朝がまた来る

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02:終焉へのカウントダウン



 想いが逝くのはいつの日のことだろう。



 全く、連絡が取れなくなった。その時点である程度の覚悟は固まりつつあった。

 そんな時、人類革新連盟がソレスタルビーイングのガンダムパイロットの一人の鹵獲に成功していると聞いた。仲間のことも何も、決して口を割らないそうだが。

 ガンダムとの決戦で大怪我を負い、凄絶なリハビリの末現場に復帰したグラハム・エーカーは、どこか鬼気迫る雰囲気を纏わせるようになっていた。

 極東から取り寄せた書物を手に一日の大半を物思いに耽っていることもある。

 そのグラハムが、ガンダムパイロットの噂を聞きつけ、初めて動いた。ああ、やっと以前のグラハムらしくなったと、周囲は胸を撫で下ろしていたのだが。



☆ ★ ☆ ★ ☆




 ドアロックが解除される音がしても、部屋の中央で拘束衣に包まれたままの人物は顔も上げなかった。

 かつかつと硬質な足音を立てて独房に入ってきた男は、アレルヤ・ハプティズムの前で足を止める。

「貴様は、ガンダムのパイロットだったと聞いた」
「……」

 自殺や自傷を防止するために猿ぐつわを嵌められたままなので、どちらにしても喋ることなど不可能だ。アレルヤはただ眉だけを顰めた。

「心配しなくとも、ここに居るのは私だけだ。録音もしない、私はただ、知りたいことがあってここへ来た」

 不思議そうに、琥珀色の独眼が動いてグラハムを見た。黒い髪、浅黒い肌の青年は果たして回答を知っているだろうかと思いながら、グラハムはゆっくりと口を開ける。

「……ロックオン・ストラトスという男を、知っているか」
「……、」

 微かに気配が動いた。グラハムが気負い込む己を抑えつつゆっくりと問いかける。

「目の動きだけでいい、教えて欲しい。彼は、生きているのだろうか……?」
「……」

 青年は、どう返事をしていいのか躊躇っているようでもあった。

「私は、……そうだな」

 グラハムはしばし考え、言った。

「ニール・ディランディの関係者だ」
「……?」

 分からないのか、とグラハムは呟いた。

「彼の本名だが、……そうか、組織ではコードネームで通していたのかな」

 呟いて、また青年の物言わぬ琥珀の瞳をただ見つめていた。

 じっとグラハムを見つめた後で、青年は金色にも輝いて見える琥珀色の瞳を慎ましやかに伏せた。……ではやはり、ロックオン・ストラトスは死んだのだ、とグラハムは直感的に察した。

「……そう、か」
「……」
「生きているならば、私の所に連絡の一つも寄越せと言ってやりたかったが、そんな文句は三途の川を渡ってから言ってやることにしよう」

 グラハムはそれだけを呟くと、踵を返す。

「今ひとつだけ問おう、ガンダムのパイロット」
「……」

 押し黙るだけのアレルヤとまるで会話をしているかのように、十分な間を持ってグラハムは続ける。

「ロックオン・ストラトスは、戦って死んで行ったのだろうか」

 琥珀の瞳が、ぎらりと強く煌めいた。当たり前だ、誰の話をしていると思って居ると、心の声が伝わるようだった。それを見て、グラハムは嬉しそうに笑った。

「そうか、ならば良かった。私は彼を誇りに思う」
「……!?」
「いかんかね、主義主張は違えど、戦士はお互いを理解するものだ」

 堂々と言い放つ目の前の男は、格好だけは道化のようだが、とてもそうには見えない。

 確かに、とアレルヤは思った。ただ戦うだけの兵士達と、この男は一線を画しているように思える。やや、危ういようにも感じられたが。

(ロックオンなら、ほっとけないかも)

 バカだよね、君も、と脳裏に浮かんだ陽気な顔の男に向かって言ってやった。刹那や、ティエリアや、僕だけで手がいっぱいだっただろうに、こんなのまで引っかけちゃってさ。

 グラハムが、ふと雰囲気を緩めた。

「健やかに、とは言い得て妙だが、死ぬなよ、ガンダムのパイロット。君の墓場はそこではない、戦場だろう」
「……」

 ばかじゃないの、と口が動いたら言ってしまいそうだった。

「明けない夜はない。朝は万人の上に等しく来るものだ。例え君が、稀代のテロリストであったとしても。……再戦の日まで、壮健であることを祈る」

 皮肉でも何でも無く心の底からそう思って居るように言い放って、来たときと同じくらい唐突に男は出て行った。

 凜と伸ばしたその後ろ姿がまるで泣いているようで、ああもう、ほんとに、バカじゃないのとアレルヤは思った。

 バカじゃないの、あんたのその台詞、ロックオンの為に用意してあったんでしょう、と言ってやりたかった。

 あんたがあんた自身の戦いに再び赴く前に、ロックオンに告げたかったはずだ。再び歩き出すその前に。

(生きなきゃ、アレルヤ・ハプティズム)

 あんな愉快な知り合いがいたことを、ロックオンの墓前で問い詰めてやらなくちゃ。……あの金髪の男が、どんな「関係者」だったのかということも。

(ロックオン、あなたには、抗弁の機会なんて永久にないんですからね)

 それが嫌なら生き返って来てください、ニール・ディランディ、と初めて知ったロックオンの本名を記憶に刻みつけていたアレルヤが、救出された後のトレミーでライル・ディランディの姿を見て心底驚くことになるのは、数年後の話であった。


 






>>>END.



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タイトルはドリカムの名曲。
殆どアレルヤで終わってしまったですがアレルヤも好きです。
いつか想いが逝って空に昇る日まで。

 

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