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―――めはくちほどにものをいい、っていうのは一体どこで聞いた言い回しだったか、格言だったか。
とにかく、他人っていうのはとかく本人が気にしていないことを気にしたがるものだ。
「アムロの目って、怒っているときは青いのね。」
一時つき合っていた恋人にはそんな風に言われた。その後でもっと意味ありげな艶笑と共にそれとも、昂奮しているときに色が変わるのかしらと付け加えられたが。どちらにしても俺の答えは「さぁ」としか言いようがなかった。誰が怒っているときに鏡なんか見るものか。アレの最中にだって。
「アムロ、何か考え事をしていないか?」
そんな風な会話を思い出していたら傍らから声をかけられ、俺は少なからずびくっとした。
「クワトロ大尉」
想像通りにそこに在った人影に、どうしてだか少し腹立たしくなる。この人はカミーユほど感覚が鋭いニュータイプじゃない癖に、どうして内面まで踏み込んでこられるような感覚がするのだろう?そう思っているとクワトロ大尉は低く笑った。
「考え事をしていると鳶色に深くなるんだよ、君の目は。」言いながらふと首を傾げる。
「そういえば、君の瞳はそんな色だったか?」
言われても、俺には返事のしようがなかった。黙っているとクワトロ大尉は自分の中で答えを見つけたらしく話し続ける。
「いや、私も君の瞳はア・バオア・クーでヘルメットごしに見たことがあるだけだから、あれにフィルターがかかっていただけなのかもしれないけれども。」
私と同じ色ではなかったかとふと思い出しただけで、と言い訳がましく続ける男に俺は笑いたくなった。
「あなたと俺が同じ色な訳がないだろう?」
―――瞳の色どころか、なにひとつ。
言ってやると、クワトロ大尉は瞳を隠すようにスクリーングラスを僅かに押し上げた。
「どうも、地球に来て君は瞳の色まで変わったらしいな」
「ガンダムを降りてから色が変わったんだ」
肩をすくめる。冗談めかして本当のところをぼかす術はいつの間に身につけたのかは、考えるのも億劫だ。それは相手もそうだろう。別に俺の瞳の色なんて聞きたくもない癖に。
そんなことを考えていると、俺の瞳を相変わらずまじまじと見つめていたクワトロ大尉がふと微笑した。流石に少しむっとして問いかける。
「何がおかしいんだ?」
「いや、変わった、と思ったのは私の勘違いだったようだ。すまないな、アムロ大尉」
それだけ言うと、今日も今日とて派手な赤い軍装の男は颯爽と身を翻して去っていってしまった。後には、理解できずに混乱する俺だけが残される。
「…なんだったんだ、一体。」
ぽつりとした言葉だけが、宙に浮いて、地球の重力に引かれてぼとりと地面に落ちた。
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ノーマルスーツに着替えて出ていくと、ブライトに呼び止められた。
「アムロ、あのな…。」
言いかけて、実直なこの上司は墨汁を零したような漆黒の目に困惑を湛えて口ごもる。
「なに」
「お前、本当に…いいのか」
それだけで彼が何が言いたいのかは大体察しがついたので軽く肩をすくめる。「別に」「しかし」それでは、と続けようとして俺の顔を穴が開くほど見つめて、そこに何か探そうとしたらしいブライトは首を振る。
「迷いがなくなったんだな、アムロ。初めてお前と会ったときと同じ目の色をしている。」
今度も俺は自分で見られるわけではなかったので、苦笑してただぽん、と彼の肩を叩いた。精々明るい口調で言ってやる。
「目は口ほどにものを言い、ってね。」
そしてそこに言いたいことを見つけるのはいつだって俺じゃない他の誰かなんだけどね、とは。
これ以上ブライトの心労を増やしたくなかったので黙っておくことにした。
英雄とは大概そうしたものだということだけが、あの人が俺に残したただ一つの教訓だったから。
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+++END.
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日誌の話から書き上げました。 |