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アウドムラでカラバのメンバーと合流し、更にスペシャルな景品か何かのようにアムロ・レイまで迎え入れることができた一行は、クワトロ達を宇宙に帰すべく、ヒッコリーに向かって航行していた。
そんな中で、カミーユはようやっと金髪の男と二人きりで話す時間を確保することに成功して、胸を撫で下ろしているところであった。先日、アムロ・レイとクワトロ大尉―――”シャア・アズナブル”との再会の場に居合わせた人間として、どうしても聞いてみたいことがあったのだ。
「クワトロ大尉、ちょっとだけ、いいですか?」
「構わんよ、何かね、カミーユ・ビダン」
アムロ・レイとの再開の時に垣間見せた「揺れ」など微塵も感じさせない口調と態度で、金髪の男は言う。
「大尉は、僕と初めて会ったとき、僕のことをアムロ・レイと呼びませんでしたか?」
「そうだったかな」
「聞こえたんです、大尉の声。―――『アムロ・レイか』って、探るような」
カミーユに真っ直ぐな視線で見つめられて、クワトロは分厚いスクリーングラス越しの見えない表情の下、口元に苦笑とも取れる表情を浮かべた。
「聞こえたのか」
「聞きたかった訳じゃないですけど」
カミーユが肩をすくめ、で、どうなんですか、と再びクワトロを見上げる。クワトロは両手を挙げて降参だな、と呟くと、そうだな、と続けた。
「似ているのかと思ったのだよ。でも、今は違う」
呟くように、自分に言い聞かせるように言った後、今度ははっきりとカミーユの方を向き直って言った。
「君は、…アムロとは全く似ていないよ」
男の芝居がかった言い方に、少年の眉が僅かに吊り上がる。
「それって嫌味ですか」
「いや、誉めているのさ。信じ難いかもしれないがね」
そう、怒らないでくれたまえ、と再び軽い調子に戻った後、ついと腕を伸ばして、少年の僅かに癖のある青い髪の毛をくしゃりと混ぜるようにしながら、軽く頭を撫でた。
「カミーユ、君なら、私やアムロと違って、ニュータイプという存在と向き合えるかもしれないな」
「な、なんですか、それ」
突然のクワトロの行動に狼狽えたような少年をどこか愉快そうに見下ろしながら、金髪の男は赤い手袋をした手を口元に当てて、じっと検分するように少年を見つめる。―――まるで、初めてカミーユ・ビダンという少年に出会ったでもあるかのように。
「まぁ、…そうだな、有能すぎる部下、というのも切ないものだがね」
「な、それっ…」
それは、今初めて僕っていう人間のことを見てくれたっていうことですか、と少し憤慨しながら聞き返そうとしていた少年と男の間に、別の人間のやや低調気味の声が割って入った。
「クワトロ大尉、こんな所にいた」
背後からかかった声に、金髪の男がさっと表情を変えて振り返る。
「…やぁ、アムロ君」
「ハヤト艦長が探している。ブリッジまで上がってきてくれないか」
「折角合流したばかりの人間を伝令代わりに使うとはな」
「気安いのさ。クワトロ大尉が気を使う事じゃない」
再会したときの残滓を漂わせるようなどこかぎこちない、僅かにお互い緊張したような口調で慎重な会話を交わした後、クワトロはそれでは、と軽くカミーユに手を挙げて立ち去った。クワトロの姿が視界から消えた途端、アムロの方もふう、と息を吐いて肩から力を抜く。―――その後で、初めて少年に気付いたように、ぎこちなく微笑んだ。
「やぁ、あの時は。…受け止めてくれて、助かった」
「いえ、僕こそ、お会いできて本当に光栄です、アムロ・レイさん」
「やめてくれないかな、そういうの。ムズムズするんだ」
カミーユの言葉に照れたようにかしかしと収まりの悪い鳶色の髪の毛を掻いた青年は、それじゃあ、俺はこれで、とそそくさとその場を立ち去ろうとした。カミーユは、思わずその後ろ姿に声をかける。
「あ、あのっ!」
「なんだい?」
カミーユの声の調子に驚いたように、アムロが振り返る。衝動的に呼び止めたことを僅かに恥じながら、カミーユは青年に聞いてみた。直感的に、こんなことを聞けるのはこの人以外に居ないと思ったのだ。クワトロに尋ねても、多分はぐらかされてしまう。
「ニュータイプって、なんなんですか?」
さっとアムロの表情が消えた。
「―――さぁ」
アムロは、一瞬以上の沈黙の後で、それだけ言うと、首を傾げた。
「俺が、知るわけがない」
「でも」
「カミーユ・ビダン、君は君自身の事、どの位知っている?―――どの位、きちんと説明できる?」
反論しようとしたカミーユを静かに制した後で、アムロはつまりね、と呟いた。
「つまり、そういうことだ。皆がニュータイプだって言うなら、俺はきっとそうなんだろう。でも、俺は俺自身のことなんか、何にも知らない」
ご期待に添えなくて、とそれだけ付け加えると、アムロはその場をさっさと立ち去ってしまった。他人の介入を拒絶するようなその後ろ姿にカミーユはかける言葉を失い、暫くして結局二人ともに逃げられてしまった事に気付いた。
気付いて、一人きりその場に立ち尽くして、僅かに切られた窓から見える空の青を、その向こうに求めている答えがあるような飢えた視線でただじっと見つめていた。
その抜けるような空さえ、少年には何も答えてはくれないのだと知ってはいても。
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+++END
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