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※世界はSRW設定です。
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とはいえ。納得はしても諦めはしていないのがアムロの根性の座ったところであるのだが。当たって砕けろ駄目で元々。シャアの気持ちは痛いほど分かるが、それとこれとはまた話が別というわけで。
シャアがパイロット復帰の要請を拒んでから一週間。アムロはブライトの部屋に押し掛け、艦長に秘密の相談を持ちかけていた。
「だからさ、シャアがパイロットにいないのは戦力的にも痛いんだよね。これから敵はもっと強くなるし。」
人事移動の艦長命令は出さないからな、とブライトは冷淡だ。
「それは…しかし、本人にやる気がなくてはなぁ。…補給だって今やクワトロ大尉に一任されて居るんだぞ?」
アムロがあははと笑いながらひらひらと手を振る。
「そんなの、シャアが居なくてもどうにかなってたんだからどうにかなるって。」
ブライトが頭を落として溜息をついた。シャアをあちらに取られたら、また頭痛の日々が待っているのが目に見えている。あの出撃の後流石にちょっぴり危機感を抱いたらしく、アムロ達パイロットには渡さないでくださいね!とバックアップ陣からの強い要望もあったことだし。艦内でクワトロ大尉争奪戦をやってどうするんだか。
「なってるわけあるか、阿呆。…第一、どうやって引っ張り出す気だ?」
ブライトの苦いものさえ混じる口調にもアムロはへこたれない。
「ん、シャアってさ、結局サザビー沈めたのがトラウマになってるんだよね。だからさ、俺いいこと思いついたんだ。」
にっこりと微笑む笑顔に邪気はない。…が。アムロのこの笑顔が何よりもくせ者なのを痛いほど思い知っているブライトが表情を引きつらせる。アムロの『思いつき』は確かに天才的な閃きも多いし敵に煮え湯を飲ませることもしばしばだが、その影で一体自分がどれだけ胃痙攣の危機と戦っていることか。
「…今度はどんなキチクな手段を思いついたんだ、お前。」
「やだなぁ、ブライト。可愛い弟分はもっと信用しなきゃ。」
「お前だから信用できんのに決まってるだろうがぁ!!」
怒鳴りつつ、ブライトは視界にスクリーンのような暗いものが掛かり始めるのを感じる。折角最近この感覚とはご無沙汰だったのに。
―――ああ、なんでクワトロ大尉はさっさとこいつをネオ・ジオンに攫っていってくれなかったのか。
本人の意向とか希望とかさっくり無視してくれて良かったのに、とは今となっては懐かしい話だが、アムロがまだ地球連邦現役軍人だった時代、幾度も軍上層部に呼び出されて当時まだネオ・ジオン総帥だったシャアとの関係を査問されたのは密かに『ねぇ、君そんな熱烈なスカウト来てるんだったらいっそウチ辞めてあっちに行ったら?』という仄めかしだったのを知っているブライトだからこそ抱く感想である。確かにアムロは連邦にとって虎の子のエースパイロットだしニュータイプとしても貴重な研究材料だし、ガンダムだって自力で組み上げてしまう天才エンジニアだ。
しかし、だがしかし。
人材というのは使いこなせなきゃ意味がないのだ。…真面目に。幾度となく転戦しても所属が変わってもブライトとの腐れ縁が続く上に出世街道ドサ回り巡業中の様な扱いを見れば事態は明白である。連邦軍は折角の天からの恩恵アムロ・レイを使いこなすことが結局出来なかったのだ。一番トップの辺りはどうだったかは知らないが、使う費用と磨り減る神経に比べたら割が合わない現場…特に直属の中間管理職周辺は寝る前に真剣にネオ・ジオンに向かって明日こそはお宅の総帥がうちのエースを拉致ってくれますようにとか祈っていたとか居なかったとか。
―――俺はアムロ専用緩衝剤じゃないぞ、全く。
そんな複雑な思いのブライトの前で案の定、アムロは今回もこれ以上ないほど純真な喜びの微笑みを浮かべ、キッパリと言い放った。
「サザビー、贈ろうと思うんだけど、ブライト。」
…こいつが真っ白な顔してるときは大抵腹の底から真っ黒いこと考えてるときなんだ、うん。
自分の推測が余りに中央ど真ん中に命中し過ぎて嬉しくないブライトである。苦虫を一個連隊集めて噛み潰したような苦々しい上官の顔で、思考飛躍気味の弟分を諫めようと口を開く。
「…そりゃ、いいが。…モビルスーツ一台に幾ら掛かると思って居るんだ?お前。」
―――幾らロンド・ベルが潤っているからと言って限度があるだろう?クワトロ大尉が許可を出すとは到底思えないし。
所帯の財布の紐を固く握っているのが誰かを思い出させようとするブライトの真っ当な意見にアムロが微笑む。
「うーん、その辺はホラ。俺さー、一時期暇に任せて株式の先物取引に手出してたことがあるんだよね。その時に蓄えたものがね、少し。」
自費で作るから自費で。ね?アナハイムにちょーっとシャアに黙って置いてくれるように薬だけ効かせてくれない?
エースパイロットの主張に、ブライトは深々と溜息をついた。アムロの本当に恐ろしいところは「やる」と言ったら必ずやり遂げてしまうところにこそある。主人公の恐ろしさか、アムロがその気になったら何故か人材も資金も状況も時期も完璧に整う方向に動くのだ。…天命持ちとは正しくこいつのことだろうなと思う。逆らってもハナから無駄な話なのだ。アムロが嬉しげに部屋に来たところでもう半分がた諦めては居たのだが、ブライトは今度こそきっぱりと説得を諦めた。どうせ今から胃が痛む思いをさんざさせられるのだ、回数の一回や二回スルーしても変化はあるまい。
ただし、愚痴は出た。
「…お前、ホントに軍人なんぞにならない方が良かったよなぁ…。」
アムロが苦笑と形容できる笑い方で微笑む。
「あはは、俺もちょっとそう思う。」
あははじゃないだろう、アムロというのはシャアがよく口にする台詞だが、今回は奇しくもブライトも同じ事を思った。そう、止むに止まれぬ状況に追い込まれてガンダムに乗って軍人になんてなっていなければ、今頃アムロは……。
ブライトは、沸き上がってくる感傷にも近い感情を首を振って振り切った。今更、浸ってみたところで過去は取り戻せる類のものではない。代わりに、質問を投げた。
「本当にサザビーにするのか?…いっそ新作のモビルスーツとかでもいいんじゃないのか?」
ブライトの問いかけに、アムロは軽く首を傾げた。
「んー、ナイト・オブ・ゴールドとかシュペルターとかジュノーンとか作ってもねぇ。ファティマいないしねぇ。流石に俺も生命体造っちゃうのはちょっと…っていうかシャアに侍る美少女なんか造ってたまるかっていうか。」
ブライトが俺が聞きたいのはそういうことじゃなくて、と深々と溜息をつく。
「…作るなよ…どこぞの太陽神かお前。」
「それやっちゃいそうなのはコウだと思う。声同じだし。」
「まさか夜中に薔薇を撒き散らしながらタキシード姿で届けたり…。」
「殴るよ、ブライト?」
絶対零度の氷の微笑を浮かべつつ、アムロはやっぱりあの人には赤い機体がぴったりでしょ、とごく無難な結論を口にする。結論は無難なのに内容に難が多すぎるのは何故だ、坊やだからさ、とブライトの頭の中ではまたも虚ろな疑問がセルフツッコミ付きで展開されたが。
なんにしても、どことなく悄然として影の薄くなったブライトの肩をぽんぽんと叩き、自称弟分はにこやかに言い放つ。
「な、ブライトだってもう一度モビルスーツに乗るシャアの姿見たいだろ?」
「…お前ほどは見たくないが。」
「待っててね、直ぐだから。設計図俺の頭の中に完璧に入ってるし、ちょっとアレンジ加えるだけだから。」
「…少しは人の話を聞くことを覚えた方がいいぞ、アムロ。」
こうして、サザビー再建計画もとい『シャア・アズナブルをもう一度戦場へ連れ戻そう作戦実行委員会』(但し会員数一名)は実行に向けてスタートを切ることになったのであった。
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―――最近、アムロが何か隠し事をしている気がする。
シャアはニュータイプではないが、人の心の動きに機微なのは元祖ファーストニュータイプのアムロの比ではない。あの人望とカリスマ性は何も外見だけで形成されたものではないのだ。
話してくれないのか、と水を向ける機会は何度か有ったが、シャアは詮索したがる自分を抑えた。
アムロ・レイが自分と違った個人である以上、プライベートな領域は有って然るべきだ。只でさえ、一緒に暮らし始めて息詰まる思いをしているだろうに。基本的に放任主義の家庭で育ったあの野良猫のような青年は。幼少期より己の全てがガラス張りに晒け出され、プライベートなんて有るようで無きが如しであったシャアとは根本的に違うのだ。
アムロのことだ、言いたくなったら言うだろう…とは、ほんの少しこの青年を信じ始めているシャアが僅かに見せた余裕の現れ。不安はいつでも付きまとっているが、共に過ごした時間と経験はシャアの中の頑なな飢えを僅かにではあるが確実に満たし始めていた。
例えば二人で食後にコーヒーを飲んでいるとき。例えばνガンダムの改造計画の上申書を持ってきたアムロと意見を戦わせ、ふと一段落着いたとき。ふとした時間の隙間にくるりと心の裏側から黒いものが沸き上がることは在るけれど、それは全く抑えておける種類のものであったので。なので、シャアは待ちの姿勢のまま、以前の彼には考えられない辛抱強さでアムロが話を切り出すのを待っていた。
まぁ、アムロの側からすればその程度の不安くらい何時までも覚えてんなよしつこいなぁ、という位の出来事であったかもしれないのだが。
そんなある日、待ちに待った件の青年がほんの少し照れた様子でシャアの元を訪れた。いつもと違う雰囲気に、シャアは自分が待ち焦がれていた瞬間が到来したのを知る。シャアにしては青天の霹靂、天の恵み。だって遂に。アムロの方からシャアに手を差し伸べてくれたのだ。遂に、遂に…今まで釣った魚に餌はやらないと責める気もないしそもそもこの特上の赤魚からして餌無しの太公望の釣り糸に己から食いついて勝手に釣り上がったのだからまぁ文句は言えないが。
アムロは青い瞳を直視できないようで、視線を僅かに逸らしながら会話を切り出す。
「シャア、ちょっと…付き合って欲しいところがあるんだけど。」
「ああ、構わない。今から…でいいのか?」
「勿論さ。さ、支度して?」
無論、シャアに異存が有ろう筈もなかった。立ち上がるとそれまで検討していた資料の全てを机の上にぞんざいに投げ出す。
「分かった、五分待ってくれ。すぐ行く。」
アムロはホッとしたように、とても綺麗に微笑んで頷いた。
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+++To be Continued.
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