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01:戻り道なき恋心
あーもうちくしょう、とニール・ディランディは癖のある眺めの鳶色の髪の毛をわしわしと行儀悪く掻き混ぜた。
はんっそく、だろ。
悪態を腹の中でついてしまう。反則だ反則だ、聞いてなかった!
(ニール・ディランディ、君は)
一緒に見ていた映画は、相次ぐテロや民族差別で崩壊した祖国から、幼い頃に別れたままになった親友の遺児を取り戻すという話だった。
無差別テロの犠牲で孤児となった少年の残酷な運命や彼の魂の救済、更にてんこ盛りの友愛だの家族愛だのに散々に涙腺を刺激されて、ぐずぐずと鼻を赤くしてティッシュボックスを抱えたまま隣を見たら、やたらと涼しそうな顔をしたグラハムと目が合った。
「姫は感じやすいな」
にっこりと微笑まれて、なんだか無性にイラッとする。
「うるせえ、ほっとけ」
「そういう所も好ましい」
ニールは鼻をかんで丸めたティッシュをゴミ箱に命中させながら言い捨てた。
「うるせえ、つってんだろ、大体あんたは泣かないのかよ!」
金髪の男の取り澄ましたままの表情が憎たらしくて、鳶色の髪の男はそうやって悪態をつく。普段は澄み渡っている青い瞳もまだ真っ赤に充血したままで。
「私?」
ぱしり、と翠の瞳が瞬いたので、そうだと重々しく頷いてやる。グラハムはそうだな、と暫く首を捻って居たが、やがて諦めたように困惑した表情でニールを見上げてきた。
「正直、よく……分からない」
「なんで」
何か在るだろ、理不尽だとか可哀想だとか、と言われて、グラハムはもう一度困惑の色を瞳に浮かべた。
「私には、奪われるべきものなど存在していなかったので」
親兄弟もおらず、天涯孤独なグラハムは、肉親の情というものは知識でしか知らない。
「その、同情するふりは勿論できるが、……ニール、君の前では、その」
そういうのは止めておこうと思ったのだが、気に障ったのならば努力をしようとどことなく困ったように言われて、ニールはアア畜生とぼやいて天井を仰いだ。
「いい」
「え?」
「いいって! ふりなんかしないがましだ」
「……だろうな」
冷たい男だと思っただろうとどんどんグラハムが先回りしていくので、ニールもどんどん苛立ちが募っていく。とうとう、我慢できなくなってがばっとニールはグラハムを胸の中に抱き寄せた。
流石にこの展開は予測していなかったグラハムが盛大に瞬きをする。
「ニール……?」
「よし、わかった。あんたは俺が死んだら泣け。そんときだけでいい」
「……いいのか? 私には、君の死を悼むことが許されるのだろうか」
その声がまた、普段に似合わず自信の無いもので、馬鹿野郎、とだけ呟いたニールは、余計なことを言うなとばかりに薄い唇を己のそれで塞いで黙らせてしまった。
後に伝え聞いたガンダムマイスター達によってアニキ殺し、と名付けられたその技を時々無意識に繰り出してくるグラハムにニールが撃ち落とされっぱなしなのは、多分グラハム・エーカーとしてはまったく意図しては居なかった効果ではあったのだろうが。
「ちくしょう、卑怯だぞユニオンのエース……!」
ロックオンのその叫びに関しては、マイスター四人中三人までがそれはお前にだけだと内心突っ込んだことは言うまでもない。
>>>END.
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