海の王国
-The indefinables of great Happiness-

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 ※世界はSRW設定です。



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"Crescit enim cum amplitudine rerum vis ingenii"


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+III+


 結果として、ハサウェイとカミーユはアムロにもブライトにも、クワトロを迎えに行ったはずのガトーにも会うことが出来なかった。

「みんな何処に行っちゃったのかな…ガトーさんまで。」
「さぁ…。」

 流石に少し不安げに顔を見合わせ、廊下を歩いて艦橋まで帰ってくる。二人が入っていくと待ちかねていたように全員の視線が集中した。
「ハサウェイ、ブライトさんはどうなっていた?!」
 とやけに心配そうにジュドーに話しかけられ、ハサウェイは首を振った。
「会えなかったんです。…何処にも居なくて。アムロさんも。」
「クワトロ大尉の所に行ったガトーさんにも会えなかったなぁ…みんな何処に行ったんだろう。」
 カミーユも流石に少し不安げに呟いたとき。

「カミーユ?カミーユじゃないか!!」

 聞き慣れた声がして、艦橋に良く見知った人物が飛び込んできた。カミーユもそちらを向いてホッとした表情になる。

「アムロさん!!」

 はぁ、とアムロは走り詰めの呼吸を整えながら一息でまくし立てる。
「カミーユ、お前が居るっていうことは…クワトロ大尉も居るんじゃないのか?!大尉はどうした?!」
 アムロとしては一人でも多くの知り合いを見つけたいというか自分より年長者をとっ捕まえて一刻も早く抱えているブライトを押しつけてしまいたいというかそういう気分だったのだが。

 言われて、カミーユが息を飲んだ。
「アムロさんも大尉と会ってないんですか?!」
 そのカミーユの言葉を聞いて今度はアムロが溜息をつく。ブライトと一緒に他に知り合いが居ないか探して歩き、ハヤトの影がないこととブライトとカミーユのアーガマコンビが居ることから恐らくクワトロもいるのだろうと当て推量を付けたのだが、居るには居てもここではないらしい。

 ホントにこういうときの逃げ足早いよなあの赤い彗星と恨みがましく思いつつカミーユに向かって口を開く。
「ああ、ブライトには…なんとか…会えたんだ…けど。」
 奥歯に物を噛むようなアムロの言い方に焦れたジュドーが前に出る。
「なんとかって一体なんなんですか?」

 しかし。アムロはジュドーを見るとぽよん、と頭の上に特大のクエスチョンマークを浮かせ、挙げ句にこう言い放った。
「君…誰?」
「はぁ?!」
 思わず悪い冗談だろう、とジュドーが食ってかかる。

「ジュドーですよ、ジュドー・アーシタです。」
「じゅどー…あーした?」

 名前をオウム返しに繰り返しながらもアムロはやっぱり得心がいかない表情のままだ。そのまま視線を隣に立つカミーユに向ける。
「…って、カミーユの友達?」
「え?…いいえ。」
 聞かれ、カミーユは思わず首を横に振ってしまってジュドーにおい、とツッコミを入れられる。

「アムロさん、父さんは…。」
 その時横合いからハサウェイに話しかけられ、アムロはもう一度絶句した。どうやら彼の顔には見覚えがあったらしい。しばしじっくりその顔を覗き込んだ後、絞り出すような声でハサウェイに問う。

「………君、もしかしてハサウェイ・ノア?」

「はい。」

「…………ホントにブライトの息子のハサウェイ?」

「そうですよ。」

「………………なぁ、カミーユ。」

 突然ぎぎっと錆び付いたように振り向かれ、眼光の怪しさにカミーユが微かに一歩下がる。
「な、なんですか?アムロさん。」
「俺、今年幾つになるか聞いてもいい?」
「は?……アムロさんは、今年で29歳でしょう?違いましたか?」
 何時でも三十路リーチだー、って嘆いていたじゃないですかと言われ、アムロは天を仰いだ。
 ブライトが若返っているのは見ていても、自分自身までそうである可能性は流石に考えても居なかったのだ。ついでに尋ねてしまう。

「じゃ、さ。ブライトって三十三?」
「えーと、はい。」
「んじゃ、クワトロ大尉は三十四才…?!」
「アムロさん?」
 一人で年齢カウントを続け、一人でどんどん撃沈していくエースパイロットの鬼気迫る様子にカミーユが後じさる。

「……嘘だろ。それでこんなにハサウェイがでっかくなってるのかよ。」
 何処か愕然とした声の響きにハサウェイが首を傾げる。
「…でっかくって。」
「うーんと。」

 アムロが頭をがしがしと掻く。ただでさえ童顔気味の青年がそんな子供っぽい仕草をすると余計に年若く見えるのだが、それはさておき。事情は段々分かってきたけどどうしていいかわかんないや、と判断したアムロは犠牲者を増やすべく振り返って声を上げた。

「論より証拠ってやつか。おーい、ブライト!!」

 向こうからなんだ、と返事が返ってくる。調子からすると相当機嫌は斜め方向に直滑降しているままらしい。
 問題だらけだ、と元来悲観的なアムロは溜息をついた。ハサウェイに何があっても驚かないようにと一本太い釘をぶっすり刺してからその父親を呼び寄せる。

「なんだじゃないよ、あんたの息子がお待ちかね!」

「……息子だとぉ?!」

 思わずブライトはヒステリックに叫んでしまった。苛立たしげにアムロの元に大股で歩いてくる。全く、悪い冗談にも程があるぞアムロと呟きながら。

「アムロ、息子って、俺に息子って…俺はまだ独身だぞ?!」
 勢いづいて駆け込んできたブライトの前に、アムロがよいしょっとばかりに肩を掴んでハサウェイを差し出す。

「はいはい、ブライト、今はブライトが居た時代より十四年ほど経ってるみたいだから。間違いないから。俺が知ってたときはこんなに大きくはなってなかったけど、確かに間違いなく何の疑いも疑問もなくブライトとミライさんの子供だよ。ハサウェイっていう名前の。」

 ほーらそっくり遺伝子の不思議ディオキシリボ核酸の恐怖リングとらせんとループ三部作に続きノア家の一族増殖中、と言われてブライトはまず別の部分に反応した。

「ミライと?!」

「そっちが先かよ!」

 思わずアムロがツッコミを入れてしまう。確かにブライトが密かにミライ・ヤシマに想いを寄せているのはホワイトベース公然の事実だったが。

 その後ハサウェイをつくづく穴が空くほど見つめ、言い逃れ出来そうにないと悟ったのかブライトがしどろもどろになる。
「いや、しかしそんな急に息子が出来たと言われても心の準備が…。」
 後じさるブライトにアムロが非常に楽しそうに詰め寄る。
「男らしくないぞブライト、責任を認めろよ!」
「いや、責任って!犯してもない事態の責任をどう取れっていうんだ!」

 ブライトの言い訳に、アムロがとてもではないがパーソナリティに似つかわしくない常識論を口にする。
「それが管理官の仕事だろ?!」
「それを言うなら准尉の俺よりお前の方が階級上だろうが!!!」

 そこら辺りで思いあまったのかハサウェイが口を挟んだ。
「あの、父さん…アムロさん…。」
「ちょちょ、ちょっと待て、君に『父さん』と呼ばれる心の準備が…!」
 動揺するブライトに向かい、上官いぢめ上等!とばかり生き生きとアムロがハサウェイを焚きつける。

「だから、往生際悪いぞブライト!ハサウェイ、構わないから『パパ』と呼んで胸に飛び込んでやれ!」
「アムロ!!」


 楽しげな上司と部下に、呆然と見つめる人垣の中からあのー、と恐る恐るコウ・ウラキが声を掛ける。
 アムロはそのコウの方を振り向いて本日二度目のお約束をかました。

「…で、君、誰?」

 今度は事情を承知しているコウも素直に己の身分を名乗る。
「連邦軍パイロットのコウ・ウラキ少尉です。あの…じゃ、俺達一体どうしたら…。」
 困惑したようなコウの台詞に、またもぽよんとアムロが首を傾げる。

「どうしたら、って?」
「だって、艦長とパイロットのシフト管理総責任者のアムロさんが今朝のミーティングでこの先の航路と作戦を発表するって…。」

 コウの至極冷静な言葉に全員が我に返って視線がアムロの方に集中した。

 縋るような全員の視線を受け止めて、また艦長だの艦長代理の責任を押しつけられるのかと狼狽えるブライトと対照的にアムロがにっこりと微笑む。その後で、清々しいほどの口調できっぱりと言いきった。

「……ていうか、俺達ぜんっぜんこの艦自体に見覚えないんだけど、どうしよう?」

 そんなこと聞かれたって分かるわけないじゃんねー。あははは。朗らかに言い放つアムロに、ブライトがあちゃー、と額に手を当てる。


―――アームーロー大尉〜〜〜〜〜???!!!!!!


 全員が愕然とか呆然という単語と共に絶句して再び食い入るようにアムロを見たが、アムロは悪びれる様子もない。
 二十九現在の成熟しきったアムロと違い、未だ若くて或る程度無責任なアムロはあっけらかんと困ったねー、と隊の苦悩を笑い飛ばしている。

 一部始終を遠巻きの集団の中で見守っていたシローは深く溜息をついた。
「駄目だな、これは。後は…クワトロ大尉がどうなっているかの神頼み、ってやつか。」
「なかなか…当てにしづらい神様ではありますけどね。」
 ぼやきを隣で聞いていたウッソも天を仰いで神様仏様赤い彗星様々ですかと呟く。
「一体なんでこんな事になったんだよ…。」
 シーブックも首を振り、降って湧いた災難に暗澹たる気持ちを噛みしめた。一体俺達今からどうなっちゃうんだろう、と。少年ばっかりで漂流して宇宙の敵と戦うなんて木馬でもバイファムでもあるまいし。


 どうやら、事態は全てこの場にいないガトーとクワトロ待ち、ということになってしまったようであった。

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 艦橋の雰囲気は一時間経っても暗いままだった。

 クルー達はとりあえず必要に迫られて業務に戻った者も居るが、殆どの人間が困惑した空気を引きずったままこの場所に留まっている。無理もない、艦長とシフト管理責任者の指示もなしに己の判断のみで勝手に動くわけにも行かないのだ。

 その責任者の片方は、檻の中のクマ宜しく苛々と艦橋を歩き回っていた。

「ていうかなんで俺達若返ってんの、記憶も無しで!!」

 ブライトが収まらないようにのほほんとこちらは適当な椅子に腰掛けているアムロに食ってかかる。
「さぁ…。」
 元々が受動的なのか適応力が在りすぎるのかよく分からないアムロは既に諦観して運命を受け容れているらしく、返事もおざなりだ。

 しかし、言った後で今更ながらもう一つ別の可能性に気付いてさっと顔色を青ざめさせる。
「これってもしかしてパターンとしてはクワトロ大尉も若返ってるかな…。げー…」

 言ってしまって想像したらしくがっくん、とアムロが項垂れる。

「クワトロのあたりまでならいいけどさ…ブライトとタメくらいまで巻き戻ってたらどうしよう…。」

 ジオンに潜り込んだりホワイトベースに忍び込んだりジャブローへの裏ルートを発見したりしていたあの頃のイヤになるくらい行動的なシャアと自分はやっていけるだろうか、果たして。…現時点ならあっちが僅かばかり年下とはいえ。

 そこで、アムロの発言を聞き咎めたブライトが先程から抱いていたらしい疑問を口に出す。

「アムロ、先程から聞きたいのだが、クワトロ大尉とは誰だ?この艦の責任者か?」
 僅かな未来への光明を抱いたらしいブライトに聞かれて、アムロはあっさり否定の返事を返す。

「うんにゃ、責任者はあんた。クワトロ大尉は…んー、ブライトの知っている名前で言うなら『赤い彗星のシャア』。」

「…な、なに?!」
 色めき立ってブライトが立ち上がる。
「アムロ、赤い彗星って…!あの、『ジオンの赤い彗星』か?!木馬追撃隊の赤い彗星が何故同じ艦に…いや、もしかしてこの艦は連邦軍ではないのか?アムロ、お前まさかジオン軍に…。」

「独りで煮詰まらないでくれる、ブライト。」

 パニックを起こすと人の話を聞かない悪癖が復活している若きブライトに、アムロは心底嫌気が差す…というか辟易してきた。
 その頃から十四年経ってるって言ってるだろうさっきから!と突っ込みたいのを我慢する。アムロ自身も抜け落ちた七年分の空白が不安で仕方がないのに。

「話せば長いことながら…。」
 言いかけてブライトの顔をしげしげと眺め、溜息を落とす。自分までもこの事態の渦中と言うことは、ブライトに納得行く説明が出来るとはとても思えない。後から何で教えてくれなかったと責められるのも愚痴られるのも真っ平だし。

 暫く考えて、アムロは論理的な思考を放棄する。

「やっぱ長いから話すのめんどい。いいや。」
「アムロ!!」
「後で見つけたら自分で聞いて、クワトロ大尉に。」
「だからっ…!!!」

 ブライトが頼りにならない部下に更に詰め寄ろうとしたその時、再び艦橋のドアが開いた。

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 開いたドアから、長身で長い銀の髪の毛を後ろに流した偉丈夫が姿を現す。
 待望のアナベル・ガトー少佐の登場に艦橋が少し沸いた。未だ嘗てこんなに彼が待ち望まれたことがあっただろうか。

「待たせたな。」

 低い声に、弾かれたようにまず真っ先に頭を上げたのはコウ・ウラキだった。

「あっ、ガトー…!」

 言いかけて、コウが言葉を呑む。視線はガトーの背後に釘付けになっていた。

 ガトーの後から続いて恐らく十歳前後だろう少年が入ってくる。年端もいかない癖に、威風を払い周囲を圧倒するその雰囲気にどことなく覚えがあるような気がして、コウは動揺した。思わず説明を求めるように長身のライバルを見上げる。

「…ガトー?」
 ガトーが苦笑し、自らは脇に控えて少年に道を譲った。

 先程此処へ来る前に居住区域に行って配給用の品をひっくり返し、子供用の服を探し出してきたので今はキャスバルもクワトロの服を脱いで身体に合った普通の服に着替えている。促され、軽く頷くとガトーを従えて皆の前に出る。前を通るときにガトーが少年に一礼した。

 敬意さえ見える誇り高い軍人のその姿勢に一体何事かと全員が少年に注目する。

 紹介を、と促され、ガトーが一つ咳払いをして、徐に話し出した。

「皆、聞いてくれ。この方は我らがジオン公国の正当な王位継承者であらせられるキャスバル・レム・ダイクン殿下である。」

「………え。」

 全員、文字通り刻を止めた。

―――キャスバル・レム・ダイクン。

 ジオン共和国を建国したスペースノイド解放の象徴、ジオン・ズム・ダイクンの長子の名前である。
 だがしかし、ラー・カイラムのクルー達にとってもまた、それは十分以上耳に馴染みのある名前でもあった。

 "Casval Rem Deiken". …それは、クワトロがシャア・アズナブルを名乗る更に前、彼が生まれたときに偉大な両親から与えられた名前の筈だった。その程度の予備知識は流石のクルー達も習熟している。あまりといえばあまりに有名な話でもあるし。

 最も、クワトロ自体がそんな雰囲気は微塵も感じさせない性格だったことも己の出自に拘りもしていなかった所為もあり、彼がジオンの正統な後継者であることなど皆日常は殆ど気にも留めていなかっただけで。

 アムロとブライトが先に来てひと騒動起こしていなければ到底信じられないことではあったが。
 金髪で青い目の利発そうな子供は。どうやら紛れもなく昨日までのクワトロ・バジーナ大尉であった。
…但し、中間地点の『シャア・アズナブル』という存在がその時間毎さっぱり抜け落ちた。

 一拍置いて、今度はキャスバルが口を開く。

「ロンド・ベル所属の皆、アナベル・ガトー少佐から紹介に与ったキャスバル・ダイクンだ。諸君達に関する大凡の事情は先般此処にいるガトー少佐から聞いた。地球への宇宙からの外敵の侵略と戦うために過去の柵を超えて敵味方分け隔てなく協力するという姿勢は素晴らしいと思う。何故に私が今此処にいるのかという事情については未だ理解しかねているのだが、暫く厄介にならせて貰う。邪魔ならば次の寄港地ででも降ろして頂いて構わない。」

 はきはきととても十歳とは思えない口調と態度でものをいうキャスバルに、クルー達は呆気にとられた。






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+++To be Continued.

 

 

トップのは「無垢なる者の力は、課される命題の大きさにより成長する」
という意味のラテン語ですが。…成長してないな、アムロもブライトも(笑)
19のブライトが煮詰まってカリカリしている姿にもノスタルヂアというか強烈な郷愁を覚えますが(笑)
22の微妙に無気力チックなアムロも書いていて楽しいです。いや、本当に。
29はもうちょっとポジティブシンキングなので(本当か)いや、弾けたとも…。

とにもかくにも大人が全然居なくなってすわ漂流教室かい!ということになってきたロンド・ベル。
艦の名前は「バイファム」に変えた方が(黙)ホワイトベース勢はこういう状況二回目なので強いはずなんですけどねー。

金髪の少年に傅くガトーっていうのがかなり好きで書いてるんですけど(笑)
軍服の美青年を跪かせる金髪の美少年。呼びかけは"Your Royal Highness,"…ええのう。(変態)
ちなみに居住区域まではぶかぶかの服のキャスバル殿下をガトーが抱っこしていったらしいですよ。(笑)
ホラ萌える!!(黙)…お後が宜しいようで。

 

+++ back +++