はじめてのH
-宇宙世紀はじまりは20/15編-

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 シャア・アズナブルが一年戦争の終結時に、深手を負って気を失っていたのをいいことに、ガンダムのパイロットであったアムロ・レイをアクシズに攫ってきてから、数年が過ぎていた。

 地球連邦に帰る実家に帰ると始め頃は何度も口にしていたアムロも最近はすっかりジオンの気風に慣れ、というよりシャアと一緒の生活に慣れた、と言った方が正しいのだが、どうもこのままアクシズに居着いてしまいそうな気配である。

 そして同時に、シャアとアムロ二人の間の関係にも、大きな転機が訪れようとしていた。ぶっちゃけ、二人は何時の間にやら恋人同士になり、おつきあいとやらを始めてしまっていたのである。

 もう一つ付け加えるなら、アムロを一目惚れ同然にすっかり気に入ってしまったらしいシャアの押せ押せプッシュプッシュ!押して駄目なら押し倒せ!な強引マイウェイ路線の口説きに絆されて流されて騙さ…いや、引きずられて関係を見切り発車させてしまったアムロは、現在大きな壁にブチ当たっていた。

 そう、いわゆる一つの記念日にだってなっちゃいかねない恋人同士の一大イベント、「はじめてのH(初級編)」である。
 もうひとつぶっちゃけるなら、アムロにはこの手の経験はない。ないっていうか、縁はそこそこあった割に、女の子とちゃんと突き合ったことも実はなかった。アクシズに来てからはガンダムのパイロットだった、という素性が引け目になって積極的になるところまで行かなかったし、何よりもハンターモードに切り替わっていたシャアのガードも固かった。

 と、いうわけで。話を元に戻すと、付き合い始めて約半年(推測)、しかも時期は恋人同士のイベントであるバレンタインデーを控え、そろそろ「そういう出来事」の起こりそうな嫌な予感(イヤなんかい)をなんとなく感じ始めていたアムロは、悲壮な覚悟を固めるべく上官でもあるシャアの部屋の扉を叩いた。



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「シャア大佐」
「アムロか?入りたまえ」

 応答があったので部屋の扉を開けて中に入る。初めは二人とも軍隊用の宿舎で生活していた、というかアムロはシャアの部屋に居候していたのだが、シャアの政治的立場が年々微妙になってきたので、思い切って二人でそこを出て部屋を借りたのだ。

 結果として、職場ではこうして部屋持ちのシャアの所に副官扱い(というよりも付き人か猛獣使いか牧羊犬扱いだが)のアムロが出入りするような形になっていた。以前の、職場でも狭い部屋に帰っても四六時中一緒、という状況からすると、職場でも自宅でも自分の時間が持てるようになったアムロには非常に風通しが良くて有り難い。

 兎に角、アムロはシャアに頼まれていた書類を渡した後、思い切って聞いてみることにした。

「シャア大佐」
「なんだ?決裁ならまだ出来ていないが」
「違います、明後日のことですが」
「明後日?…なにか会議でもあったか?」
「いや、そうじゃなくて」
「では、演習…は、監視が厳しいものな。ミネバの所にはこの間行ったし…」
「そうじゃなくて!バレンタインデーじゃないですか!」
「ああ」

 どうも、仕事中の勤務モードで完全に頭から外れていたらしいシャアがそうだったな、と苦笑した。

「シャア大佐は僕に一日空けておけ、と言っていましたけど」
「言ったよ。私も休暇を申請してある」
「デートしようとか言ってましたね」
「食事もどこかに食べに行こうとね。たまにはいいだろう、気が変わって」

 にこにこ笑いながら続けるシャアの前に手を付いて乗り出し、アムロはこの間からの懸念事項を口に出す。

「それで、その事ですけど、一つ質問が」
「なんだね?まさか、急に都合が悪くなったとは言うまい?」
「言いません。僕の上司、あなたじゃないですか」
「まぁ、そうだが。…では、なんだね」

 殊更声を潜めるアムロに、不審そうにシャアが訊いてくる。アムロは真面目に聞きますよ、と前置きしていきなり爆弾を放り投げた。

「あのですね、ぶっちゃけ、シャア大佐その時に僕とエッチなことしようとか思ってます?」
「…………………………は?」

 さしもの剛胆で知られるシャアも、一瞬以上思考停止に陥った。なんですと?

「だから、バレンタインデーじゃないですか。雰囲気盛り上げて、あわよくば…とか思っていらっしゃいます?」
「………………………………………アムロ、何故そういうことを聞いてくるのかを質問してもいいか?」

 軽い眩暈を覚えながら、完全に先制攻撃が命中したシャアが赤い彗星の二つ名が嘘のような僅かに狼狽した声で問い返す。

「ハマーンが、シャアと付き合いだしてそろそろ半年だから、気を付けた方がいいって。次のイベントで必ずシャア大佐は勝負を賭けてくるはずだから、って」
「………………………………………………君達は、随分仲良くなったのだな」

 それはそれで有り難いことの筈なのだが、ちょっと涙がにじむのはなんでだろう。
 足下を勝手に見透かされた気分で、シャアは深々と溜息をついた。その溜息をなんと取ったか、アムロは更にしつこく食い下がる。

「で、どうなんですか」
「さぁ、君がイヤならば私は無理強いするつもりはないし」
「それなんです」

 アムロが真剣な顔で更に声を潜める。

「イヤも何も、僕知らないんですけど」
「………何を」
「だから、その。男同士ってどうなるのかなー、とかいうこと」

 シャアが更に深刻な眩暈を引き起こす。かくなる上は、上官の強権でも発動せざるを得まい。かなり情けなくはあったが、シャアが憮然とした声で切り札という名の逃げを打つ。

「勤務中だぞ、アムロ」
 しかし、シャアの至極真っ当な理論にもアムロは動じなかった。
「真面目に質問してるんですよ、大佐。こういうのって同じ男相手でも聞けないじゃないですか!だからシャア大佐に質問してるのに!僕は僕なりに真剣なんです!」
「私だって急に聞かれても答えられんよ!第一、私はまだ君とのデートの詳細も決めていないのに」
 憤然とするシャアに向かい、アムロが何か思い出したように腕組みをしながら尋ねる。

「アレですか」
「なんだね?」
「やっぱり、男としていきなり男に走るより、どっかで綺麗なお姉さんにドーテー切っといて貰うべきですか。部隊のみんなはそう言うんですけど」

 シャアががっくりと項垂れた。

「私に聞かないでくれたまえよ……」
「いや、ララァにも言われるんです、毎晩。ちょっとそれって男としてはどうかしらって。大佐に相談してみなさいって」
「ララァ…………………」

 君の愛が見えなくなって久しいよ……、と乾いた頭の片隅で考えながら、シャアは貼り付きそうな舌を無理矢理引き剥がしてそうだねぇ、と呟いた。

「アドバイスしようにも、…残念ながら私もよく知らない」
「ええっ?!」

 期待を裏切られたような声をアムロがあげる。

「なんで知らないんですか、恋愛経験豊富なんじゃなかったんですか!」
「あのね、アムロ。皆はそう言うが、私だって流石に男と付き合った事はないよ」
「だって、来る者拒まず去る者追わずだって評判ですよ!」
「どこでだというのだね!」
「アクシズあたりです!」
「じゃあ君に尋ねるが、君と付き合いだしてから私が一度でも余所で遊んできた事があったかね!」
「大佐は神出鬼没だから」
「本当にぐれるぞ、アムロ」

 憮然を通り越して悄然としてきたシャアの前で、まさかシャア大佐が男性経験が無かったなんて、と何処でどんな話を聞かされてきたのか非常に怪しいところであるアムロが途方に暮れた顔になる。

「困ったなぁ、色々計画練り直しか、この土壇場が来て」
「アムロ、それはむしろ私の台詞ではないのかね…」
「いや、僕の計画ではこう、大佐が『何を言う、私に全て任せてくれれば悪いようにはしない』とかなんとか言ってくれる予定だったんですが。期待外れだなぁ、もう」
「勝手に期待して失望しないでくれたまえよ!まぁ、もう、どうでもいいのだがね…。」


 その内この生真面目な年下の恋人が、その手の雑誌やウェブサイトなどで仕入れてきた知識をわんさか抱えてやってくるに違いない事を予見して、だからキムスメは重いんだよなぁ、等とちょっぴり若さ故の過ちを噛み締める、シャア・アズナブル大佐の恋路はまだまだ前途多難のようである。






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+++END

 

 

バレンタイン創作、シャアム編。
この間の20/15のなんとなく続き。
真面目(でもないけど)に恋愛始めてしまいました、この二人。
何時の間にやらやっぱり尻に敷かれてるくさいシャアが可愛いですな(笑)
これから一体どうなることやら・・・(笑)

 

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