愛し愛されて生きるのさ

**********




「シャアとのことで、悩んでいることがあるんだ」

 久しぶりに遊びに行った先でアムロに言われ、ブライトは首を傾げた。
「どうした?浮かない顔をして」
「うん、俺達、倦怠期みたいなんだ」
「・・・ケンタイキ?」
 ケンタッキーじゃなくて?いまなんかものすごーくあり得ない単語を聞いた気がするぞ、と思いながらブライトは出されたコーヒーを口に含んだ。
 途端、記憶に馴染んだアムロ特製コーヒーの味に噎せ返りそうになる。

―――そうだそうだそうだ、こいつのコーヒーはこんな味だっけ…!

 ロンド・ベル隊が宇宙から地球を侵略するためにやって来た敵と戦って解散してから数ヶ月。その間にすっかり平和ボケしたブライトの体は、アムロの衝撃的なコーヒーの味を忘れていたようだった。思わず涙目になりながら添えられたミルクと砂糖を大量に投下する。

 基本的に軍隊生活が長かったので出された食事に文句を言うことはまず無いブライトだが、戦艦に共に乗っていたあの頃、遂にアムロのコーヒーに適応する味覚と体力を持ち得たのは、上官でもあり、良き友人でもあるブライトと、恋人のシャアことクワトロ大尉の二人だけであった。
 『人類の革新』という言葉をしみじみ噛み締めつつ、出されたコーヒーには味も香りもみずとりあえずミルクと砂糖を大量投下する癖がすっかり付いてしまったブライトは、家に帰ってから暫くは薫り高いコーヒーを淹れてくれる愛妻ミライにイヤな顔をされたものである。…はさておき。

 カフェ・オ・レならぬコーヒー入り砂糖ミルクをなんとかすすりこみながら、ブライトはアムロに改めて尋ねた。

「で、一体何があったんだ?倦怠期だなんて……」
「うん、ぶっちゃけていうと、ここんとこ全然夜の生活がないんだけど」

 ブライトが飲みかけのコーヒー入りミルクを吹きそうになる。

「お、お前っ!そんなことを心の準備もさせずにぶっちゃけるな!!」

 真っ赤になって叫んだブライトに、えー、なんでー、今更じゃん、とアムロがあっけらかんと言う。

「俺とシャアとの仲なんて戦艦に乗ってた頃からじゃないか…」
「あの頃は隠していただろう?!」
「や、だってそりゃ、ちびっこの教育に悪いし。ブライトなんか初めっから知ってるのにさー」
「別に俺は知りたくなんかなかった!」

 不毛な舌戦を繰り広げつつ、ブライトが軽く溜息をついた。
「で?…それで倦怠期なのか、お前達」
「うーん、喧嘩してるわけじゃないんだけど、なんていうか、シャアって結構甘えたがりだからさぁ、独りで寝るの嫌いなんだよね。それがここ暫くは全然俺のベッドにも近寄って来なくてさ。えっちなことも仕掛けてこないし。なんかあの人らしくないっていうか……」
「ああ…そうか…」

 既にかなり「聞くんじゃなかった」と後悔しつつブライトが相づちを打つ。苦虫を噛み潰したような艦長の顔には気付かず、アムロが続けた。

「色々試したけど駄目だったんだよねー。エプロンとか焼き肉とかクスリも試したんだけどさー。どうも今ひとつ盛り上がらなくてさー。」
「…そうか、………試したか。」

 だから何で他人の家の家庭の夜中の事情、しかもむくつけき男同士のなんぞ聞かされねばならないのだ。俺なにか悪いことしましたか神様、これは新手の試練か拷問か、と思いつつブライトが眉間の皺を押さえる。

「一瞬さ、俺に飽きたのかな、とかも思ったんだけど、確かに俺もう三十の声は聞いてるけど、そんな急に敬遠されるほど老けてないと思うんだよな」

 等と真剣に腕組みをするアムロは、二十九歳という年齢はまず嘘だと思われるほどの童顔だ。それに、ブライトの知っているクワトロはアムロにそれこそぞっこん(死語)ラブで、飽きたなどという単語が当てはまるような人間ではない。

「なんか、お前がまた苛めたんじゃないのか、気付かないうちに」

 思わず尋ねてしまうと、あ、ヒドイ、とシャア苛めに関しては数々の前科を誇るアムロが顔を顰めた。

「それがさ、ブライト。聞いてくれる?俺、さすがに昔はシャアに優しくなかったなー、って反省して、最近ではちゃんとご飯作って待つようにしてるんだけど!」

 その言葉に、思わずブライトは再びコーヒー入りミルクを吹きそうになる。

「…お前がか?!」

 コーヒーだけではなく、確かアムロは料理の腕も壊滅的に天才的で破壊的だったような気もするが。…ブライトの記憶が確かならば。けれど、その言葉を聞いてアムロはにっこり笑う。

「うん!結構上達したと思うよー。シャアも毎晩食べてくれてるし」
「ちょっと待て、お前毎晩クワトロ大尉に手料理を食わせているのか?!」
 それは、毒を盛っているに等しいんじゃないか?!とは、流石のブライトも聞けなかったが。
 アムロはうん、そう、当たり前じゃない、ヨメなんだし、と素直に頷く。

「そうだよ。…あ、そういや最近食欲もないんだよな。やっぱり、体の何処か悪いのかなぁ?」

 病院連れて行った方がいいと思う?

 心配そうに聞いてくるアムロを余所に、そりゃぁあのアムロの料理を毎晩食わされていたらそれだけで体力消耗して夜の生活どころじゃないだろうさ!とは思いつつも。

「そうだな…たまにはその、状況を変えてみる、とかした方がいいんじゃないのか?…ほら、その…が、外食してみるとか、久々に…」
「ええ?だけど、外でデートするなんて、折角新婚さんいらっしゃーいごっこしてるのに…」
「新鮮さと刺激が必要だとさっき自分で言っていたじゃないか!」

 などという、ありきたりで当たり障りのないアドバイスしか出来ない艦長であった。



 後日、アムロから「ブライトのアドバイスどおりにしたらアッチの方復活したよー!やっぱりマンネリ化してたのかなぁ?ありがとう、やっぱり持つべきものは既婚者の友人だよね!」というお礼のメールと、クワトロ・バジーナから暗黙の理解に対する感謝の証としか思えない夫人のミライへの豪華な花束が届いたのは、それはそれで複雑な気もする、本人与り知らぬ所ですっかり花嫁の父なブライトの気苦労の日々は続く。
















**********

+++END.

 

 

ええっと、なんでもない新婚さんな「恋するアムロ大尉」シリーズ。(シリーズだったのか・・・)
シャアが見ていないところで、ブライトも苦労しているようです(笑)
がんばれ負けるなロンド・ベル!(なにかが違う)

 

+++ back +++