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10: 「ただいま」を君に
「……オン、ロックオン!! ロックオン・ストラトス!!」
呼びかける声に、ゆっくりと意識が覚醒していく。始めに目に入ったのは、潤む臙脂色の瞳だった。ティエリア・アーデ、と脳裏に名前が浮かぶ。
両親と妹ではない、ではここは、あの世とやらではないらしい。
「よかった、生きていた……!」
ロックオンの目が動くのを確認した眼鏡をかけた青年が、ほろほろと涙を零す。
「意識が戻ったんですね、ロックオン!」
……なんだ、お前、そういう泣き方もできるんじゃねえか、とからかってやりたかったけれど、声も出なかった。
しばらく呼吸を繰り返したその後で、ロックオンの声帯はようやく声の出し方を思い出したらしかった。
「え、……と、ティエリア、ここは、」
はい、と眼鏡の青年は答えた。
「プトレマイオスです。あなた、半年も医療カプセルに入ってたんですよ!!」
さっき意識レベル回復の兆候が見えて、と続けるティエリアの声を聞きながら、ロックオンはぼんやりとじゃあ、随分長いこと寝てたんだな、と考えた。
ぱしり、と瞳を瞬かせると、両目とも視界がクリアだった。半年の間に、手つかずだった右目も治療が終わっているらしい。
そういえばティエリアはこの右目のことを随分と気に病んでいたから、治す機会があれば治すだろうな、と少しだけ微笑みが漏れた。
「……半年って、マジでか」
殆ど全身を治療したに近い。それ程の大がかりな再生となると、さぞ大変なことだっただろう。
「半分がた吹き飛んでたんですからね、素晴らしい生命力でしたが」
プラナリア並です、とティエリアに言われ、最後の戦闘の様子を脳裏に思い浮かべたロックオンは眉を顰めた。むしろ、生きていたのが奇跡だ。
「一旦、仮死状態になったのが逆に良かったんでしょうね。酸素欠乏症にもなっていなかった」
爆風で投げ出され、すぐに一瞬呼吸が止まったところを通りがかったソレスタルビーイングと内密に協力関係のあった商社の商船に収容され、早期の治療を受けられた上に、仲間の元へと送り届けて貰えたらしい。
「そっか……」
色々と聞きたいことはあったが、まずは生きていたことを、世界に生かされたことを喜ぼう。ロックオンはそんな気持ちで厳粛に頷いた。
ティエリアが、僅かに意地の悪そうな表情を浮かべる。
「さて、ロックオン・ストラトス。これからが大変ですよ、筋力がただでさえ落ちていますし、……なによりも、宇宙ですからね、ここ」
「うおお……」
聞いただけで頭が痛くなった。喋るのも億劫なのは、気のせいではなかったらしい。重力の負荷の少ないところで居続けた身体は、一体いかほど筋力が衰えているものか考えるだに恐ろしい。
「地獄のリハビリです」
「の、割に、楽しそうに言うじゃねーか」
なんだよ、と苦笑してみせると、ティエリアの眼鏡の奥の瞳が微かに潤むのが見えた。
「ふふ、……」
笑ってみせたティエリアが、目尻からぽろりと再び涙を流す。俯いて、まるで迷子の子供が親に巡り会ったときのような声を出す。
「いきてて、よかった、ロックオン」
「ティエリア……」
泣くなよ、と言おうとしたところで、医務室の扉が騒々しい音を立てて開くのが聞こえた。
「ロックオン・ストラトスが目覚めたと聞いた!」
凜とした張りを持つ声が、ティエリアの背中から聞こえる。
同時に、ティエリアが後ろを振り向いて、こちらにおいで、と手招きをした。
「ほら、お礼を言うんだっただろう?」
「ああ、……ロックオン・ストラトス、初めましてだな!」
「なっ!?」
横たわっているカプセルの、ちょうど横を向いた視線の先くらいに、眩しいくらいに生命力に満ち溢れた黄金の煌めきが見えた。
透明な翠の双眸が、エメラルドのように煌めいて真っ直ぐにロックオンを射貫く。……なんだ、このきらきらした生き物は。
それだけで、体力的にも精神的にもかなり摩耗しているロックオンはじりじりと灼かれるような圧迫感を覚えてしまった。
「……なあ、ティエリア」
なので、敢えてその存在から目を逸らし、ティエリアに縋るような視線を送る。
「悪ィ、……誰?」
その問いには、突然の闖入者……正確には、見事な金髪碧眼の少年だったが、彼が胸を張って返事をする。
「わたしか? 私はグラハム・エーカーだ!」
ふふん、と金髪の少年が威張った。聞き覚えがある名前だな、とそこだけがロックオンの脳内で引っかかりを覚える。
「……そんな名前、どっかで」
そのロックオンの呟きには、眼鏡の青年が即答した。
「ユニオンのエースに、そんな名前の男が居ましたが」
ここに居る彼はどう見ても十五歳以下ですね、とティエリアが呟いた。
生憎、ソレスタルビーイングのメンバーでグラハムと直接顔を合わせたことがあるのは今この場にいない刹那だけであったので、この少年が正にグラハム・エーカー当人をそのまま縮小しただけの容姿であることなどは誰にも分からなかった。
「なんで、そのユニオンのエースと同じ名前の坊ちゃんがここにいんの」
ロックオンが問うと、ティエリアが驚いた顔になった。
「覚えていないんですか? あなたが連れて帰ってきたんですよ?」
これには、ロックオンの方がびっくりした。
「俺が?」
「ええ、あなたが半死半生の重体にも関わらず、しっかりと彼を抱いたまま、一緒に漂っていたそうですよ、宇宙を」
「……俺が?」
ぱちぱちと瞬きだけで戸惑いを伝えるロックオンに、それで、彼も大怪我をしていて、カプセルからは彼の方が先に目覚めたんですが、とティエリアは言った。
子供だけに回復も早く、数日で起き上がって、やっと就航したプトレマイオス2がロックオンを引き取りに行ったときは、既に動き回れるくらいになっていたそうだ。
しかも、どうしてロックオンと一緒に居ることになったのか、何故戦場にいたのか、などの記憶は一切ないらしい。
記憶喪失の割に態度が大きすぎるので、とてもそうだとは思えないのだが。
「あなたからべったりで離れないので、可哀想だったのでそのまま連れてきてしまいました」
さらりとティエリアは締め括ったが、ガンダムから始まる機密情報満載のプトレマイオスに、子供とはいえ素性も分からない少年をティエリアが乗せたということと、その理由にロックオンは愕然とした。
「ティエリア……」
そんなところだけ人間くさくなっちまって……、とロックオンは呟き、項垂れる。
そこにぽてぽてと視界に入るようにやって来た金髪の少年が、くりっとした翠の瞳でロックオンを見つめてきた。
慣れてくると、眩しいように思えた金髪碧眼も、少年にしては整った造形も、年相応らしくない尊大にも思える言動も可愛らしく思えるのだから不思議なものだ。
「……ロックオン・ストラトス、私を命懸けで助けてくれたそうで、幾ら感謝をしても足りないくらいだ。ありがとう」
丁寧な感謝の言葉と同時に零れるように浮かんだ笑みに、ロックオンは一瞬呆然として、その後でそうか、と呟いて微笑んだ。
「こっちこそ、お前さんが居たから生き延びられたのかもな」
サンキュー、と笑ったロックオンが微笑んで手を上げようとして、震えて叶わなかったのを見たティエリアと少年が、取り敢えずいいからあなたは身体を治せ、と同時に小言モードに移行したのはいっそ見事な程の連係プレーであった。
☆ ★ ☆ ★ ☆
暫くの月日が流れる内にロックオンの体力も随分回復し、ティエリアが皆の意識を統一するため、と着用しているソレスタルビーイングの緑色のパーソナルカラーの制服の袖に手を通して艦内を彷徨くようになる頃には、ロックオンの傍らには大抵グラハムの姿が見えるようになっていた。
「おう、ロックオン。今日はひよこ少年は一緒じゃないのか?」
ラッセに聞かれて、ロックオンはひよこってなんだよ、と苦笑を浮かべた。
「朝方はティエリアの所に居たんだがな……」
そういや今日はまだ見てないな、とロックオンが言いかけたところで、ぱしゅっと音がして扉が開き、当の少年が船室に入ってきた。
「ロックオン・ストラトス! 今日から完全に復帰だと聞いた、おめでとう!」
きらきらと輝く笑顔が自分一人に真っ直ぐ向けられていることに気付き、ロックオンは思わず手で口元を抑える。
「うーお……そういや、刹那が初めてうちに来たころ、こんなんだったなー」
かーいーなオイオイ、とロックオンはつい口元が緩むのを堪えることが出来なかった。
あの後グラハムに年齢を問うと、最後の記憶では十四歳だった、ということであった。
元々、生き別れの弟の最後の記憶がそうだからか、ローティーンくらいの少年には酷く甘いお兄ちゃん体質のロックオンである。
ちなみに、それを聞いていた全員が内心でお前の中の刹那はこんな笑顔キラキラだったのか想い出修正怖い、正直怖い、と思っていたのは言うまでもない。
グラハムを連れてベンディングコーナーに行って、遠慮する少年にジュースを持たせてやって、一緒に座りながらロックオンは気に掛かっていたことを聞くことにした。
「そういえば坊主、お前さん、家族は?」
問われて、ジュースには手を付けないまま、グラハムははきはきと返事をした。
「坊主ではない、グラハム・エーカーだ。……家族はいない、私は孤児だ」
すっぱりと言い切られて、ロックオンだけでなく、突然居なくなったらしいグラハムを探しに来て、後ろに控えていたティエリアまでもが黙ってしまった。
「孤児?」
ああ、とグラハムは頷く。
「最も、児童養護施設には入れて貰っているが、食い扶持的には厄介者だ。……だから、もしもこの艦に人手が足りないのなら、炊き出しの係でも掃除でもなんでも骨惜しみはしないので、このまま同道させてくれた方が有り難い」
頼む、と真摯な瞳で言われて、ロックオンは内心で舌を巻いた。
「お前、ホントに十四のガキか?」
「よく言われるが、私は私だ」
言った後で、少年は少しばかり悔しそうな顔になった。
「奨学金が着くのならば、将来的には軍人を目指し、士官学校を受験しようと思って居たのだが……」
そこで、唐突に諦めたように、ふう、と少年はため息をつく。
「問い合わせてみたところ、孤児で身元がはっきりしない人間は、士官学校には入れないのだそうだ」
案外行政という組織は狭量だな、とグラハムは諦観を覚えた大人のような口調で呟く。ロックオンは正直に顔を顰めた。
「なんだと? そりゃ酷えな」
しかも、とグラハムは続ける。
「おまけに、学費がとても高価だ。奨学金を申請したかったのだが、そちらも身元を言い訳に断られてしまった」
「……」
完全に押し黙るロックオンを余所に、私は、とグラハムは年齢に似合わない大人びた様子で続けた。
「空が好きだ。……夢見がちだと言われそうだが、大人になったら空を飛びたかったのだ」
じっと紙コップの水面を見つめ、グラハムは続けた。
「だから、モビルスーツに乗れる軍隊を志した。その夢が挫けそうになっていた今、たとえ理由は分からなくとも、空に、……宇宙に来られて、私は幸せ者だ」
しみじみと噛みしめるように呟いた少年の言動が年より大人びているのは、孤児という境遇がそうさせたのだろうな、と自身も十四で両親を喪ったロックオンは唐突に理解した。
「……そうか」
ロックオンはもう何も言えなくなってグラハムを見ていた。そこに、ティエリアが口を挟む。
「今朝、彼の知能テストを、してみたんですけどね」
「ああ」
「かなり数値が高いです」
ティエリアがグラハムを見ながら言った。グラハムがそれ程でもないぞ、と些か謙遜をしてみせるが、どちらかというと不遜に思える。
「へえ」
感心したように呟いて、ロックオンはグラハムを見た。
「……役には立つでしょうね。どうします?」
言うティエリアに、ロックオンはついつい吹き出した。こんなに顔に出やすい奴だったかな、と思う。
「つうか、連れてくって顔してる」
ティエリアが拗ねたようにふいと顔を背けた。
「当たり前でしょう。あなたがぐうすか寝てる間に、グラハムはそれはそれは役に立ってくれていたんです!」
そうでしょうグラハム、と話を振られて、困っている人を助けるのは当然だ、とグラハムは胸を張った。
「それに、ティエリアは美人だからな! 乙女座の私としては麗人の窮状を看過することなど出来はしない」
「……またそんな、お世辞を言っても晩ご飯はマッシュポテトにはなりませんよ、グラハム・エーカー」
「私は世辞など口にしたことがない!」
「じゃあ、そういうのがお世辞だと教えて上げましょうか、僕が」
そんなことを言いながら、ティエリアの口元は緩んでいる。どうやら、グラハムは小さいながらティエリアの騎士役を買って出ていたらしい。
「お前、満更でもないって顔してるぞ……」
ティエリアから懐柔するとは侮れない。トレミーの中の実力のピラミッドを見抜いている。ロックオンは再び睨まれ、益々身を縮込めることになった。
「つーか、マッシュポテトってなに」
「グラハムの好物です」
あっさりと何故かティエリアが答える。お前俺の好物も知らないだろうに……とロックオンは唖然として二人を見比べた。
「お前、グラハムのおかーさんみてえ……」
「ロックオン・ストラトス!!」
今度こそむっとして柳眉を吊り上げる眼鏡の青年に、ロックオンはすぐさま白旗を揚げる。
「あーはいはい、俺が悪い、俺が悪かった!!」
まあ、ロックオンが眠りこけていた半年以上もの間、話を行けば刹那・F・セイエイとアレルヤ・ハプティズムが行方不明、スメラギ・李・ノリエガも艦を降りて、ティエリアが実質上の責任者だったソレスタルビーイングだ。色々と心細いことも多かっただろう。
そんなときに、ちょこまかと側で動き回る元気のいい少年は、ティエリアのいい心の慰めだったに違いない。
「まだ完調とは言えないんですから、ちゃんとリハビリはするんですよ、行きますよ、グラハム」
「了解だ、また後でな、ロックオン・ストラトス」
「……おー……」
なにあれ。ティエリアあんなに俺に懐いてた癖に、リハビリより俺まず居場所の回復からじゃないのなにそれ切ない。
ロックオンの呟きは、グラハムが手を付けずに残したジュースと同じくらいわびしいものであった。
☆ ★ ☆ ★ ☆
あっ、と声を上げ、少年は嬉しそうに足を速めた。
「ハロ! ハロではないか!」
ぱいん、と弾むオレンジ色の丸っこいAIを引き連れて歩いていたロックオンは、自身のガンダムの整備のチェックに向かうところだった。
「はいはい、ハロはお仕事だかんな。ちょっとだけだぞ?」
許可を出すまで手を触れないグラハムに遊ぶ許可を与えたあと、ロックオンはこちらをじっと見上げてくる視線に気付いて首を傾げた。
「どうした?」
「ロックオンは? 今からハロと仕事なのか?」
「俺? 俺は……」
グラハムの翠色の澄んだ双眸が逸らされることなくロックオンを見てくる。生意気そうに思えるが、存外表裏はないからりとした性格のグラハムのことを、ロックオンはなかなか気に入り始めていた。
この間も、奢ってやったジュースを残しただろう、と言うと、飲んでいいと言われなかったので、と短い返事が返ってきた。
(ったく、児童養護施設とやらでどんな生活してきたんだか)
豊かではなかったのだろうが、ジュース一つ飲むのにも許可が必要な生活というものには、その不自由さに同情を禁じ得ない。
結果、ロックオンは益々甘いお兄さんへと傾倒していくのを止めることができなかった。
あなたはグラハムに甘いんですよロックオン、と言うティエリアからして、今グラハムが着ている揃いの形のソレスタルビーイングの少年用の制服を用意したりしているのだから、なにをか況んや、である。
「よーしグラハム、お前さん、俺と一緒に機体整備手伝うか」
「手伝う!」
嬉しそうにはっきりした返事をするグラハムに笑って見せて、ロックオンはハンガーにいるイアンに声をかけた。
「おやっさん、整備作業だけどさ、ここに居るグラハムも一緒に居ていいか?」
おう、とイアンは笑顔を見せながら大きく二人に向けて手を振った。
「勿論構わんぞ、なんだグラハム、久々だな」
「やあ、イアン!」
イアンに駆け寄る少年に、ロックオンが呆気にとられる。いつファーストネームで呼び合う仲になったのだ。
「久しぶり、って」
戸惑うロックオンに、イアンが答えた。
「前はしょっちゅう手伝いしてくれてたんだがな、お前が目が覚めてからは足が遠のいてて、淋しかったよ」
やっぱりロックオンに一番懐いてるんだな坊主、と言われてグラハムは大きく頷く。
「私の命の恩人だからな!」
「……いやいや、それより、こんなちびっこいのにモビルスーツの整備とか……」
ロックオンが言うと、イアンはグラハムの癖のある金髪をくしゃくしゃと撫でてやりながら言った。
「あー、才能あるぞ。整備も結構手伝わせているが、デュナメスの整備なんかお前さんより手際がいいかもな、ロックオン」
「おい、マジかよ」
なあハロ、と声をかけると、ハロ、グラハムテツダウ、と言って弾んで行ってしまった。ハロまでもの裏切り行為に、相棒、お前もか、とジュリアス・シーザー並に叫びたくなってしまう。
「みんなグラハムと仲良くて狡いだろ……」
呟くロックオンの軽い嫉妬の方向性も、些か以上斜め上にずれているのだから、これはもうどうしようもなかった。
☆ ★ ☆ ★ ☆
ラッセやフェルトまでグラハムとはそれなりに良好な関係を構築している、ということまで目の当たりにして、ロックオンは少しならず焦りを感じた。
ちなみに、どうみても家庭内のアイドルポジションな末っ子の関心を惹きたいお兄ちゃんそのものである。
考え抜いた挙げ句、ロックオンは自身の得意分野で勝負をすることに決めた。
その日の朝食後、口の端にミルクの髭を生やしているグラハムの口元を拭いてやりながら、ロックオンはさり気なく切り出した。
「……そうだ、グラハム、今日はな、お兄さんがいいもの教えてやる」
「いいもの?」
「ああ、お前さんがこの艦の正式なクルーになるのなら、覚えておかなければいけないことだ」
重々しい口調で言うと、そんなに大切なことならば無論習得してみせる、と神妙な表情でグラハムは頷く。
ちなみに、大きな翠色の双眸が見開かれて、かなり可愛い。心臓の真ん中を狙い撃たれてロックオンは悶絶しそうになったが、年上の威厳を思い出してなんとか堪えた。
もう後俺が勝てるとしたら、あれしかない。なかなか悲壮な覚悟と共に、ロックオンは朝食の片付けを終えると、今日も後を付いてくる少年の先導をして、ゆっくりと歩き出した。
そして数時間後、ロックオンは興奮した顔で操舵室で進路の指示を与えていたティエリアの元に走ってくる。
「聞いてくれよティエリア! グラハムのことなんだけどさ、あいつ射撃めっちゃ筋が良くてさ!」
「はいはい」
朝食後からずっと見かけないと思ったら、二人で射撃訓練をしていたらしい。レーザーライフルを使った得意の狙撃術を、ロックオンはつきっきりで教えていたらしかった。
「あいつ左利きなんでさ、やらせてみたらちゃんと両手で撃てんの!」
「はいはい、そうですか」
ティエリアの返事もいい加減おざなりだが、ロックオンは気にもしていなかった。むしろ自分の生徒の優秀さをどうにかして伝えたいと躍起になる。
「すっげーの! あれならいつか俺越えるかも! 教えた俺も天才かも!」
「……親ばかですか!」
親ばか結構、とロックオンはぐっと拳を握りしめる。
「決めた、いつか俺が引退したら、ロックオン・ストラトスの名前はグラハムに譲ることにするぜ、あいつならやれる」
今からデュナメスの使い方も、とうきうきしながら言い放ったロックオンに、流石にティエリアが頭が痛そうな表情になる。
「落ち着きなさい、ロックオン・ストラトス!!」
ガンダムマイスターが再び揃うまでのプトレマイオスの五年間は、こうやって金髪の闖入者を迎え、些か騒々しく過ぎていくのであった。
ちなみに五年が過ぎた後の更に二年後、すくすくと皆に可愛がられて成人を迎えたグラハムに、ロックオン・ストラトスの名前を捨てて私の妻になってくださいと懇願される未来を、この時のロックオンはまだ知らないのであった。
>>>END.
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