃないか、俺は一応、まだ連邦軍の軍人なんだし」
羽織ったばかりの所属の違う青い軍服を気にしながら言うと、今度はシャアが呆れたように目を見開いた。
「何を今更。こういうのも悪くないだろう、家族みたいで」
かぞく、と一度ぽかんとした表情で繰り返したアムロが、酷く狼狽えた表情になった。
「家族家族ってあなたは気軽に言うけど、俺は生憎と一般的な家庭には縁がなくてね」
そんな風に告げられたアムロの言葉に、シャアがすかさず満面の笑顔で切り返す。
「だから、これから作るんだろう、二人で」
「……っ」
さっとアムロの頬に赤味が差した。二人で作り上げていくなどと正面切って言われてしまうと、その言葉の効果がじんわりと胸の中に染みいって温かくなっていく。
「よ……くもまぁ、そんな恥ずかしいことが素面で言えるな、あなたって人は!」
悔し紛れにそう言い放って睨み付けても、シャアは動じる様子も見せなかった。
「どういたしまして、生まれつき正直なもので」
「なにが『正直なもので』だ。巧言令色鮮し仁、ってね、本当に思ってるかどうか怪しいもん……」
憎まれ口を叩きかけた瞬間、アムロは腕を掴んで引き寄せられ、直ぐ側に迫った秀麗な顔と、意外なほど真摯な色を湛えた青色の瞳に文字通り心臓が止まりそうになる。
「ちょ、……」
「疑われるとは心外だな。私は此程に本気で君のことを想っているというのに」
そんなことを言いながら額をくっつけられて、アムロは凍ったように動けなくなる。シャアの高い鼻梁が自分の鼻に擦れ、口元に緩やかに吐息が当たった。後少しで口唇が触れそうな距離に動揺して、アムロがごくりと唾を飲み込む。
「……想っているのに、アムロ・レイ」
そんな囁きと共にシャアの深い青を湛えた瞳がゆっくりと閉じていくのが見えて、アムロは殆ど何も考えずに条件反射で自分も目を閉じた。
このまま唇に柔らかいものが触れる、と思った瞬間に、アムロは縋るものを探して彷徨わせていた両手で何も考えずにシャアの服を握り締めた。唇の端を吐息が掠める。心臓がドキドキと煩いほどに音を立て、顔が熱を持って熱い。
ああ、どうしようとアムロが覚悟を決めかけた瞬間に、アムロの鼻先がぎゅっと二本の指でつままれた。
「……な、なにひゅ……!!」
「そんなに硬直されてはこちらまで緊張してくる。アムロ、力を抜いて」
「バカ、気が抜けちまったよ、離せ!」
はっと我を取り戻し、赤く染まった顔のまま、シャアの側から離れようとアムロは後退ろうとしたが、シャアの腕に腰の辺りをすかさずホールドされて動けなくなる。
「は、離せよ」
「嫌だね、やっとこの手に収まるほど近付いてくれたのに」
しかし金髪の男はそう呟くと、アムロを捉えた片手に力を込めて、耳元に軽いキスを落とした。
「大人しくしてくれたまえ、さぁ、目を閉じて?」
優しく囁かれて、アムロは正直に狼狽えた。今まで、こんな本物の恋人同士か何かのような触れ合いはなきに等しかったのだ、急にこんな雰囲気になられても、どうしても戸惑いが先に立ってしまう。それに。
(そんなこと、されたら、もう抑えきれない)
アムロだって、ちゃんと分かっている。自分はもう引き返せないところまで来てしまっている。……からかってなど欲しくない、欲しいと思ってしまえば、本当に欲しくなるだけの欲は身の内に囲っているつもりだ。
それでもいいのか、と不安げにこちらを見上げてくる瞳に、シャアの目がふと細められた。
「意外に私も信用がないな」
「……なに、を」
言っている、と言おうとしたアムロの口唇に、今度こそ柔らかいものが触れた。シャアの口唇だ、と認識するのと同時に、アムロの心の方にも男の意識が触れてきたので、アムロはぎょっとして心を閉ざそうとしたが、一瞬だけ間に合わず、するりとシャアに表面を撫でられてしまう。
思わずアムロは口唇を離し、男に向かって抗議の声を上げた。
「だめ、だ、やめろ、シャアっ……!」
「どうして? 心など、開いてしまえばいい、私に隠すことなど今更ないだろう?」
「あ、ある、決めつけ、るなっ……!」
言葉と裏腹に、シャアの心に触れて、真意を確かめたアムロの心がこちらに向かって完全に開ききっていくのが分かった。シャアは内心で快哉を叫びながらゆっくりと用意していた言葉を紡ぐ。
「愛している、ともう言ったかな、アムロ」
「……聞いた」
アムロからは素っ気ない返事が返ってくるだけだったが、シャアは今更気にせずにそのまま言葉を続ける。
「愛しているよ、君のことを」
「……知ってる、知ってるから、言うな」
「私とハッピーエンドを目指してくれるかい?」
「……だから、そういうこと、いうな、って」
「どうして? ロマンティックだと思わないか」
「……言って、ろ」
すっかり耳まで赤くして大人しくなったアムロをすかさず腕の中に閉じこめながら、さて、この後はどうしようかなと些か人の悪い楽しみに耽る事にする。
ゆっくりではありながらも、二人の仲は少しずつロマンティックな方向に進みつつあるようであった。
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+++END.
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