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02: 贅沢だと言われても
さて、と深呼吸して、ニールは逆探知不可能な非通知の電話回線からAEUにある大手商社の代表番号にかける。
「すいません、……ライル・ディランディの身内のものですが」
弟の消息は仕送りの都合もあって把握していたので、部署の名前などはすらすらと出てきた。待たされることしばし、自分と同じ声が電話口に出る。
『はい、ディランディですが』
「よお、十年ぶりか? ライル」
『兄さんっ!?』
全く同じ声が、頓狂な叫び声を上げた。
しばし他愛ない近況報告をした後で、ロックオンは本日の用件を切り出した。本当は手紙だけで押しつけようかとも思ったのだが、直前でそれはどちらにとってもあんまりか、と思い直したのだ。
「……あのな、ライル。車、車をさ、貰って欲しいんだよ。宇宙に長期で出ることになっちまって、処分したいんだが、俺の恋人同然だからさ、下手な奴に渡したくないんだ」
ロックオンの頼みを聞いて、はあ、とため息をついた弟が、いいよじゃあ預かるから送れよ、と言ってくる。預かる、と言う辺りがライルだな、と少しおかしくなった。
『なんの車? フェラーリ? ポルシェ? マセラッティ? ベントレー? それともまさかアストン・マーチン?』
いんや、そりゃお前さんの願望だ、とロックオンは苦笑しながら答える。
「ランツィア・ストラトス」
一瞬の沈黙。
『……乗れるの!?』
失敬な、とロックオンは鼻の頭に皺を寄せた。ロックオンが手塩に掛けて大事にしている愛車だというのに。どのくらいって、ライルに送りつけて好きに処分しろと言えないくらいには情を残している。託せるのは身内くらいしかいないのだから。
「おう、ばりばり現役。レプリカだけど」
『うわ、金かかりそう……』
ライルが呻くような声を上げた。その後で、やや砕けた口調に変わる。
『どうせなら、車じゃなくて人間の恋人紹介してくれよ、兄さん。そっちは残していかないのか? 引き受けてやってもいいぜ、最近出会いがないんだ』
「恋人ぉ? そんなもん、自分で探せ甲斐性なし」
一瞬脳内を過ぎった顔は、慌てて首を振って打ち消した。残していく、だなんてそんな甘っちょろいものではない。
宇宙にあがったら追いかけてこられて、最終的にはそこで対峙することになりそうな。
『なんだよ。あ。さては兄さんも独りなんだろ』
からかうように言われて、兄貴の沽券を見せてやるか、とロックオンの口角が上がった。
「……居るぜぇ? 金髪で翠の目の可愛い子ちゃんが」
『なんだよ、金髪美女にいい車、兄さんの贅沢者!』
恐らく弟には一生紹介することはないだろうから、許せグラハム。内心で謝って、ロックオンはその辺りで会話を切り上げることにした。
「じゃあ、俺はもう用があるから切るな」
『えっ、待てよ、兄さん、こんな久々に電話してきといて、まだ恋人のことも、ちゃんと聞いてな……!!』
お前が聞きたいのは俺の恋人のことだけか。軽く舌を出しつつ、受話器の向こうで喚く弟の声を振り切って、ロックオンは空を見上げた。
ほんと、贅沢だよな。……戦争根絶なんてやり甲斐のある仕事、可愛い恋人。
(いや、可愛いっつうと、ちょっと語弊があるな)
くすくすとロックオンは笑った。でも、やたら凛々しくて男らしいかと思えば、たまにきゅうっと抱き寄せたくなるくらい可愛いのだから仕方が無い。
ロックオンの心の奥底にある保護本能に訴えかけてくるのだ。
(こんなちっぽけな俺の人生でも、でもさ、後に残って行くもんがなにか、……あれば)
そんなことを考えて、ロックオンは宇宙へ上がるために歩き出した。
その後、居なくなったロックオンの代わりにライルを迎えに来た刹那が、ニールの恋人について散々問い詰められて目を白黒させるのは、また別のお話である。
>>>END.
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