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010:指先が触れ合う瞬間
指先が触れ合う瞬間には、もう離れた後のことを考えていた。
このままでどこまでも行ける筈などない。
でも、ここで出会ってしまった。知ってしまった。
抱え込んでいた義務や責務や世間のしがらみや確執や、確かに重くずっしりと自分達の中に在ったはずのそんなものどもは全部どこに置いたか分からなくなってしまった。
代わりに乾いた溜息が一つ。そう、もう仕方のないこと。今となってしまっては。
「帰れないかな」
「帰れないだろうな」
分からないまま、両手をお互いだけで一杯にしてしまった。
片方が苦笑する、片方は呆れた顔で肩をすくめた。
お互いだけしか見えなくなっていることを恥じるように、視線を逸らしたまま歩き始めた。
右と左を見ながら、指先だけを接点にして歩き始める。
「海、遠いかな」
「君にはもう、見えているんじゃないのかね」
そう、見えているよと青年が笑った。
ならばこの旅はすぐそこで終わりの筈なのに何故、と男が思うと、察しの悪い生徒を咎めるような顔で一言。
「言っただろ。俺は、終わらせてなんか、やらないよ、って」
その言葉を聞いた瞬間に、行けるところまで行ってやろうじゃないかと思った。
「アムロ、それでは、一緒に始めようか」
言いながら歩き出す。手を握るにはまだ少しの怯えが先に立った。
それでも歩き出す。足跡も残さないで。
海へ行くつもりじゃなかった。
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+++END
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