溶ける午後
-JUICE-

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人は、海のようなものである。
あるときは穏やかで友好的、
あるときはしけて、悪意に満ちている。
ここで知っておかなければならないのは、
人間もほとんどが水で構成されているということです。
―――アルバート・アインシュタイン
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「それ、一口ちょうだい。」

 横合いからかけられた声に、金髪の男は足を止めた。
 振り返ると普段の目線より遙かに下方に見知った顔を見つける。

 アムロは丁度愛機の整備中だったらしく、作業着姿に顔と言わず手と言わずオイルやらなにやらでべとべとにして座り込んでいる。

「おや、アムロか。」
「うん。それ頂戴、喉乾いてるんだ。」

 言われて、クワトロは自分の手元の紙コップ入りの飲料に視線を落とした。そこには少し温くなったアイスティーが入っている。
 販売機で買ったのだが、どうも製品が入れ替わっていたらしくガムシロップが入っていて、持て余していた代物だ。

 クワトロはとりあえずその場にかがみ込んで、その後で頭を絞ることになった。
 両手の使えないアムロに一体どうやってこの紙コップ入りのものを飲ませたら良いものか。
 勿論、ストローなどはついていない。そして端をつまんで飲みたまえ、などと言いたくもない程アムロの手は汚れきっている。
 おまけに片手にはご丁寧にスパナまで。

 果たしてコップを傾けて飲ませてやれるだろうか、と思案に暮れていると、喉が渇いているらしいアムロが焦れたように催促した。

「ね、飲ませてってば。」
「ああ、構わないが…。」

 コップ毎アムロにやってしまっても構わないか、と思い始めた時、アムロがクワトロの鈍さを責めるように上目遣いで睨め付けてくる。

「ね、シャア。あんたのその綺麗なお顔付きの頭、飾り?」
「…いや、そうではないのだが。」
「だったら手じゃなくて口でも使えば?」

 嫌味っぽく、挑戦するように。

 それでもどこか拗ねて甘えたその口調に、漸くクワトロも意図に気付く。

「…確かに鈍かったな、すまない。」
「遅いよ。」

 ブツブツと呟くアムロの目の前で苦笑しながらクワトロは紙コップから甘いアイスティーをひとくち口に含み。
 ゆるりと腕を伸ばしてアムロの男性にしてはやや小柄な身体を抱き寄せて。

 ガンダムの影で、こっそり口移しのキスを交わした。

 うだるように熱いデッキに、冷房の国からやって来たクワトロ王子のひんやりした服越し冷えた体温が気持ちいいと、アムロは背中に腕を回す。

 紙コップの中には、少し長めの休憩の口実には十分なアイスティーが残っていた。

 ふぁ、とアムロが長めの息継ぎをして、ぐいとクワトロの服を引く。

「ね、もう一口ちょうだい?」

 おねだりに嬉々として答えていたクワトロが、赤い軍服の背中に付着した派手な機械オイルの汚れに気付いて洗濯だと言い張ってアムロ越しシャワールームへと人目を避けて逃亡するのは、紙コップが空になってクワトロの体温もアムロと同じだけ上がってしまったあと。

 その手の汚れを広げないためにも何処にも触らずにじっとしていたまえよ、油汚れは落ちないんだから、というのが今回アムロを一番追い込んだ色気のない決め台詞であった。

 両手が使えないまま、アムロの運命は次のステージに続く。






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+++END

 

 

ってわけで、場繋ぎです(うっわー)
アムロの運命はつ・づ・く(逃亡)

 

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