Death be not proud




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 珍しく、いつもより早めに目が覚めた。それでもまだ完全には覚め切らぬ意識の中で、私は部屋の外の気配に気付いた。

 この世で、私が聡く感じることのできる唯一の気配の存在に忍び笑いを漏らし、狸寝入りを決め込むことにする。軽い足音は部屋のドアの前で止まり、一拍おいてから、ドアが勢いよく開く。そこで叫ぶかどうか躊躇ってから、まだ寝ているのを発見して、ドアを閉めてそろそろと近付いてくる。

(それでは、本気で起こしたいのかどうかも分からないよ、君)

 忍び笑いを漏らしたいのを必死で我慢して、使命感に燃えている筈の目覚ましを待つ。ベッドサイドに慣れた気配が佇み、ゆさゆさと肩の辺りに手をかけて、身体が揺さぶられる。

「シャア、シャーアー、朝だぞ、起きろ、起きろって」
「……ン」

 目を閉じたまま眉を顰め、布団の中に潜り込もうとすると、慌てたように相手がちょっと、起きろって言ってるだろ、とぺろりと毛布を引き剥いだ気配がした。ぶるると寒そうに身を竦めて、腕を伸ばす。

「……い」
「え?」
「さむ、い」

 呟きながら、聞き取ろうと顔を寄せてきた相手もろとも再び毛布を引き被り、じたばたと暴れる隙もなく、獲物を腕の中に閉じこめる。

 作戦成功。3倍速の異名は伊達ではない。

 それでも、あえてまだ目を閉じたまますうすうと眠った振りを続けると、ああもう、またやられた、とかなんとか呟きながら腕の中の生き物がごそごそ動き出した。

「おい、シャア、寝惚けてないで起きろよ、ほらぁ!」
「ン……」

 寝惚けて居るぞ、というポーズで反眼を開け、アムロだな、と名前を呼んでから、もう一度目を閉じる。

「アムロだ、じゃないだろう? 今日、早朝ミーティングだろ?早いんだから、起きてくれよ」

 言いながら、私の胸を押して腕の中から逃れようとする。……が、そこまで本気ではない抵抗で、逃げられよう筈もない。直に諦めたのか大人しくなる身体を腕の中にしっかりと抱え直して、私は背後からその耳に向かって彼の名前を呼ぶ。勿論、寝起きで彼の大好きな声が少し掠れているのは計算の内だ。案の定、ぴくりと震える青年の耳朶に唇を付け、確かめるようにアムロ、と繰り返す。

「……ああもう、バカの一つ覚えじゃないんだから、言われなくても俺だって。起きろよ、シャア」

 言いながら腕の中でこちらを向いてごろりと寝返りを打ったアムロに向けてにっこりと微笑み、硬直する青年の秀でた額にも口付ける。

「いいじゃないか。"One short sleepe past, wee wake eternally, And death shall be no more; death, thou shalt die."君と二人で永遠にこうしているのも悪くはない」

 囁くと、アムロは琥珀の目を軽く見開き、次いでこちらを睨み付けた。

「ホントに、寝起きからよく回る頭と舌だな……」

 アムロの声は呆れた響きを含んではいたが、けれどもそれでいてどこか嬉しそうでもあった。私の意識は今完全に彼に向いていて、彼の意識は完全に私の方を向いている。その事にこの上ない幸福を感じて、私は彼の胴を抱え込んでいた手を、服の中に這いこませる。途端、今度こそびくりと大きく跳ね上がった青年が、待て、と焦った声を挙げた。

「待てよ、それはヤバイ、やばいって。シャア、今は困る……」
「どうして? 起こしに来てくれたのだろう?」

 君の存在を現実のものとして確かめられたら目も覚めるだろう、適当なことを言いながら上着のシャツの隙間から素肌に触れると、アムロの口からは甘い吐息が零れた。

「ちょ……! や、ぁっ……」

 そのアムロの口元を抑えて、私は密やかに笑う。

「しぃっ、……声を抑えて。君はスクリーマーだから困るね」

 暗に声が高いのを揶揄すると、アムロの顔がさぁっと真っ赤に染まる。

「や、…かましいっ…!」

 やめろって、こら、ブライトに怒られるだろう、遅刻なんかしたら、と必死に腕の中で訴えかける青年の主張はあっさり却下して、煩い唇はさっさと塞いでしまう。

(そもそも、襲われたくないのなら、早めに起こしに来るのを止めることだよ、アムロ)

 それなのに、一時間も二時間も早く起こしに来たりしたら、実はこちらの思うツボなのだが。

「も、……起こしに、きた、だけなの、にっ……」
「目覚めには甘いものが効果的だと聞くし、君なんかまさに目覚ましにうってつけじゃないか、アムロ」

 精々私の血糖値を上げてくれ、と耳朶を囓ると、甘い悲鳴が再び上がる。

「なに、バカな……あ、あっ?!」

 腕の中で艶やかに鳴き始めた青年がその真実に気付くのははて、いつのことかと心の中で思いながら、私は再び幸せな夢の世界に戻ることにした。










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+++END

 

 

・注:アムロは襲われるのコミでわざわざ早めに起こしに来ています。
・それを気付いていないのは寝惚けているシャアだけです。
・所詮バカップル。
・タイトルとシャアのぶつくさ言っているのはジョン・ダンです。「聖なるソネット」の一節。死よ、驕ることなかれ。

 

 

 

 

 

 

 

 

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