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《前編》
宇宙で、地球侵略を狙う外敵達と今日も戦う独立はぐれ部隊ロンド・ベル。
その旗艦ラー・カイラムの談話室では、そわそわとした少年達が何かを待ち侘びるような表情でたむろしていた。
「まだかなぁ」
「さっき着いたトコだって言ってたから、まずは艦長の所だろ」
「早く来ないかなぁ。お土産とかすげー楽しみなんだけど」
「分かる分かる!珍しいお菓子とか見つけてくるの上手だよなぁ」
「そうそう、手が込んでるよな。他の人じゃ、ああは行かないよ」
「こう、ご当地モナカとか名産品クッキーとか名物餅とかで誤魔化して欲しくないもんな!」
少年達が先程から噂をしている相手はロンド・ベルにおいては『クワトロ・バジーナ大尉』と呼ばれる男で、宇宙においては『シャア・アズナブル』や『ジオンの赤い彗星』という通称の方が有名な人物を指している。
そのクワトロは彼等年少パイロットの管理責任者で、お目付役も兼ねていた。
はぐれ部隊とはいえとかく上意下達のはっきりした軍隊の中で、厳しいながらも決して不公平で理不尽ではないクワトロ・バジーナの人望はなかなか厚く、少年達は多忙を極める艦長のブライト・ノアの代わりに交渉に出ていたクワトロの帰りをお土産込みで心待ちにしていたのである。
既に先程から留守中の報告を聞きたいからとブリーフィングルームに集められている少年達であったが、恐らくそれは半分方便で、きっとクワトロから土産が渡されるだろうと経験上覚えてしまっている子供達は、すっかり味を占めて大人しく待機しているのであった。
和気藹々と盛り上がる少年達の間で、一人部屋の隅の方で何となく話題に着いていけないのか、困ったような顔で周囲の少年達の話に聞き耳を立てている鳶色の癖のある髪の少年が居た。その少年に気付いたZガンダムのパイロットのカミーユ・ビダンが少年の名前を呼ぶ。
「おい、アムロ。アムロも楽しみなんじゃないのか? クワトロ大尉のお土産」
「え、……ああ、うん、そうだね」
アムロは突然名前を呼ばれて戸惑ったように頷き、楽しみだねとオウムのように繰り返した。そのアムロの背後から、がばっと黒褐色の髪の毛の少年がのし掛かる。
「なんだよアムロ、元気ないなー、せーっかく、大好きなクワトロ大尉が帰ってくるっていうのに」
「な、ジュドー、そんなんじゃないよ!」
からかうように声をかけてくる少年に、アムロが僅かに赤くなって反論する。はぁ、と深く溜息をついたカミーユが、つかつかと近付いていってジュドーのおでこをデコピンで思い切り弾き飛ばした。
「おい」
「痛っ! なにすんだよカミーユ!」
「カミーユさん、って呼べって言ってるだろう、お前年上に配慮なさ過ぎ。アムロはお前よりお兄さんなんだから」
「うっわ、急に兄貴風吹かすなよな!」
アムロの背中におんぶお化け宜しくぶら下がったジュドーがカミーユに一頻り吼えついた後、それで、と再びアムロに水を向ける。
「でもさ、ホントの話、アムロはあれだけクワトロ大尉に懐いてるんだから、淋しかっただろ? 良かったな」
「な、懐いてなんか」
「そうか? クワトロ大尉の行くところにはどこにでも尻尾振って着いてって、可愛いよなぁってみんなで言っ……」
そこまで言った瞬間、ジュドーの鳩尾にアムロの繰り出した肘打ちが入り、思わぬ不意打ちに頽れるジュドーの前で、アムロは真っ赤な顔で言い放った。
「尻尾なんか振ってない! 僕は、ただ、ガンダムのパイロットとして、あの人に認められようとしてるだけだ!」
それだけ言い捨てると、青い連邦軍の少年兵の軍服を纏ったアムロは、だっと駈けだして行ってしまった。床に蹲ってからかいすぎたかな、と懲りないことを呟くジュドーの脇腹を、半眼で睨み付けながらカミーユが軽く蹴飛ばす。
「……おい、ジュドー」
「なによ、カミーユ」
そんな無体な扱いしないでよね!と何故かオネェ言葉で言い出すジュドーの主張を無視してカミーユが続ける。
「カミーユ「さん」って呼べって言ってるだろう。お前、さっきのネタでアムロを何回からかった?」
「えーと、たしか……」
ジュドーはひい、ふう、と指を折り、カミーユの前に両手を突き出す。
「こんくらい!」
「この大バカ野郎!! アムロはお前みたいなガンダリウム合金製の分厚い面の皮はしてないんだよ!」
またクワトロから逃げ回るアムロと、アムロの様子に戸惑うクワトロの間の板挟みになるのか、と軽い目眩を覚え、カミーユががすっとジュドーの脇腹を踏みつけたまま、胡乱な視線で元凶である少年を睨み据える。
「よーく分かった、お前今夜「ナイーブ」と「デリケート」と「繊細」って百回ずつ書き取りしとけ」
「え、なにそれ、カミーユ横暴!」
「横暴なのはお前だ!」
ちょっとはデリケートとか思春期の少年の真理とか理解しろ! お前には無いものでも理解だけでもしようと務めろ! 怒鳴りつけるカミーユに、どうどう、と青色の髪の同じく思春期の少年を宥めながら、でもさ、とジュドーが反論を始めた。
「このくらいしょっちゅう何かでつついてなくちゃ、アムロとクワトロ大尉って絶対進展なんてしないぜ?」
「なんの進展だ、なんの」
そういうことは当人達に任せろと至極真っ当なことを言った筈のカミーユの意見は、しかしジュドーにそれじゃ戦争終わってバラバラになっちゃうだろ俺達、と一蹴された。
「だから、あの二人をくっつけるには、俺達が絶対力貸さなくちゃ駄目だと思うわけ」
なぁ、協力しろよみんなも、と拳を握って力説する少年に、カミーユだけでなく、同じブリーフィングルームで待機中だった他の面々も目をぱちくりさせることとなった。
「あのな、ジュドー」
初めに立ち直ったのは青い髪の毛の少年だった。
「お前のその可哀相なちっぽけな脳味噌でも理解できるように言ってやる。クワトロ大尉は男で、アムロも男だぞ。その辺は、分かってるな?」
「モチのロンさ!」
「だったら、二人が「くっつく」ってその前提自体がおかしいっていうことにも気付けよこの単細胞バカ!」
がしっとカミーユがジュドーの耳朶を掴んで、意趣返しとばかりにわめき立てる。くわんくわんと鳴る耳を押さえ、カミーユヒドい、恋愛は自由だろ、と涙目でジュドーが訴えた。
「だって、絶対意識してるだろ、あれは!」
「だからお前がその手のことに気付くってこと自体が胡散臭いんだよ俺は。あんまり変なことで大尉を煩わせるなよ」
カミーユに一蹴され、ジュドーはカミーユは自分もクワトロ大尉好きだからヤキモチ妬いてんだ、と唇を尖らせた。
「なっ……! お前、修正されたいのか!」
真っ赤になって拳を振り上げるカミーユを、周囲の少年達が押し止める。クワトロのことを純粋に上官として慕っているつもりのカミーユは、まだ納得がいかないような表情ながら、じろりときつい目つきでジュドーを睨み付けた。
ジュドーはその視線を受けて、嫌だなー、俺ってアムロより年下なのに、庇ってもくれない、とよよと泣き真似をする。
「どっちもどっちだと思うけど……」
遠巻きにその様子を伺っていたギャラリーからは控えめにそんな声があがったが、巻き込まれるのを怖れてか、面と向かっては誰も注意することはなかった。
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+++続。
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