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※世界はSRW設定です。
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"Audentes fortuna invat"
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+VI+
キャスバルが登場したショックに固まるクルー達を後目に、ガトーはさっさとその中に下がっていってしまった。
その彼にぱたぱたとコウが近づいていく。ガトーが縋るような視線に気付いて相変わらず落ち着きのない奴だ、と苦笑する。
コウはガトーの側まで辿り着くと背の高い長い銀髪の男を見上げ、過呼吸のように口をパクパクさせながらあれはなに、一体何が、と流石にパニックを起こしたようにまくし立てた。
ガトーが溜息をつき、コウの動揺を一蹴する。
「……落ち着け。」
「ていうかあんたはなんで落ち着いてるんだ!!」
「悪い様にはならん。」
「だってこれ以上悪くなりようがないだろう?!」
聞いてるのか分かってるのかガトー!
ガトーの軍服の腕を掴んでぎゃんぎゃん喚き立てるコウをこいつは相変わらず犬みたいだなと失礼な感想を抱きつつガトーがべりっと己から引き剥がした。
奥襟を掴んだまま、それこそ子供を諭すように言い含める。
「落ち着け、と言っている。…全く、キャスバル殿下の方がお前よりずっと大人だな、コウ・ウラキ。」
その言い方に十歳の子供以下と言われたコウが真っ赤になった。
「…なっ、大体、アレがクワトロ大尉な訳?!ホントに、マジで?」
「ああ、間違いない。肖像画で見たことがある程度だがな、私も。」
記憶を辿るような視線をしつつガトーが呟く。
「キャスバル・レム・ダイクン。…ジオン共和国『蒼の王子』か。」
当然のようにその台詞にもコウが反応した。
「”蒼の王子”?…なに、それ。」
ガトーが淡々と説明をする。コウに、というよりは自分が確認をするかのように。
「キャスバル殿下の称号だ。お生まれになったときに余りに美しい両の瞳が評判になって、当時のコロニーの連合から祝いとして地球産の最高級のサファイアが贈られたと聞いたことがある。」
生粋のジオンの軍人であるガトーは自国の歴史を語るにどこか感慨深げでもあった。
「お父上の聡明さと母上の美貌を受け継がれた、『ジオンの至宝』とまさかこのような形で巡り会えるとは。」
コウが呆気にとられた口調でまたオウム返しに繰り返す。
「…ジオンの至宝。」
―――って誰のことさ、それ。
熱くなるガトーを余所についついコウは似合わねー、とツッコミを入れてしまう。
んな大袈裟な、と思ってしまうのは王族を持たない地球連邦出身のコウだからなのだろうか。
しかも未来予想図のクワトロ大尉を知っているから尚更だ。あの人のどこが蒼の王子でジオンの至宝やねん、と聞いた人間はコウならずとも思ったに違いない。
しかし、ガトーはそうは思わなかったらしい。
「次期コロニー公国の指導者としてよりも、宇宙の覇権さえ掌握できるのではないかと…。随分期待されていたのだ。」
ガトーの感極まった呟きを余所に、キャスバルの挨拶は続いている。
「…勿論ロンド・ベル隊が地球連邦所属で私がジオンの人間であることは否定しようもないのだが……。」
そこで。
少年は面をもう一度上げて全員の顔を見回し、ふわりと微笑んだ。微かに柔らかい金の髪の毛が揺らめき、温かい光が散って宝石のような青い双眸を彩る。
「……良ければ、受け容れて貰いたい。」
天使のような、とは正にこのこと。後光も天使の輪っかも羽根も見えそうなこれほどの美少年に丁重にお願いされて聞けない人種が何処にいようか。ましてや元々クワトロ・バジーナという名前でも馴染み深かった人間だ。
いつものスクリーングラスに隠された下の素顔の美貌に、一同が圧倒される。幼いながらも造りや形は勿論のこと、内側から滲み出る気品や知性が補完するキャスバルは正に『完璧な王子様』の理想像のようであった。
ほう、と誰かが息を呑む音が聞こえた。
―――『蒼の王子』キャスバル・レム・ダイクン、またの名を『ジオンの至宝』によるロンド・ベル隊完全掌握の瞬間であった。
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一通りの混乱が収束したのを見計らったようにキャスバルが脇に下がったガトーに声をかける。
「アナベル・ガトー少佐。」
「はい。」
「此処にいる人たちを紹介してくれないか。」
「畏まりました。」
ガトーが一歩進み出、一礼してキャスバルにクルーの紹介を始める。
「まずはあちらにいるのがブライト・ノア連邦軍大佐。この艦の艦長で、ロンド・ベル隊の指導者です。」
ブライトが緊張の面持ちで少年の前に出て、"Your Grace,"と呼びかけた。キャスバルが苦笑する。
「ああ。称号は要らない。私は別に公国の主ではないのだから。」
ブライトが生真面目に言い直した。
「ではキャスバル閣下…ですか。」
その位は仕方がないか、とブライトの生真面目さを見て取ったキャスバルが苦笑しながら頷く。
「そうだ。貴君が艦長だと言ったな?では、この艦自体は連邦籍なのだろうか。」
「はい、今のところは。」
「そうか…いい艦だな。」
「ありがとうございます。」
完璧に主従逆転である。連邦の上官に対するより緊張しているのでは、というブライトの様子にアムロは苦笑していたが、その瞬間にお鉢が彼に回ってくる。
「そして、あちらはアムロ・レイ連邦軍大尉。…この艦の事実上の副艦で、モビルスーツ隊の隊長でもあります。」
へぇ、とガトーを見上げながらキャスバルが目を見開いた。
「まだ二十歳そこそこ位じゃないのか。若いな。さぞ優秀なのだろうな?」
「……。」
ガトーはどう返答して良いのか暫く困惑していたようだったが、結局殿下からの質問は聞かなかったことにしたらしい。
アムロとシャアの因縁は語るには壮大すぎるし、今の二人の知らない部分も多すぎて、傍観者でさえなかったガトー如きが口を挟めるような類のものではない。
…というよりこの時点のガトーはまだアムロとブライトも若返っていることを知らないのだが。
ガトーほどの男が気付かない辺り、アムロの若作りとブライトの老成ぶりもある意味大したものである。
キャスバルはそれ以上頓着もせずに一歩前に出た。暫く言葉を探していたようだったが、アムロの前に足を止めて見上げた瞳にはもう迷いは欠片もない。
「アムロ大尉。…キャスバル・ダイクンだ。妙な縁で此処に居合わせることになったが、仲良くしてくれると嬉しい。」
差し出された手に、アムロは一瞬以上躊躇した。
「え、ええと…。」
困惑したようなアムロにキャスバルが首を傾げる。慌ててブライトが二人の間に割って入った。
「すいません閣下、こいつは内気な奴で…。」
「あんたは黙ってろよブライト。」
ムカツク、とアムロも手を差し出す。…何の疑いも疑問も差し挟まず、彼に友好の手を差し伸べる終生のライバルに対して。
「…こちらこそ、宜しく。」
―――握った手が酷く小さくて落ち着かなかった。
同じくらいキャスバルの完璧すぎる微笑みも、アムロを酷く落ち着かなくさせた。
頭のどこかでもう一人の自分が『シャアの手を取った』と囁きかけている所為かもしれなかった。
大袈裟な、と笑い飛ばしたかったが。
そうは行かないことは誰あろうアムロ自身が一番良く、知っていた。
―――白鳥の笑い声が聞こえた。
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+++To be Continued.
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