帰還
-Amuro's Counter Attack-

**********




 ※世界はSRW設定です。



*:*:*:*



惜しくない 君を失っても
本気で思ったいい気分で坂を転がり

欲にまかして 生きてゆくのは意外と
簡単な GAME OF LOVE
コインひとつで片がつくなら

DON'T LEAVE ME だれもいない
僕を許してくれるのは 君以外に
IT'S TOO LATE 届くわけない
どんなに優しさあふれる 言葉も宙に消える



*:*:*:*

+I+


 雨が、降っていた。

「…迎えに来たんだけど。」

 困ったように微笑む青年の髪の毛も、雨に打たれてブラック・ティーの色に変色していた。

 戸口に立つ不機嫌な金髪の男は、黙ったままタオルを差し出した。

*:*:*:*


 ブライトは目の前の一通の居住区域住居申請書と提出してきた赤毛の青年を見比べて首を傾げた。

 ラー・カイラムの中の居住区域はきっぱりと官民に分けられていた。軍人さんと民間人は居住のフロアも食堂さえも違う。

 そして目の前の青年、ロンド・ベルに戻るためしばらくの空白失踪期間を経て還ってきたアムロ・レイは、入隊手続きの一つとして一般人用の居住区域への住居申請を出してきたのだった。

 以前はアムロも彼のパートナーも軍用の、しかも士官専用のフロアから居室が動いたことはなかった。隣同士だったり離れたりしたことはあったもののずっとご近所さんで、区域は他に移ることはなかったのだ。
 だから、今回民間人用のフロアでと言われてブライトは一瞬戸惑った。アムロもシャアも現役の軍属ではないものの、最終階級はそれぞれ佐官と将官クラスではなかっただろうか。勿論この艦の中の数少ない軍属の中では階級はトップクラスに当たる。上級士官専用のブライトの部屋の側でも違和感がないくらいだ。

 ちなみに現在ブライトは准将。階級極めるまであと四つだよね、俺達が生きている内に元帥号取らせてあげるからね!とアムロを初めとする部下達に慕われているが、頼むから余計な真似はしないで欲しいと思う上級中間管理職である。

「…それは、余裕があるから受け入れは構わないが、何故民間人のフロアに?士官用のフロアの方が設備も…。」
「うん、でもね、士官用は個室ばっかりでしょ?」
 アムロが照れたように笑ったのでさしもの鈍いブライトもやっとその意図に気付いた。同時に、感慨深げに住居申請書に視線を落とす。
「成る程、ファミリータイプの部屋か…。」

「そう。『家族』は一緒に暮らさないとね。」
 当然のように言うアムロがおかしくて嬉しくて、ブライトは思わず笑い出した。

「なっ…!なんで笑うんだよ、ブライト!!」
 アムロが当然のように赤くなって反論する。お前の口から『家族』なんて言葉が出るとは思わなかったんだよと言えば確実に激怒するに違いない。涙さえ流しそうになりながらブライトは申請に許可のサインをするべくペンを取り出す。アムロとシャアに関しては、取り扱いが微妙なので正規手続きを通さず、ブライトが直接艦長権限で決裁を執り行うことにしてあるのだ。

「いや…勿論喜んで許可するよ、アムロ。…ところで名字はどっちに変更するんだ?」
 揶揄を含んだブライトの言葉に、アムロがさっと顔を赤くする。
「ば…バカ言うな、変わらないってばっ!!」
 顔中口にして喚くアムロに、ブライトは机に突っ伏して笑い出しながら続ける。
「いや、どれにするんだと聞いた方がいいか?『アムロ・アズナブル』、『アムロ・バジーナ』、『アムロ・ダイクン』…どれもこれも尽く似合わんなぁ、お前。」
「…っ、もう、ブライトなんか嫌いだよっ!!!!」

 ちょっとからかいが過ぎたらしい。アムロは真剣に怒った顔でサイン済みの申請書をひったくると、どかどかと荒っぽい足音で出ていった。ブライトがまだしばらく笑いの余波を堪えられずに居る内に、再びドアがノックされる。

「…どうぞ。」
 まだ笑みを顔に張り付かせたままブライトが返事をすると、ぱしゅっと軽い音と共にドアが開いて、今度はアムロの『家族』が姿を現した。首を傾げながら開口一番ブライトに問う。

「お邪魔する。…さっき、アムロが酷く怒った剣幕で走り去って行った様だが…貴方の所為かね、准将?」
「いや…すいません、からかいが過ぎたようです。」
 またも笑いを堪えきれない表情のブライトにシャアが訝しげな視線を投げる。
「からかい?」
「いや…部屋の申請に来たので、名字はどっちに変えるんだと。」
「…ああ。」
 シャアがブライトの言葉の意味を汲み取って苦笑する。ほんの少し照れた様子さえ見せる柔らかな横顔に、アムロは変わらないがこの人は変わったな、とブライトが妙に感慨深い事を思う。するとシャアがひょいと表情を邪気を含んだものに変えた。

「私がレイ家に婿養子に行っても構わないと言ったら怒るだろうかな、あれは。」
「…間違いなく三日は口を利いてくれないと思いますね。」
 ブライトの的確な返答にぷっとシャアが吹き出す。
「では止めておこう。」
「とか言いながら追い打ちをかけるんでしょうが。…ご用件は?」

 くっくっと顔を見合わせて笑いながら、ブライトがシャアに椅子を勧めた。優雅な物腰で腰を下ろす所を見ると、話は結構長引くものであるようだ。まずはシャアは報告を始めた。

「…私は公的には故人なのでね、『エドワウ・マス』名義で乗務員登録を済ませたよ。アムロは本名で行ったようだが。」
「それについては偽名にするのを貴方が止めたと聞きましたよ?」
 ブライトの質問に、シャアは微笑むだけで答えなかった。
 『ハリー・ポッター』という偽名を使うのだと主張するアムロを説得するのは一苦労だったとしても、例えその説き伏せた根拠が君には私と違って眉間に傷が無いだろうと言うものであっても、ふてくされたアムロにだったら貴方の偽名をハリー・ポッターに書き変えておいてやるからなと宣言されて君はヴォルデモード卿かね?!と不安になっていても、反論したらイヤむしろスネイプ先生そっくりだって言われてるけど話し方とかと言われて轟沈させられても、そんなことは余所であまり言い触らしたい話ではない。代わりに主張する。

「やはり、この船のクルーにとっても敵にとっても、『アムロ・レイ』の名前は絶大だ。…そうは思わないか?」
 シャアの提案に、ブライトも表情を変える。

「思います。…あいつは或る意味奇跡ですからね。」
「奇跡、か。…巧いことを言う。」

 彼が生きていると言うことを公表することによるリスクは大きい。しかし、そのリスクを考慮してなお、我々には『アムロ・レイ』が必要だと言うシャアに、ブライトは神妙な顔で頷いた。
「貴方はどうなのです?クワトロ大尉。」
 問われ、シャアは苦く微笑んだ。
「私か?…ブライト艦長、引退した人間を苛めるのは止めて頂きたいな。私の名前如き今更もう一度表舞台に上げても世間のいい笑いものさ。只でさえこうして生き恥を晒して居るのだ。」
 そんなことはない、と言おうとしてブライトは思い止まった。自分達にはともかく、彼には今一度この船に戻るのは苦渋の決断だったに違いない。シャア・アズナブルの帰還はアムロと同じくらい喜ばしいことで在るはずなのだけれど、本質的には。彼の矜持にそぐわないだけで。
 何より高い矜持とアムロを天秤に掛けてアムロが打ち勝ったのだから、ある意味確かにそういう意味でもアムロは奇跡と言えるのかもしれない。真っ直ぐでいて複雑骨折している目の前のネオ・ジオン元総帥の性格をそれなりに察しているブライトは、その話題はそこで打ち切る。

「ところで、ここにわざわざいらしたのはそういう用件ではないでしょう?何です?」
 νガンダムのパイロット再選考の議案なら突き返しましたよと一番目に頭に浮かんだ事柄を口にするブライトに、彼なりの気遣いに感謝しつつシャアも話題を変える。

「そのことだ。…実はひとつお願いがあるのだが、艦長。」
「何です?」
「私をパイロットからは外して貰いたいのだ。クルーとして参加するのは勿論だが、戦闘要員ではなくバックアップの、出来ることならば補給担当に回して欲しい。…構わないかね?」

「……貴方をですか?!」
 ブライトは思わず驚愕して立ち上がった。

 シャア・アズナブル、ブライトにはクワトロ・バジーナという名前の方が馴染みが深いが、彼はジオン、連邦、そしてネオ・ジオン、全ての組織に属してその何処に置いても文句無しのエースパイロットとして名を馳せていたのだ。その派手な経歴の人間を裏方に、という発想自体まずブライトには無かった。シャア自身も事が起これば真っ先にモビルスーツに乗り込んで飛び出していく類の人種であったし。

 驚くブライトを前に、シャアはぽつんと言葉を漏らす。

「私はもう、二度とモビルスーツに乗らないと…誓ったのだよ。」
「何故…ですか?」
 声さえ詰まらせるブライトの問いかけに、理由は色々あるのだがね、とシャアは苦笑する。しかし笑みの裏側の視線は強く、彼の意志が固いものであることを告げていた。

「前線に出ると、私の正体は確実に知れるだろう。それは…流石に拙いだろうと思ってな。だからといって手加減が出来るような性格ではないし、何よりそんな甘いことを言っていられるとも到底思えない。」
「…まぁ…『赤い彗星』の戦いぶりは際だちますからね。」
 ブライトの賛辞に昔の話だよ、今はもう後続のパイロット達の足下にも及ばないだろうなとシャアは苦笑する。
「それに、老兵の私がいつまでも一線に居続けるよりはカミーユやジュドー、ヒイロ達のような新しい世代を育ててやりたい。更にね、ブライト。」
 其処でやっとにっこりと微笑む。堂々と言い切る表情には、「説得力」という文字が墨で黒々大書されているようでもあり、また何かとんでもないことを企んでいるかのようでもあり。

「…君の胃薬の量もかなり減らしてやれると思うがね?」

 ぐらり。

 この言葉にブライトは大きく揺れた。思わず掠れた声で聞き返す。
「…胃薬の量、ですか…。」
 シャアが我が意を得たりとばかりににやっと笑う。
「自慢ではないが内向きの戦争も大得意だよ、私は?戦略と戦術は勿論だが、補給や資金面、情報戦と交渉ごとは全て任せてくれても構わんよ。艦長の肩の荷物も半分以下になるだろう?」

 ぐらぐらぐらり。

 今度もブライトの心はかなり揺れた。内向きの人心掌握はしっかりしているものの、実は外向き対外交渉の苦手なブライトである。
 金繰りなんてましてや素人同然。ロンド・ベルはいつでもシャアカラーのように真っ赤な赤貧洗うが如き台所事情を抱えて転戦していたものだった。
 そりゃ、ネオ・ジオンの総帥として立っていただけではなく、ちゃんとした帝王学を学んだ王子様だ。政治分野と交渉・駆け引きは得意中の得意だろう。ダカールだのなんだのでぶちかました演説は伊達でも酔狂でもない。事実エゥーゴ時代にブライトはこっち方面の分野で随分『クワトロ大尉』をあてにしていたものだ。しかも。

「…全部、ですか。」
「ああ、全部…だな。私に任せてくれるなら二度とロンド・ベルを貧乏所帯とは言わせんようにしてみせると約束しよう。」

―――君のストレスの減少もな。

 この公共広告機構コードすれすれ誇大広告というか決まり文句というか口説き文句というかとにかく自信に満ちあふれた発言は、見事金的に命中した。

 よろよろよろ…ぱたり。

 この甘美すぎる誘惑に、結局ブライトは勝てなかった。ほう、と溜息をつくと伺うような表情でシャアに問う。

「…お願い、できますか?」
「勿論だとも。」
「では、今すぐ辞令を出しましょう。」
「宜しく頼む。」


―――ブライト・ノア。金髪碧眼の悪魔に魂を売り渡した瞬間であった。


 申し出は冗談めいていたが、シャアからその後で嘗ての愛機のサザビーを沈めて以来もう二度とモビルスーツには乗らない、という誓いを立てているのだと聞いて、それなりにブライトは納得した。

 それに、変に目立つシャアを最前線に出すよりもバックアップを担当して貰った方が彼の身分としても気楽だろう、と判断したのもある。政治的にもまだまだシャアの身柄は利用価値があり、迂闊に身分が知れると以前のように連邦軍の暗殺対象のトップにされかねない。しかも、公式には彼は連邦軍の罠に掛かって死亡したことになっているのだ。身に及ぶ危険も以前の比ではない。幽霊をもう一度殺しても犯罪にはならないし。
 爆弾を抱え、庇いながら戦うよりは最初から居ないものとして、必要が在れば身分を明かせばいい。シャアはそう提案したのだ。ロンド・ベルにとってもブライトにとっても悪い話ではなかった。元々アムロの参加に着いてくること自体も躊躇していたシャアをもう一度表舞台に無理矢理引っ張り上げたのは他ならぬ自分達だ。

…胃薬の原因を半分以上引き受けてくれるというのが最大の原因であったことは否定しないが。



 こうして、新生ロンド・ベルは再び宇宙の平和のために発足されたのだった。






**********

+++To be Continued.

 

 

続いてしまいました…(爆笑)
既にシリーズ化する勢いです。読者二人というのに何処へ行く暴走特急…。(だからか)
このままだと「また会いましょう」の前の話が書かれる日も近いです(おいおいおいおい)
アムロとシャアの恋の始まりからねっとり行きそうですv(泣)
ただしマナちゃんにはお引き取り願いました(笑)話収拾着かないので(オリキャラ嫌い)
てゆーかもう無茶苦茶です。元ネタは泰葉さんなんですがね!(マジで)
連載になっちゃいそうってどーなのよ…(泣)

ブライトパパ(パパ?)はもうなんか色々割り切ってます。(それまでの経緯を考えると哀れだな)
シャアとえらく息が合ってますが、どうやら婿養子同志(…同志?)
同病相憐れむというか相通じるものがあるというかそーゆー所らしいです。

背景の写真は紅白の薔薇で。(笑)
お目出度いですねー。誰と誰とはいいませんが!(爆笑)
この先の展開はサブタイトルが全てを物語っているかと……(苦笑)

 

+++ back +++