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※世界はSRW設定です。
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"A great many people think they are thinking when they are merely rearranging their prejudices."
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+II+
翌朝。
起き抜けにアムロは身体に違和感を感じた。
「…?」
まずは腕を伸ばして見る。手の平を。
何度かひっくり返して散々ためつすがめつする。
しかし特に変わったところは見受けられない。
仕方がないのでもう暫く布団と仲良くしていたい未練を振り切り、最早慢性的とも言える睡眠不足を訴える身体を引き起こしてバスルームに行き、顔を覗き込んだ。
…やっぱり、特に変わったところはない。あるべきものは全てあるべき場所に完全に揃っている。
なのに、この違和感はなんなのだろう。
首を傾げながらアムロはそのまま熱いシャワーを浴びて濡れた髪をいい加減に乾かしてからさて服を着ようとクローゼットを開けて。
そこで、硬直した。
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本日は全員集合の朝のミーティングの行われる日であった。
ブリッジには眠い目を擦りながら各パイロットや他部署のクルー達が勢揃いしている。
しかし。
おかしなことに、今朝に限って時間厳守五分前行動励行、がモットーの艦長のブライト・ノアがまだ現れない。
それだけならまだしも、パイロットの責任者であるアムロ・レイ大尉にクワトロ・バジーナ大尉の二人も未だ姿を見せていない。
つまり、管理職が一人も居ないのである。当然ながらミーティングの始めようもない。
開始時刻を半時間ほど過ぎたところで、流石に全員がおかしいと思い始めた。
「…なんかあったのかな、大佐。」
クェスが心配そうに呟く。その横でハサウェイが僕父さんの部屋覗きに行きましょうか、と数少ない成人であるアナベル・ガトー少佐に問う。
「うむ…アムロ尉はともかく、シャア大佐とブライト艦長は確かに不審だな。…そうだな、ではハサウェイ・ノア。君は父君の所、私はシャア大佐の所だ。」
「分かりました。」
こういう場に置いて冷静な判断が出来る人間は少ない。この部隊は一応は連邦軍所属でガトーはジオンの軍人だが、その出自をとやかく言わないほどには今ではこの部隊の結束力も強くなって来ている。ガトーは更に数名に指示を与え、とりあえず差し当たって緊急の用のないものはこの場に留まるよう言い渡すと、同じく軍属の少年をもう一人視界に入れる。
「カミーユ・ビダン君、君はハサウェイ君と同行して、その後でついでにアムロ大尉の様子を見に行ってくれるか。」
「分かりました。」
昨日以来物わかりの言い返事を返すカミーユにガトーが頷いてみせる。年嵩の或る程度緊急事態に強いカミーユを付けたのは、万が一のことがあってはというガトーなりの配慮の表れだった。
…何故か、カミーユのその後ろではジュドーが真っ青な顔をしていたが。
「では、各員は私達が戻るまで、或いは何か連絡が有るまで此処で待機していてくれ。行くぞ。」
言い放ち、ガトーは大股に艦橋を後にした。
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その頃。
己の部屋を飛び出して延々と続く見覚えのあるようなないような士官用の住居フロアを部屋の主の名前だけを確認しながら走り続けていたアムロは、やっと既知の名前のある表札を見つけた所だった。
地獄に仏と慌ててインターフォンを鳴らして名前を名乗り、中からドアが開くと当時に叫ぶ。
「聞いてくれブライト!なんか、なんか制服に見覚えがないんだ!なんだよこの青い連邦軍服?!俺、俺連邦軍から逃げてカラバに居たんじゃ…!!」
「アムロか、丁度いい、お前に聞きたい!!ここは何処だ?!ホワイトベースの中ではないの……!!」
そこまでで。お互いがお互いの格好に愕然としてフリーズする。
「…アムロ?!」
「ブライトぉ?!」
顔を見合わせて叫ぶ様はなかなかに間抜けていたがまぁ仕方がない。アムロが物凄く妙な顔で上官の顔を穴が空くほど見つめる。
「な、なんか…ブライト、微妙に若い…?」
ブライトの方も不信感に満ち満ちた表情で部下の青年を頭の天辺からつま先まで何度も眺め倒す。
「アムロ、お前異様に育っていないか?!」
その言葉にアムロの方が一瞬だけ先に我に返った。どうやらアムロの方には目の前のブライトに見覚えがある。…信じたくはないが。
「ちょ、落ち着こう、落ち着こうよ…ブライト今幾つ?」
突然のアムロの質問にブライトは黒目がちの瞳をなんなのだ、とでもいうように見開き、淀みなく返事を返した。
「俺は…十九才だが。」
違和感の正体はそれかー、とがくっとアムロが項垂れた。はぁぁ、と深い溜息をついてぽむ、とブライトの記憶より薄い両肩に手を乗せる。その後で脱力しきった声で告げた。
「俺、間違っていないなら多分今二十二才…。」
ブライトが思わず嘘だろう、と叫んだ。
「なにー?!、一体それはどういうことだアムロ?!」
「俺が聞きたい!第一俺が乗っていたアウドゥムラはここまででかい艦じゃ無かったし、なによりなんで宇宙航行中なんだ?!」
矢継ぎ早の質問に答えられるはずもないブライトが腹立たしげに怒鳴り返す。
「俺に聞くな!俺だってさっきまでホワイトベースに乗っていたと思っていたのに…。」
その答えにアムロが首を傾げた。
「…アーガマじゃなくて?」
「なんだ、それは?」
苛立たしげにブライトが叫んだ。その声の尖った様子にああそうそう、ブライトってそもそもはこういう奴だったっけ、とアムロの方が妙に落ち着いてしまう。
何となくの状況は見えてきた。…此処が何処かということだけは未だもって分からないが。
取りあえず此処はカラバの艦ではなさそうだが、ブライトが居るからには連邦軍所属であることは間違いないだろう。
…最も、本当はアムロが部屋を飛び出したときに反対方向に走っていたら直ぐ隣室にもう一人知人の表札を見つけられたのだが。
取りあえず、アムロはこの艦の機関部へ向かおうと考えた。煮詰まってカリカリしているブライトを余り抱えたままで居たくないと言うのも理由の一つである。
肩から吊したホルスターには抜かりなく部屋を捜索して発見した拳銃を仕込んである。何かあったらアムロ一人だけなら白兵戦でもなんでもして逃げ切ることは出来るだろうが、ブライトの射撃の腕前はどうなのだろうか。…小型艇の一つか、あわよくばモビルスーツの一機でも手に入ればアムロは自分が負ける気はしなかった。
目の前のブライトには今のこんなに軍人らしい俺は想像も出来ないだろうな、と気付かれないように苦笑する。
案の定アムロの様子には気付かず、ブライトが眉間に深い皺を刻んで溜息をついた。
「全く…一体何だって言うんだ今度は?!ジオンのザクが攻めてきてホワイトベースの艦長代理をさせられたと思っていたら直ぐにこれだ…。そうだ、アムロ。此処は本当に俺の部屋なのか?」
「表札はそうだったけど、なんで?」
「いや…階級が余りに……。」
言われてアムロはしげしげとブライトの軍服を眺めた。ブライトが着ている連邦の軍服自体には其程デザインの変更もないので違和感はないのだが、彼自身はそうでもないらしい。
物凄く着心地悪そうだよな、ともそもそと軍服をいじるブライトをアムロは冷静に観察する。そんなブライトの動揺の理由はすぐに知れた。
「階級章が大佐のものしかないんだ…。流石に佐官の襟章を付けていつまでも居られるほど俺は図太くなくてな。アムロ、お前は?」
言われて、アムロもそういえばと羽織った軍服の階級章を見る。
「…大尉。」
ブライトが愕然とした表情になった。
「嘘だろう、ただの民間人だったお前がか?!」
その言い草にむかっとしてアムロが叫び返す。
「俺に聞くなよ!!」
―――ああ、やっぱりこのブライトは俺苦手かも。
久々炸裂のブライト節に、今や自分の方が年上とは言え七年前の少年時代の恨み辛みが脳裏に吹き出し、なんだか早くもウンザリしてきたアムロであった。
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同じ頃。
同じ士官用フロアの別の一室、つまりアムロが飛び出して走った逆方向の彼の隣室の入り口で、アナベル・ガトー少佐は硬直していた。
もう一度表札を確かめると、其処には『Quattro BAJEENA』の文字が確かに刻み込まれている。
改めて視線を部屋の中に戻した。
自分は確かにシャア・アズナブル大佐の部屋に来たはずなのに、その部屋の中には明らかにシャアでもクワトロでもない人物が一人だけ。
信じられない思いを抑えながら掠れる声で部屋の中央で椅子に腰掛けている相手に呼びかけた。
「シャア…大佐?あなたはもしやシャア・アズナブル大佐なのではありませんか…?」
インターフォンを鳴らしたガトーに応えて鍵を自動で開けた後も、一人静かに読み物をしていた少年は頭を上げて首を傾げる。
部屋の主の服はどれもこれも大きすぎたらしく、辛うじてどこからか引っ張り出してきたシャツを盛大に袖を折り返して着ている様は、普通なら下手をすればストリートチルドレンか何かのように見えてもおかしくないのだが。
しかし、ガトーの方を振り向いた少年の全身から出る覇気と眼孔の強さはその全てをうち消して余りあるものであった。
返答の声は鋭く、短い。
「…一体誰の話をしている?」
「いや…貴方の事、なのですが。」
「私の?」
言いながら少年は手に持っていたファイルをぱたんと畳んで振り返り、ガトーの纏うジオンの軍服を見て微かに表情を変えた。
「君は、ジオンの軍人か。」
「はい。」
次いで少年はちらりとガトーの襟章に視線を送る。
「私の顔には見覚えがないのだな、少佐。……まぁ、分かった。」
椅子から静かに降りてガトーの前に立ち、凛とした態度で淀みなく姓名を告げる。
「…余は『キャスバル・レム・ダイクン』である。…君がジオン兵であると思うからこそ身分を明かそう。」
ガトーには落雷に打たれたほどの衝撃の瞬間であった。
「キャスバ…!!!」
ガトーは絶句し、口の中だけで短く"Your Royal Highness,"と呟き。
次の瞬間膝を屈して己の絶対的な主人筋に当たる少年に無条件に膝を突いていた。
「…失礼しました、キャスバル殿下であらせられましたか。小官はアナベル・ガトー少佐。階級はジオン軍少佐であります。」
少年が手で身体を起こせ、という身振りをする。
「そうだ。アナベル・ガトー少佐と言ったな。この船はジオンの船か?」
「いいえ、違います。」
「では、もしや地球連邦軍籍…でもなさそうだな。ならば貴君がそのような出で立ちで自由に歩き回っているとは思えない。」
利発な方だ、とガトーは微笑んだ。
状況は全く理解できないが、ガトーのジオン軍人としての本能が眼前の人間は確かに己の主だと告げている。彼にはそれで膝を折るには十分すぎる理由になった。深くは考えるまい。
「話せば長くなりますが…お聞きになりますか。」
「許す、話たまえ。聞こう。」
座りたまえ、私の部屋ではなさそうだがと椅子を勧められ、ガトーは結構です、と断りながら口を開いた。
全くもって此程も信じられない状況だが、目の前の少年なら何か自分で結論を導き出すことが出来るだろう。
「殿下、実は……。」
キャスバルは澄んだ青い瞳を瞬かせることもなく、冷静にガトーの話に耳を傾け始めた。
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+++To be Continued.
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