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簡単簡単ベリーグー
簡単簡単ベリーグー
輝く明日に向かって
バラ色の人生に向かって
これがすべての僕の事だよ
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「なぁ、俺とあなたって恋人同士だよなぁ?」
突然尋ねられ、金髪の男は目をぱちくりさせることになった。
そんなことを突然聞かれても困る。しかもご機嫌が猫の目のようにくるくる変わるアムロに向かって。
万が一外しでもしたら目も当てられない惨状になるのは目に見えている。軽々しく答えるべき質問ではないのだ。
なかなか返答をしない男にアムロが焦れる。不機嫌そうにもう一度口を開いた。
「なぁ、黙ってないでなんとか言えよ。」
「確か、そうだと私は記憶しているが…」
なんとかそれだけ微妙な返事を絞りだしたシャアに向かって、彼の部屋のベッドで行儀悪く我が物顔に寝そべって雑誌を捲っていたアムロが顔を上げて身を乗り出す。
「じゃあさ、キスとかしないわけ?」
「……。」
この直球ストライクゾーンど真ん中ストレートの暴投に、流石のシャアも絶句した様だった。
しかしながら赤い彗星は立ち直りの早さも抜群の三倍速で、次の瞬間にはもう微笑んでアムロを眺めている。
「君が…。」
言いながら、座って書類を検討していたデスクを立ち上がってベッドサイドに膝を着く。
大体、折角の休日だというのにアムロが全く自分を構ってくれないから仕方なくシャアは仕事なんてしていたんだけれども。
気まぐれな子猫ちゃん(等というとアムロが激怒するから口にはしないが)が少しでも構ってくれる気になったのなら大歓迎だ。
「君が望むなら…。」
その言い方にアムロが眉を顰めた。
「俺のことはいいの。あなたは?」
「私は……。」
シャアはスクリーングラス越しに覗き込んでくる多彩な変化を見せる琥珀色の瞳に僅かに笑みを漏らす。
「私は、勿論君とキスがしたいな。」
「ふぅん。」
アムロはその答えに満足したようだった。
にっこり微笑んでそのまま雑誌に視線を戻したアムロに、シャアは当てが外れた様な顔をしてアムロを暫く見つめていたが、やがて諦めたのか床に座り込んだままベッドに背中を預けると、黙って天井の照明を見上げていた。
仕事に戻るには、今少しアムロの気配が恋し過ぎた。
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五分程経っただろうか。
アムロが再び読んでいた本から顔を上げて、腹這いのままもそもそと金髪の男の側まで近付いてくる。
「ん。」
「…?」
背中越し肩の窪みに顎を乗せられたシャアが首を傾げる。アムロは続けた。
「読んでた記事、読み終わったから。」
丁度良いところだったんだよねさっき、と言われても前後の文脈が与えられていないシャアには何のことだかさっぱり分からない。
せめて主語ぐらいは補ってくれと困惑していると、アムロが焦れたように自分の顎でシャアの肩をぐりぐりと押した。
「なんだよ、キスすんじゃないの?」
「………。」
君とはどうも時間の流れが違うようだな、とシャアは思ったが、敢えて口にはしなかった。
代わりに手を伸ばしてアムロの頭を軽く撫でる。そのままゆっくりと首を回して、アムロに顔を近付けた。
途端、アムロがまた手を出して近づいてきたシャアの顔を制止する。
「あ、ちょっと待って。」
「……今度は一体なんだね?!」
さすがにシャアから不満の声が上がった。しかしアムロは悪びれる様子もない。けろりとした顔で己の要求を言い放つ。
ご丁寧にもこつこつ、と指で気に入らない邪魔物をつついてみせながら。
「スクリーングラス邪魔だよ。」
「…………………………………………。」
君は女かね、と声にならない非難が聞こえた気がしたが、シャアは黙って顔の半ばを覆う漆黒の色眼鏡を外した。
現れる青い双眸と秀麗な容に、これで完璧とやっとアムロが笑顔を見せる。
「やっぱり好きかも。」
「……?」
「あなたの瞳。」
「…それはどうも、瞳を誉めて頂いて。」
「顔も好きだよ?」
「……君が面食いなのは十二分に承知している。」
苦笑するシャアの薄い唇を、顔を傾けてきたアムロが先に塞いでしまう。
「君ね、人にはああだこうだと注文を付ける癖に…。」
短いキスの後、シャアが諦めたような笑うような調子で呟く。
「うん…。」
アムロは返事をしないでもう一度瞳を閉じた。今度は意図を悟ったシャアも体を回してきちんと唇を重ねる。
深く、長くと求め合った後、顔を離したアムロの息は上がっていた。
はぁ、と浅く深く整わない呼吸を続ける青年の頭を腕を伸ばして抱きよせる。
「甘えるのが好きな男だったのだな、君は。」
「いけないか?」
「いや、大歓迎だ。君ならば、な。」
くすくすおかしそうに笑うと、その笑いが青年にまで響いたらしくくすぐったい、と身じろぎされた。
「注文も多いし。」
揶揄するように男が言うと、アムロはじろり、とシャアを睨み付けた。
「俺、折角あなたとキスをするのに読みかけの雑誌が気になるのは嫌だしスクリーングラスが顔に当たって冷たいのも嫌だしあなたが俺のこと好きじゃないのはもっと嫌だからね。」
それの何処が注文が多いんだよ、と言われてシャアは目を見開いた。
「…最後のひとつは聞き捨てならないが。」
後のは分かる、ありがとうと微笑むシャアにこの人本当に分かっているのかね、とアムロは思う。
一応、「初めてのちゅー」だったのだ、今のは。…完璧にお膳立てしろとは言わないが、少しぐらい気を使ってくれても。
けれどそんなことを言うと禄でもない結果を引き起こしそうなのでアムロはその事に対する言及を控えた。
うっかり口走って「仕切直し」とか言われて満天の星空の下とかに引き出されたりしたら堪ったもんじゃない。また、やりかねないし。この男は。
結論付けて、アムロは話題を戻した。
「あなたは甘えられるのは嫌がりそうなのにな。」
アムロが面白そうに言いながらベッドから身を乗り出して自分の腕もシャアの首に絡めてきた。
「相手によるな。君なら歓迎だと言っただろう?」
軽くその唇をキスで掠め盗り、シャアが微笑んだ。その笑顔を見て理由もなく不意に幸せだなぁとか思っちゃったりなんかしちゃったりしたりしたアムロがああもう絶対ダメだ俺末期だ、とがっくりと項垂れる。
「俺達、今相当仲良しだぞ、いけてねぇよ」
照れたように呟くアムロに、シャアが苦笑する。
「恥ずかしいなら止めるか?」
「……………………………………………。」
アムロは何も言わずにじろりと意地悪な金髪を睨み付け。
「いいよもうここまで来たら。転落しても独りじゃなさそうだし。」
言いながらぎゅう、としがみつくように金髪の頭を抱きしめる。
子供のように甘える様子にシャアはベッドの上に上がってきちんとアムロを抱きしめたくなったが、だからといって今のアムロを振り解くのも忍びなくてそのままにさせておいた。
「二人でパラダイスロスト、というのも悪くはないか。」
「多分、あなたとなら落っこちた先が天国だよ。」
洒落てみせたつもりの口説き文句をそれ以上に糖分過多なボケで打ち返されて。
珍しく完全に言葉を失ったシャアは、紅く染まってゆく目元を隠したいが為に、大慌てでスクリーングラスは何処へやったかと手で床を探ったのだった。
抱きついているアムロが熱を持った白皙の頬に気付かないで居てくれることを祈りながら。
とりあえず現状として二人は、恋人同士以外の何物でもなかったようである。
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陽がまた昇るまた陽が暮れる
とぼけてる顔で実はがんばっている
陽がまた昇るまた陽が暮れる
とぼけてる顔で実は知っている
愛する人よ何処へ行く僕を残して何処へ行く
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+++END.
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