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ポイントはまるで違う2人
平常心取り戻そう
何もかもまるで違う2人
欲しい言葉わかってない
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「耳をふさいで…両手で。ほら、水入るぞ?」
シャンプーハットでも買ってこようかなと不器用な青年がやっぱり耳をぺちぺち叩いて水を出しているのに溜息をついたシャアは思う。その後でぶるぶると頭を振って水も飛ばす。犬猫かね君は、とシャアはまた考える。
最初に一緒にお風呂に入ろうとか言い出したのがどっちだったのかは既に覚えていない。
多分、風呂に入らざるを得ないような状況に二人して追い込まれたのが始まりだろうとは思うのだが、そんなこと今まで数え切れないくらい有ったことだし、更に最早今となってはアムロと一緒に風呂に入った回数さえ数えるのも馬鹿馬鹿しい数をカウントしているし。
けれどシャアはひとつだけは初めての「一緒にお風呂」で、きっちりと覚えている光景がある。
忘れもしない、あのインパクト。
一緒にシャワーを浴びたことくらいはあったが、バスタイム自体を共有するのは初めてで。
まるで恋愛に慣れない小娘のように何処か華やいだ気持ちで一緒の浴槽に浸かる…までにシャアの気持ちは失速したのだ。
アムロは素晴らしく烏の行水で、髪の毛の洗い方も身体の洗い方もいい加減で…。
次の瞬間、男は問答無用で暴れるアムロを押さえ付けてその背中を怒りにまかせて擦り上げていた。やめろー、僕は猫の子でも犬でもないぞ、というアムロの叫びは完全に無視した。
ホラ見てみたまえ、耳の後ろが黒いじゃないか!!!
擦り上げて汚れの付いたタオルを憤然と目の前に晒して青年を沈黙させ、シャアはひたすらごしごしとアムロを磨き上げることに専念することになった。なんて色気のない。
アムロはとても気分を害したらしくずっとふてくされて口をきかなかったが、わしわしと洗われ、泡立てられ、流され、タオルでごしごし擦られ、乾かされ、ぴかぴかでふわふわになってみると、流石にそれ以上不機嫌でも居られなくなったようだった。
「…さっぱりしたか?」
言いながらタオルを肩に掛けたままのシャアがグラス入りのミルクを差し出しながら尋ねると、僅かにだけ納得したように「うん」と短く呟いた。
その後で、僕ミルクに氷入れるの嫌い、と殆ど言いがかりのようないちゃもんを付けられたが。
それ以来、アムロのくるくるの癖毛の手入れはシャアに一任されてしまっているようだ。
男としてはたまには恋人同士のようにいちゃいちゃしながら入浴をしてみたい気もしないではないのだが。
悔しいのでこの間アムロがいつも持ち込む湯の中を泳ぐペンギンのオモチャとアヒル隊長とやらを出入り禁止にしてみた。アムロは大ブーイングをしていたが、恋人同士のバスタイムに邪魔物は許せないね、と一蹴したら珍しく口を噤んだ。
その後で、僕、あなたと一緒に遊ぼうと思って持って行ってたんだけど、と言われてシャアは真剣に目眩を起こしたが。
大の男が二人で風呂場で、ゼンマイ仕掛けのオモチャで遊ぶ。なかなか想像するにシュールな光景である。
まぁ、それは違うぞ、間違って居るぞアムロ、と眉を顰めるシャアにしたところで恋人同士のバスタイムとやらに明確なビジョンを持っているわけではないのだが。
多分適わぬ夢なのだろうな、と半ば以上諦めながらバスタブにぷかぷか浮かんでいい気分で仰向けになって、シャアの大きな、でも指は細くて繊細な手で髪の毛を洗って貰うアムロを見下ろす。
わしゃわしゃとシャンプーを泡立てると、気持ちよかったのか少し口元が緩んだので、思わず聞いてみた。
「…痒いところはありませんか?」
ぱちりと琥珀の瞳が開く。
「だいたい、痒いところには届いてるからいいよ。」
返事は短い。おや、シャアがなんだか構って欲しそうだ、と思いながらアムロはもう一度目を閉じた。他人に頭を触って貰う事なんてこの年まで殆ど経験してこなかったが、うっとりするくらい気持ちいいもんだなぁと思う。
とくに、大好きな人に。
アムロにしてみればこれ以上どうやっていちゃつくのさ、と思っているのだが。
そこはそれ、知らぬはシャアばかりなり、というかアムロの心シャア知らず、というか。
この後でメインイベントの身体を洗って貰うのもあるのだけれど、今夜は僕もシャアの背中流してあげようかな、と思う。
アムロにしては珍しいくらいに寛大な気分だった。
どちらにしても幸せだろうというツッコミは受け付けないまま、二人は泡にまみれて次のステージへ続く。
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あなたの好きなのは好きじゃない!
想像もつかない毎日が音立ててやって来る
一緒なら無敵の毎日が音を立ててやって来る
それぞれの引力が違えば広がっていく世界はもっと
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…もうちょっと続き(笑)
※
「アムロ、ちゃんと肩までつかりたまえよ。」
シャアの小言は続いている。アムロは熱がりで、シャアがちゃんと見ていないところでは身体が温まる前にさっさとバスタブから逃げようとする。本当に烏の行水だ。
最も、シャアも別に江戸っ子じいさんの様に熱い湯に長風呂ではなく、ごく普通の範疇だと自分では思っているのだが。
「ええー…だって、熱い…髪も洗ったし、もう温まったよ…」
ぼそぼそと文句を言うアムロの腕を掴んで引き戻す。足の間に座らせると、諦めたように溜息ひとつ。
「…アムロ。」
「なに?」
「海坊主は作れるか?」
「…なにそれ?」
きょとんと首を傾げるアムロの前でシャアはタオルをぱしりと勢いよく湯に叩き付け、くらげのような空気を孕んだ風船もどきを造り上げる。
「…ほら。できるかい?」
言いながら、そのままぶくぶくと湯に沈ませてじゅわっと絞る。立ち上る無数の泡に、なんだそんなもの、とアムロが鼻を鳴らした。
「できるさ、見てろ。」
言いながら、シャアがやったのと同じように…。
「…あれ?」
「不器用だな、アムロ。」
言いながらシャアがぴゅっと手で水鉄砲を作ってアムロの顔にかけた。ぶつぶつ言いながら再チャレンジを試みたアムロがそちらにも気を取られる。
「では、これはできるかね?エースパイロット君。」
「馬鹿にしてー!」
どうやってやるの、とシャアに手の形を教わりつつぴゅっとやってみるが、こちらもなかなか上手く行かない。
「入射角度と空気の掴み方が下手くそなのだよ。」
「うっ…あなたに出来て僕にできないなんて…!!!」
「まだまだだな、連邦の白い悪魔も。」
にやにや笑うシャアがアムロの眉間に湯を命中させる。確かに上手い。なにをやっても人並み以上にこなす男・シャアは水鉄砲でさえ常人離れしているようだ。
アムロがきりりと眉を吊り上げた。
「で、できるさ…!吠え面かかせてやるからな!」
「どうぞ?」
言いながら、シャアはしれっとした顔で湯船の中で真剣に水鉄砲の練習を始めた青年を見守る。
これで、百まで数えさせなくても十分に湯船に留まってくれそうだ。最も、逆上せる前に風呂からあげてやらねばなるまいが。
次回は「だるまさんがころんださんしろうがわらったげんごろうがもぐった・・・」の歌だろうかなと策謀を巡らせるシャアは、かつて妹を風呂に入れる名人でもあった。
アルテイシアより手の掛かる恋人を目を細めて見つつ、シャアは全身を解すかのようにゆっくりと肩まで湯船に浸かるのであった。
こんなのも多分幸せのかたち。
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+++END
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