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003:生まれたばかりの想いと
それで、と問う目の前の青年の真っ直ぐな琥珀色の視線を受け止めながら、シャアは少しでも前向きなことを考えようと思った。
前向きに、建設的な。
そう考えて、シャアはふとおかしくなった。そもそもこんな間の抜けた状況で、なにが建設的で前向きだか。
いつも、真っ直ぐに前だけを向いて走り続けてきた。それがシャアの矜持であり誇りであり存在価値であり、自分がシャア・アズナブルであるということの原動力にもなっていた。
それなのに、こんな刹那的で衝動的な事など。まるで体も心も自分のものではないような。
けれど、すとんと何かが腑に落ちた気がしていた。
目の前にいる、この男の癖にシャアより一回り小さくて、温かい琥珀と鳶色に彩られていて、丸い瞳と柔らかな輪郭を備えたいつまでも幼さの抜けない顔立ちの癖に、いつでも誰よりも何よりも上手にシャアのことを容易く追い詰める、アムロ・レイという青年のことが、シャアはもう随分と前から酷く気に入っていた。
何度も自分の手元に誘って、何度もはねつけられた。他人という存在にここまで執着したのは、後にも先にもアムロだけで。
その執着に男は名前など付けずに、随分長いこと心の中の埃を被った一角にただ放り込んであったのだけれど。
けれど、そこで芽でも出してしまったのか。
頭は全く追いついていないのに、身体の方はもう、生まれたばかりの想いに慣らされていってしまっているようだった。
根を張られている。今更引き抜いて無かったことになどできそうもない。口から言の葉がひらりと零れるほどに育ってしまったのなら。
だから、聞く。所詮自分は立ち止まることも引き返すこともできない人間だ。
「……気が変わった、君の返事を貰おう」
そして、曖昧なことも、理屈がつかないことも、―――嫌いだった。
何故か、視線の彼方でアムロがそっか、と苦笑しているのが見えた。
どうしてそんな困った顔になるのか分からない。切り捨てるしかない想いなど、ナンセンスで非生産的だ。だから、さっさと終わらせて、息の根を止めてくれればいい。君は軍人だろう。
そんな想いを乗せて、アムロをじっと見つめる。
その時、アムロが酷く艶めかしい吐息を洩らした。まるで喜劇の舞台のようなこの場面には相応しくない濡れた響きに驚いて顔を上げると、どこか困ったような、それでいて奇妙に熱を持って潤んだべっこう飴のようなとろりとした視線とかち合う。
それだけで、まるで結びつけられたように視線が動かせなくなった。自分の意志では逸らせない、この引力はなんだろう。
「俺は、」
どうして、その口元を見ていたいのに、見たくないと思ってしまうのだろう。
生まれたばかりの想いは余りにも幼稚で制御が効かなくて、シャアを酷く揺さぶり、困惑させた。
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