Hungry?




**********




 外での食事の約束をしていたのは、珍しく休みの予定が合ったからだった。

 予約してあるレストランには少し歩くということで、待ち合わせをした建物の前にアムロが約束の時間ぎりぎりに(それでも遅刻はせずに)走ってくると、シャアは既に先に来て手に持った雑誌に目を通しているところだった。

「悪い、待たせた」
「いや、君は時間通りだろう」

 息を弾ませるアムロに気付いたシャアがなんて顔をしていると苦笑し、雑誌を手にしていた鞄の中に入れて(彼は仕事先から直接来ていた)歩き出す。

「急ぐ必要はないからな、ゆっくり行こう」
「あ、うん」

 これってもしかしなくてもデートだよな、と今更ながら気付いたアムロが―――例え最後はお決まり通りどちらかの部屋になだれ込むとしても―――僅かに照れくささの微粒子を纏った嬉しさを感じて、シャアの隣りに並んで歩き出す。

「なんかさ、パイロットだけやってりゃよかったころが懐かしくなるよな」
「まぁ、そう言うな。私達の先達も通った道だよ」
「そうかー?なんか、司令室でふんぞり返って命令だけ出してりゃ良くなるまでにはまだまだ遠そうだけど」
「君はね」
「……ああ、そりゃそうですね、あなた既にその年で「大佐」ですもんね」

 べぇ、と舌を出そうとしたアムロがきょとんとした表情で立ち止まり、ポケットから携帯電話を取り出す。

「…ブライトからだ、なんだろう」

 言いながら通話ボタンを押したアムロはブライトと歩きながら会話を始めたが、やがてその眉間に皺が寄って、「今から?」とか「でも、俺出先だぜ?」という台詞が混じり始める。
 やがて、ぴっ、と電話のボタンを押して通話を終了させたアムロは、深い深い溜息をついた。何となく事情を察したシャアが気遣って声をかける。

「すぐ戻るかい?」
「いいや、意地でも飯くらい食ってから行く…悪い、あんまり時間なくなった」

 急ごう、とシャアの腕を取って早足で歩き出すアムロに苦笑しながら、シャアが簡単な店にしておいて良かったな、と呟いた。

「ったりまえだ、俺給料日前だし、フルコースなんて付き合う余裕ないっての」
「だから、奢ると言ったのに」
「馬鹿言うな、そういうカードはもっとここぞって時に切るに決まってるだろ」

 べぇ、と軽く舌を出し、アムロはシャアを急かして、目的地目指して夕暮れの街を忙しなく歩いていった。







 かちゃり、とフォークを置くと、アムロはナプキンを置いて立ち上がった。

「じゃ、俺行くわな。これ以上は流石に言い訳効かなさそうだし」
「ああ、気を付けて」

 まだワイングラスを傾けているシャアに済まなさげに詫びながら、呼び戻されたアムロは食事もそこそこに席を立つ。
 シャアの方はアムロと違ってゆっくり料理を楽しむつもりらしく、メニューを見ながら楽しそうな顔をしている。

「次に君と来るときのためにメニューの開拓をしておくよ」
「…すんな、また来る楽しみ減るだろう」

 苛立ったように金髪の男の覗き込むメニューをさっと手元から取り上げながら、アムロは時計を覗き込んで、うぁ時間やばい、と眉を顰めた。先程から何度もアムロの電話が忙しなく鳴っているのを知っているシャアは、苦笑しながら早く行きたまえ、と青年を促す。

「心配しなくても、君が食べたそうにしていて断念したメニューを試したりはしないから」
「約束な、絶対一人で食うなよ!」

 固く言い置いて、それじゃあ済まないけど本当に俺は行く、と言ったアムロがやはり申し訳なさそうな顔をするので、シャアは心配ないと微笑んで手を振る。

「気にしないでくれ、半分貸しだな」
「…なんだよ、貸しって」
「もう一度仕切直しで私と出かけなければならないということだよ。食事は済んだから、飲みに行く所からな」
「なんでそんなペナルティがつくんだよ、理不尽だ!」
「軍とは常に理不尽なところだよ、アムロ・レイ大尉」

 何食わぬ顔で言いのけてアムロがぐっと言葉に詰まったのをいいことに、シャアが笑顔ででは、約束したからな、とだめ押しをする。

「また、いつかそのうち、改めて二人で出かけようじゃないか」
「……っ」

 アムロは瞬間胸が詰まったような顔をして、その後できゅっと唇を引き結んだ。

「シャア」
「うん?」
「受け取れ」

 ぽん、と掌に何かが放り込まれた。それが、先程までアムロが忙しなく開けたり閉じたりしていた白い折り畳み式の携帯電話だと気付いたシャアは、不思議な顔をしてアムロを見上げる。

「…これは、君の携帯電話かい?」
「人質だよ」
「人質?」
「いいから、あんたの携帯貸せ」

 言いながら強引にシャアの手元から不審そうに取り出された彼の携帯電話を取り上げ、なんだ、やっぱり赤いんだな、派手なヤツなどとケチを付けながら自分の頬に当てて、ふふんと笑う。

「幾ら俺でも自分の番号くらいは覚えてるから、ソレにかけるから、自分の番号からだったら出ろよ。それ以外は取るな。勝手に留守電に転送になるから」
「…いいのか?」
「あなたもコレを俺が持ってりゃ他の約束なんて出来っこないだろ」

 そのまま腑に落ちない様子のシャアに、アムロがきっぱりと言い渡す。


「…また、いつかなんて約束するくらいだったら、今夜一時間逢えた方がマシだ」


 寝ずに連絡待ってろよ、俺もその携帯ないと困るんだから!

 言い放って今度こそ焦ったように走り出していくアムロの後ろで、取り残されたシャアは手の中に同じく主に置いて行かれた携帯電話に視線を落とし、堪えきれないように笑いだしたのだった。







**********

+++END

 

 

たまに、ごねずに拗ねてみせるかわいげ三十代のシャア・アズナブルで。(笑)
聞き分けが良かったりする方がアムロは物足りなくなって寂しがってくれそうです。
押して駄目なら引いてみろ、みたいな・・・(笑)
何度も使える手ではないので注意しましょう、シャア総帥(笑)

 

 

 

 

 

 

 

 

+++ back +++