EL DORADO
-たった一つの黄金をみつけた竜と勇者の物語-

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【風のファンタジア-EL DORADO:1-】


「北の辺境スィートウォーターにある神殿、レウルーラが竜王に襲われた」
「神殿は崩壊、神官は竜王に攫われたそうだ」
「なんでも、次回の竜の宴の生け贄にされるそうだ」
「レウルーラ神殿の神官といえば、まさかあの、シャア・アズナブル殿か」
「そうじゃ。先王の皇子でありながら、御神託によって妹君のアルテイシア様に世継ぎの座を譲り、自らは辺境に籠もられたとお聞きする」

 途端、声が潜められ、ひそひそと呟く輩共は顔を突き合わせて尚も噂に興じる。

「先王?あの、今のデギン公王に暗殺されたと噂の…」
「滅相なことを言うものではない、アルテイシア様も行方不明と言うではないか」
「おいたわしや、誰よりも高貴なお生まれでありながら、妖魔どもの棲む北の辺境などに…」
「この国を滅亡から救う人身御供じゃというお告げだったそうな」
「おお、それで竜王に連れ去られたか」
「はてさて、哀れな運命の御子であることよ…」

 がこん、と青い髪の毛の少年は耳障りな宿場の噂を皆まで聞かずにカップを乱暴に机に叩き付けて立ち上がった。

「おやじさん、お勘定!」

 苛立つ思いを抑えきれないまま、安酒場のドアを開けて外に出る。
 ぐっと掴んだ胸元のペンダントは二つに割れるようになっていて、中には輝く金色の髪が一房入っている。
 遙か昔、国を旅立つカミーユに向けて、あの人が、…他ならぬシャアが手ずからくれたものだった。

―――”カミーユの行く手に神のご加護がありますように”

 そう祈ってくれた優しいあの手は、声は、今は一体どうしていることか。
 シャアは嘗てはクワトロ・バジーナと名乗る高名な剣士で、ルウム戦役では「ジオンの赤い彗星」という異名まで持つ歴戦の勇者でもあった。現在は剣を置いて神官の地位に居るものの、彼はカミーユの剣の師匠であり、学問の先生であり、異民族との戦いで両親を亡くしたカミーユの兄代わりの保護者でもあった。カミーユが先のグリプス戦役という内戦に駆り出されて出兵するときに別れたきりだったが。

 徴兵されていった先の戦場でカミーユは深手を負い、やっと癒えて帰ってきたと思えば、北の辺境を襲ったこの異変の報せ。

「竜王アムロ、アムロ・レイ…!!待っていろ、必ず僕が倒してやるから!!」

 決然と歩き出すその足取りには、最早なんの躊躇いも迷いもなかった。

 勇者カミーユの冒険は、まだ始まったばかりである。




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【流れ星を捕らえし者-EL DORADO:2-】


「ここでの暮らしには、もう慣れた?」

 ぎぃ、と錆び付いたドアが開き、赤味がかった鳶色の髪の毛の青年が姿を見せる。落ち着いた色調の赤と金で統一された室内で、一際輝く金彩を身に帯びた男が、その声に反応して振り向いた。

「アムロ」
「どう?あなたの為に用意させた部屋は。居心地いいでしょう?」
 言いながら、青年はぱちんと指を鳴らした。呼応するように暖炉の中に炎がぼっと燃え上がる。

「石造りだからちょっと寒いかな。でも、ちゃんと人間がやるように壁に布を貼って、綿も入れさせた」
「アムロ、そうでは」
「ベッドだって最高級品だって、確か聞いたよ。俺が直々に買いに行ったんだから、間違いない」
「アムロ、私の話を」
「食事に不足はない?嫌いなものや、食べたいものがあったら何でも言ってくれていいんだ。使用人は駄目だよ、あなたの世話は俺が見るんだから」
「話を聞けと言っているだろう!」

 金髪の男の怒鳴り声に、アムロが僅かに眉を吊り上げる。
「だから、何が気に入らないの。食事もろくにしていないじゃない。駄目だよ、人間は食べないと死んじゃうんだから」
「神の御許に行きたくはないが、君に美味しく頂かれるのも気が進まんのだよ」
 シャアが言い放ち、アムロの黄金に輝く瞳を見上げる。
 人間の姿をしているが人では明らかにないと思える、そのちらちらと炎を揺らす縦に割れた瞳孔を見ながら、シャアは静かに語りだした。

「私を手に入れたからといって、君の手に入るものなど何もないぞ。確かに私は国王の息子だが、先代の、しかも横死した国王の王子で、国政は公王のデギン・ザビが握っている。竜は処女の血に酔うというが、生憎乙女でもない。君の好むような宝石なども所持していない。一体、私を生かして置いてなんの得になる?それが釈然としないのだ」

 アムロがぱちぱちと手を叩く。
「あなたが国王になればさぞ名君になっただろうに」
「なに、私よりも妹の方が余程しっかりしていたさ。それよりも、何故だ」
「どうしても、知りたいの?」
「事によっては、私は身の振り方を考えねばならないからな」
「自殺なんかさせないよ。あなたの額に俺が刻んだ、その傷痕。―――それはとても強力な呪いで、あなたが俺の意に背けば、たちまちの内にこの国は滅びるよ。天災か、はたまた他の要因かは知らないが、人民ごと、ね」

 シャアがゆっくりと、手を挙げて額に刻まれた傷痕に触れた。

「知っているとも。この傷を君に負わされたとき、私の付けた傷が、君の肩にも残っているはずだ」

 その言葉にアムロは婉然と微笑みながらゆっくりと緩やかな服の前を開く。

「これのこと?」

 その右肩には、赤黒く変色した傷口がくっきりと刻まれていた。シャアが一瞬息を呑み、その後で皮肉げに笑う。
「想いが強く残る傷跡は消えないと言うが、私の傷と同じように君の傷も残ったようだ」
「そうだね。―――あなたも、俺を恨んで?」
 その言葉に、シャアは静かに首を振った。
「確かに、先の君との戦いで、私は愛する女性を喪った。けれども、―――」
 そこで言葉を切り、何処か遠いところを見るような視線になる。
「けれども、君を倒したところでララァは還っては来るまい。強い想いが残っているというのならば、それは彼女の想いだろう」
「彼女は、あなた方人間よりも俺達に近い存在だったからね」

 低い声で呟くと、アムロはその後でまだ分からないか、と続ける。
「なんだと?」
「まだ分からないのか、シャア。俺があなたを攫ったわけ、あなたがここに閉じ込められている訳」
 言いながらぐるりと部屋の周囲を見回す。
「ここは天然で出来た奇岩の一番てっぺんをくり抜いて作った部屋だ。階段などはないし、抜け穴も存在しない。出入りはそこにある扉だけだが、それにしたって登って来るには竜の翼でもなけりゃ、到底不可能だ」
 その言葉に、ここに連れてこられた初日にあらゆる脱出口を探ってみたシャアはただ肩をすくめた。他に続く棟もない、一つぽつんとそびえ立つ塔は、確かに竜であるアムロにくらいしか出入りは不可能だろう。シャアの思考を見透かしたように、アムロが続ける。

「あなたは他の誰にも会えない、俺以外見ない」
「―――アムロ?」

 その言葉の響きに不審を感じ、シャアが顔を上げてアムロの表情を伺う。何処か狂気さえ孕んだような揺らめく琥珀の色の眼差しが、熱を持って金髪の男の紺碧の瞳を見据えた。

「ララァは俺達に近い存在だと言っただろう?―――あなたの黄金にも等しい高貴な身体と血は、闇に属する俺達のようなものの眷属全てを惑わせる……」

 囁くように言いながら、長いかぎ爪を備えた指が伸ばされ、ぷつりとシャアの身に纏う神官の服の前釦を切り離す。

「誰にも渡さない。やっとあなたが俺だけのものになったんだ、シャア」

 その声の響きの奥底に押し込められた独占欲と切望と明らかな欲情の響きを感じ取り、シャアはこれから先の己の運命を悟って瞳を閉じた。



―――それぞれの運命を乗せ、伝説は今ゆっくりとその幕を上げる。





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+++To be Continued.

 

 

拍手創作で連載中の、竜王アムロと神官シャア、勇者カミーユのお話です。
これが懐かしの第一話・・・この後、二話三話と続いていきます。

 

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