a passing rainy day |
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********** 頭が痛いな、と思って目覚めたら、外では雨が降っていた。 しとしとと、大人しく草木を濡らすていどの雨。 ※ 「おはよう」 アムロがのんびりとリビングに顔を出すと、同居人はすでに愛用のソファに掛けて、外国語の新聞を読みながら、食後のコーヒーを飲んでいた。ちらりと新聞から顔を上げてアムロを見ると、低い美声で、まだそんな格好をしているのか、と非難する。アムロは寝起きのまま、髪はぐしゃぐしゃで濃いブルーの木綿の寝巻きのままだった。 シャアのやつが読んでいる新聞は、何が書いてあるのか読めないからおもしろくない。アムロはそう思っている。だから新聞には触れたこともない。そもそも、いまだに紙媒体を使うというのは時代遅れの観が否めない。その場で寝巻きを脱ぎ捨てて、シャアに何か服を取ってくれと頼む。すると男はひどく不機嫌そうに顔をしかめて、ソファの背に掛けてあった自分のシャツと、床にへたばっていたジーンズを放り投げた。 「これ両方とも昨日着ていたやつだろ、」 アムロが苦情を言うと、 「文句を言うなら、自分の着る服くらい自分で探すんだな」 と言い返された。 仕方がないといえば仕方がないのだが、アムロは長い間の「贅沢暮らし」で悪い癖がついて、ときどき、自分では何もしようとしないことがある。あれを取って、これを片付けて、それをどけて。ひどいときには、シャツの袖のボタンを留めて、とか、ミネラルウォーターのボトルのふたを開けて、とか子どもみたいなことも言う。あの屋敷ではどんなわがままも通ったのだろう。 だからアムロは料理もしない。朝食用のトーストを焼くことすらしない。起きてきて、テーブルについて、じっとしている。待っていれば食事が運ばれてくると思っているのだ。そんな同居人だから、食事を用意するのは基本的にシャアだ。アムロが見える範囲にいるときは、仕方ないので作ってやる。部屋に閉じこもっているときは、作らない。 アムロが受け取った白のシャツの襟元には、一流ブランドのロゴがついている。まったくいい趣味をしている。ジーンズの方も、パッチが古くて風合いがいい。きっとこれも高いのだ。だがアムロは、別に自分で買ったものでもないし、与えられたものは全部自分のものだと思っているので、何とも思わず、借り物の服に腕を通す。多少サイズが合わないのには、目を瞑る。 「雨の日は嫌なんだよ」 着替えながら、アムロが言う。 「何か、頭が痛くなるんだ、気圧の問題らしいけどね」 シャアは返事をしない。 「あなたは痛くならないの、」 どうやったらそんなにのろのろ着替えられるのか判じかねる。一言何か言うごとに動きが止まって、アムロは結局、上品なシャツのボタンを半分しか留めないまま、テーブルについてしまった。そしてそのまま、だらりとそこに突っ伏した。いつものことだが、シャアは呆れて物も言えなくなる。どちらかというと、アムロより自分の方がわがままでもいいような気がする。先天的な立場とか幼いころの環境を顧みれば。……、客観的な話だ。 朝食を待っているのだがコーヒーを待っているのだか知らないが、アムロは一向に動かない。テーブルにあごをごりごりとこすりつけて遊んでいるかと思ったら、そのまま目の前に垂れた前髪を睨みつけたまま動かない。この男は今年でいくつになるのだったか。それでなくても今日は雨で、いらいらしているのに、こんなにだらけきった同居人を見ていると余計に腹が立つ。 これみよがしに大きくため息をついて、シャアがソファから立ち上がる。そのままアムロの方をちらりとも見ないでキッチンの奥に入っていき、 「パンと牛乳しか用意しないぞ」 それだけ言った。 ※ 外は雨で、少し頭が痛む。 どこにも出かけられないし、少し退屈な一日になるだろう。 ※ 仏頂面をしたシャアが、トーストの乗った皿を、ごとんと音を立ててテーブルに置く。それから、真っ白なミルクの入ったマグカップも。両方から湯気が立っていて、アムロは少し、驚いた。今日はそんなに寒くもないのに、ホットミルク。熱いものが苦手なわけではないし、わざわざ用意してもらったのだからアムロはそれを手に取るが、とりあえず、問う。 「どうして温めたんだ、」 すると、ソファに座って、顔に新聞をかぶせたまま反り返っているシャアは答えた。 「雨の日は、頭が痛いんだろう、」 そのようにして、ホットミルクの一口から、少し退屈な一日が、始まる。 **********
+++fin. |
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4000hitを踏まれた雨野さんのリクエスト、 「『幸せな結末』の続きのぎこちなく距離感測りあってる二人の、端から見ると『いや、幸せだからキミタチ。』な日常」 ……にお応えしました! 雨野さん、といういことで雨バナシ(笑)。 こんな感じで、よ、よろしいでしょうか……。 |