恋愛感染経路




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「納得いかないなぁ」

 コーヒー入りのマグカップを二つ持ってやってきたと思ったら、一つを自分に渡して隣に座ったアムロからいきなりそんなことを言われ、新聞を読んでいたシャアは目をぱちくりさせた。

「納得がいかない、とは?」
「だってさ、俺さ?ひょっとしたら今頃は平々凡々とした暮らしの中で、軍隊にも入らなくてその辺の企業かなんかに勤めて、幼馴染みのフラウとでも結婚して子供三人くらい作って、娘にパパのパンツは一緒に洗わないで!とかお風呂には一緒に入りたくない!とか言われてそれに一喜一憂するくらいの生活をしていたと思うんだよね」
「ほう」

 想像がやけに具体的でリアルなのはブライトの影響か何かだろうかとシャアは思ったが、懸命にもそれは口に出さずに相槌を打った。アムロは深々と溜息をつき、きっとシャアを見上げてマグカップを持っていない方の手をシャアの頬に伸ばす。

「それなのに、この、お綺麗な顔になんてうっかり巡り逢って絆されて騙された挙げ句、軍隊入りしてモビルスーツなんか乗る羽目になって」
「痛いよ、アムロ」

 頬を抓られたシャアが抗議の声を挙げたが、アムロは知るか、と言ってぐにっと益々シャアの頬を引っ張った。

「平凡な暮らしを送れなくなっちゃったのは、みーんなあなたの所為だぞ。だから、責任取ってくれ」

 無茶なことを言いながら顔から手を離し、肩に甘えるように擦り寄ってくる癖毛の青年に、シャアが口元に軽い微笑みを浮かべて口先で謝罪する。

「それは、すまなかったな。どうやって埋め合わせをしてやればいい?」

 言いながら年の割にまろやかな線を描く頬をつついてやると、マグカップを両手で抱え込んで熱いコーヒーを啜っていたアムロは煩そうに身じろぎしながらフンと鼻を鳴らした。

「今更謝っても許してなんかやらないよ。俺の薔薇色の平凡ライフを返してくれ」
「分かった分かった、今夜のメニューは君の好物のビーフシチューでどうだ?」

 シャアの懐柔策を、半目でじろりと睨んだアムロが一蹴する。

「そんなもんで誤魔化されないぞ、子供じゃないんだから」
「じゃ、君のために取って置きのワインも抜くよ。シュヴァル・ブランが飲み頃だったかな」
「そ…んなんで、買収できると思うなよ」

 それでも一瞬揺れたのが悔しいのか、頬を膨らませるアムロの肩に腕を回し、額や髪の毛に宥めるようなキスを幾つも贈りながら、シャアは耳元で囁いた。

「それじゃ、今日の午後一杯、ここは君の特等席だ。好きなだけ甘えているといいさ」
「いらないよ、こんな固い胸」

 憎まれ口を叩きながらシャアの肩口にもぞもぞと収まりのいい場所を求めて擦り寄ってきていたアムロは、やがて落ち着くポジションを見つけて安堵の息を付くと、カップを手に持ったままうとうとし始めたので、シャアは苦笑してその手からカップを受けとってデスクの上に置いた。
 眠そうな蟀谷に甘いキスをしながらお休み、せめて夢の中では平凡な幸福を、と囁くと、アムロはごそごそと手探りでシャアの手を探しながら寝ぼけた声で呟いた。

「ん…まぁ、でも…普通じゃなくても、シャアがいたら、それでいい…か…な」

 言いながらシャアの掌を探り当て、ぎゅっと指を絡めて握って安心したようにすやすやと眠りに落ちていったアムロに、なんだ本当にただ甘えたかっただけかと苦笑しながら、シャアは自分も繋がれた手にそっと力を込めた。

 ゆるゆると全身に染み渡る甘い感情は、繋がれた手からシャアにも伝わって、身体の奥底までを浸食していくようであった。

(YOU MAKE ME FEEL LIKE A TEENAGER AGAIN. SO YOUNG AND FRAGILE.)











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+++END

 

 

読んだまま。(笑)アムロはこういう甘え方をしてシャアをメロメロにするといい!という話。
しかし、シャアの家のワインセラーは一体どうなっているのか覗いてみたいですヨ(笑)

 

 

 

 

 

 

 

 

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