ほろほろ酔うて
-We're gonna share the bed.-

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「こら」

 軽い叱責の声と共にひょいと取り上げられた隠れたお楽しみに、アムロは悪戯を見つかった子供のように首を竦めて眉を顰めるこの部屋の主を見上げた。

「ばれたか」
「ばれたか、じゃないだろう?キッチンドランカーか、君は」

 しかもこんなアルコール度数の高いのを、と咎めるような視線を送ってくる部屋に帰ってきたばかりのクワトロに、アムロはちょっとしか飲んでないよと言い訳をする。男を待っている間に、と思ったのだが、予想よりもクワトロが帰ってくるのが早かったのだ。

「ナイトキャップ代わりさ」
「ナイトキャップにしては随分過ごしているようだな。さっきから見ていればもう三杯は飲んだだろう」

 しかし取り合わずにすぱっと切り替えされ、アムロが慌てたような顔になった。

「そうかな…って、あなた見てたのか?!」
「ドアを開けたのに君が気付かない様だったのでね。一杯で止めたのならば見て見ない振りもしたのだがね」

 スクリーングラス越しでも冷たい視線が感じ取れそうな雰囲気でじとりと睨んでくるクワトロに、少ししか飲んでいないという言い訳も通じないと見て取ったアムロは、ばつの悪そうな顔をして頭を掻いた。本当に悪戯を見つかった子供のようなその仕草に深く溜息をつきながらクワトロがスクリーングラスを外して胸元に差し込む。

 とても最強のニュータイプとは思えない勘の鈍さは金髪の男に気を許している証拠だろうが、だからといって立て続けに強そうな酒を三杯も煽られたのではクワトロでなくても急性アルコール中毒を危惧して止めるというものだ。

 無論、アムロも見かけは服装さえ選べば下手をするとハイティーンでも通りそうな童顔とはいえもう十分に成人に達しているので、多少アルコールを過ごしたところでなんら問題はないのだが、彼の酒は決して嫌いではないのだが些か弱いところがあり、酔うと誰彼構わず絡む癖があるので、クワトロとしては自然アムロのアルコール摂取量に敏感にならざるを得ない。

「全く、弱い癖に飲むのは好きと来ているから、始末に負えんな」

 秀麗な眉を顰めて訓戒を垂れると、アムロが派手に顔を顰めた。

「弱いって言うなよ、そこそこの酒量はあるぜ?」
「酒は飲んでも飲まれるな、というだろう。酒に飲まれているうちはまだまだだな」
「うるさいなぁ、いいじゃないか、大人なんだから」

 溜息をついてお説教を続行する赤い服の男に苛立ったアムロは尤もな反論をしたつもりだったが、その途端もっと険悪な絶対零度の視線で睨まれてしまった。

「その、『大人』が酔った挙げ句に人前でカミーユを押し倒して関節技と柔道技で好きな女の子の名前を吐かせたりさせなければ、私も少しは寛大になれるのだが」

「う」

「思い出しただろう、酔っぱらい。全く、ブライトがそういう意味でお前のことを虎だと言った訳じゃないとぼやいていたぞ」

 ついこの間無礼講だと言い渡された場で引き起こしたばかりの『事件』を持ち出され、アムロが胸を押さえた。同時に、その『事件』のことも思い出す。あれは不幸な事故だった。

 ちょっとばかり聞こし召していたアムロは、ほろ酔いの気持ちいい気分のまま、近くでソフトドリンクを飲んでいた腕自慢のニュータイプの後輩に、子供じゃないんだから酒を飲むか好きな子の名前を白状するかの二択を迫ったのだ。当然、未成年の少年は杯の方は断ったので、ナマイキな!とちょっとばかり意地になった記憶も微かにある。

 腹の中だけでごめんカミーユと謝りつつ、そういえば、あれ以来自分が飲んでいると周囲の人間が遠巻きになるような気がしていたが、気の所為ではなかったらしい、等と考えるアムロに、クワトロがやれやれと深い溜息をついた。

「全く、酔うと大虎になるなどと、自覚くらいしておいてくれ」
「底なしザルのあなたならともかく、酔っぱらいにそれは無理な注文だろ」

 言い返すと、剣呑な瞳で睨み付けられた。大抵が制止役に回るクワトロはその時に限ってブライトに呼ばれて二人で話し込んでいた為、丁度あの日のアムロの凶行現場には居合わせなかったのだ。その為、後から散々カミーユに絞られ、恨み言を言われ、泣きつかれたらしい。

 今夜はこれで諦めるか、と思いながらも未練がましく整備班のクルーからνガンダムの整備の状態についての調整具合の賭で買って手に入れた取って置きの蒸留酒に諦めきれない視線を注いでいると、気付いたクワトロが溜息を付いた。

「諦めたまえ。余程好きなのだな」
「ん、シャイアン時代もよく飲んでたからな」

 さらりと言ったアムロの表情にちらりと過ぎった痛みを見ない振りをして、クワトロは惚けて尋ねた。

「よく健康を損なわなかったな?」
「そりゃあ、徹底して体調管理されてましたから」
「威張るな」

 ふふん、と胸を張るアムロを軽く小突き、自らの忌まわしいはずの過去を茶化せるようになった芯の強靱な青年を少し面映ゆく見つめながら、金髪の男が改めて問いかけた。

「全く、解禁になってから数年しか経たないとは思えない堂の入った飲みっぷりだな」
「そりゃ、十六の頃から飲んでますから」

 今度もアムロは胸を張って答えたが、その内容はあまり威張れるものではなかった。
 クワトロは苦笑して、だから身長が伸びなかったんじゃないのかね、君、と返すと、やかましい、と子供のように口を尖らせる。

「第一、未成年じゃないか」
「……固いこと言うなよ、ブライトか、あなた」

 お楽しみの秘蔵の酒を取り上げられ、御機嫌が宜しいとは言い切れないアムロがぷいとそっぽを向く。その首筋が酒精の影響でうっすら桜色に染まってきているのを見たクワトロは、ぞくりと背筋が震えるのを感じた。
 もっとも、その垣間見た艶めかしさを微塵も感じさせない口調で、アムロはガンコジジイは早く老けるぞ、などと言っている。

「ほう?」

 クワトロのスクリーングラスをかけていない瞳がすっと剣呑に細められた。そのまま、取り上げた酒は部屋の中央ののテーブルの上に置き、椅子に腰掛けるアムロの方に上体を寄せる。
 テーブルの上と椅子の背に腕を付いて腕で囲い込んでアムロを逃げられなくして、クワトロはにっこりと微笑んだ。

「そんな悪い子には、お仕置きが必要だな?アムロ」

 その台詞と何よりクワトロの浮かべた人の悪い微笑みに、アムロがちょっと待て、と男の胸を押しやる。

「ちょ、待てよ、昔の話だろう?!」

 時効だろ?!と言い放つアムロに向かい、クワトロはそうだね、と微笑んだ。

「けれど、犯した過去の罪を償うのは人として当然じゃないか。なぁ、アムロ」
「あんたが言うな、ってか、あんたがやらかしたでっかい犯罪と同じにすな!」

 たかだかガキの頃に酒飲んだだけで贖罪なんてさせられて堪るか、とアムロは言うが、クワトロは取り合わない。どうしてくれようと思いながら、アムロは頭に咄嗟に閃いた言葉を口にした。

「それに、俺はもう大人になったんだけど?!」

 アムロとしては、だから酒を飲んでも犯罪じゃない、と続けたかったのだが。

「だから、お仕置きも成人向きになるのが妥当、ということさ」

 一枚も二枚も上手の相手は綺麗に微笑みながらそう切り返して軽々とアムロの身体を抱え上げてしまう。部屋の中、ベッドに向けて運ばれながら、アムロは男の腕の中で悲鳴を上げた。

「ばっ、待て、そんな馬鹿なことがっ…うわぁ?!」
「大人になるっていいことだろう?そうは思わないか、アムロ」
「馬鹿いえ、こんななら俺は子供のままがマシだった、離せっ!!!」
「できない相談だな」



 その後、クワトロの『大人向けのお仕置き』で散々な目に遭ったアムロが、懲りて暫くアルコールを口にしなかったのは当然の出来事であった。







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+++END

 

 

相変わらず阿呆な二人ですいません・・・
そしてカミーユものごっつ災難です(笑)片っ端から締め上げて好きな子を吐かせていく王様アムロ。
か、可愛いかもしれない←末期。

 

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