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So ist es die allmacht'ge Liebe,
Die alles bildet, alles hegt.
今日もとりたてて目新しいことがあったわけではない。
全く普段と同じ日常の繰り返しに飽き飽きしながら、コウは地上に降る太陽の光を見上げた。
洗濯日和だよなぁ、と暢気な事を呟いたら、同僚のキースにお前ってやつは本当に天然、と呆れられた。
こうしていると、本当に嘘みたいだなぁと思う。自分がいっとき宇宙に居たことがあるなんて。
しかも連邦の秘密兵器、あの白い機体、「ガンダム」に乗ったことがあるなんて。本当に嘘みたいだ。
最も、公式には本当に『嘘』なのだろうけれど。
あの、閃光が駆け抜けたような濃い時間は、この世にある全てに刻まれることを拒否されたのだから。
命のやり取りは、もうコウにとって遠い話になってしまった。
けれど、忘却は果たして罪なのだろうか。
コウの精神と肉体を未だちくちくじゅくじゅくと責め苛む記憶は、一体どこまで抱えていけばいい類のものなのであろうか。
望んだものではない空白の間に、コウの中での時間と外界の時の流れは微妙に食い違ってしまった。
それは表立ってはコウのぼんやり具合を更に酷くさせたものとしてしか出てこないが、コウには厭になるほど十分理解できていた。
もう、二度と再び自分はかつての『コウ・ウラキ』には戻れないだろうということが。
なかったこと、になんて出来る訳がないのだ。
コウは黙ったまま、雲流れ行く青空を見上げ続けていた。
どの学校の何の授業だったか忘れたが、青空と白い雲だけ描いた画家が居たはずだ。
タイトルは確か、『地獄の風景』と言ったか。
今日もこの基地は平和で、コウの日常も平々凡々と積み重ねられていっている。
けれどそのことがどれだけ重大で罪深く、背徳的な裏切り行為であるのかということは。今ではコウにしか分からない。
断罪の物差しさえ既にレテの河を渡ってしまったのだから。
だからコウは、ここでこうしてひたすら自分を裁き、断罪し続けている。
忘れないことで。記憶を失わないことで。あの人の名前を忘れないことで。
唇が、僅かに動いた。「アナベル・ガトー」という音が、青く澄み切った空白に吸い込まれて消えた。
そして。まるで懺悔する僧侶のように、コウは深く深く項垂れる。
この様に全てを造り、育むは
全能なる愛のわざである
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+++END
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