海の王国
-The indefinables of great Happiness-

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 ※世界はSRW設定です。



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もしもあなたと逢えずにいたら
わたしは何をしてたでしょうか
平凡だけど誰かを愛し
普通の暮らししてたでしょうか


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+I+


「…何を一服盛るって?」

 嬉しそうな相棒を止める気にならなかったことを後から多大に後悔したジュドー・アーシタであった。
 説明を聞いて自分もちょっと楽しそうだな、と思ってしまったのだからあまり文句も言えないが。

 とにかく、作戦は予定通りに決行される運びになったのであった。


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「カミーユ君、君がお茶くみ坊主をしてくれるとは珍しいな。」

 クワトロが苦笑混じりに言いながらカップに手を伸ばす。カミーユが珍しく優しい微笑みを浮かべながら大尉はエスプレッソでしたよね、と続けた。
「ああ、そうだ。…良く覚えていたな。」
「ええ、…どうぞ。」
 いつもなら『大尉の腹の中身みたいに真っ黒で濃ゆいコーヒーですよね。』位は言うのにな、と思いながらも相手が不機嫌でないなら年嵩のクワトロにわざわざカミーユに突っかかる理由はない。大人しくデミタスカップを受け取り、自分の前に置く。

 続いてカミーユはトレイを片手にブリーフィングルームの中を巡回していく。会議の際のお茶くみ当番は普段は持ち回り制になっているのだが、今日に限って今まで一度も素直に引き受けたことのないカミーユが酷く上機嫌で茶坊主を担当したのだ。
 クワトロ以上に「黙ってさえいれば」という形容詞の付くことの多い整った容貌に花のような笑顔を張り付けながらトレイを持ってテーブルの間を巡回する。

「はい、アムロさんはアメリカンで、ブライト艦長は…今はミルク多めのカフェ・オ・レですよね、確か。」
 それぞれの飲み物を受け取りながらアムロとブライトがカミーユに礼を言う。感心したようにアムロが続けた。
「カミーユ、全部の飲み物の好み覚えてるの?」
「ええ、まぁ。」
「凄いねぇ。」

 言いながらブラックのままコーヒーに口をつけるアムロの隣でブライトがわざとらしく溜息をつく。
「全く、俺もブラックに戻したいんだがな。」
 カミーユが苦笑した。ブライトは確か今刺激物にドクターストップが掛かっているはずだ。
「艦長は胃、荒らしすぎですよ。」
「そうだよブライト。ちょっと食べ物とか考えたら?」

 尻馬に乗っかるアムロを今度こそブライトが睨んだ。
「ああ、こないだ医者に行ったらストレスだと言われたんだがな、アムロ。」
「なんで俺を見るのさ……。」

 放っておくとエンドレスで続きかねない他愛ない言い合いをそこでところで艦長、今日の編成シフトだが、とクワトロが止め、ようやく本日の会議が始まる。

 しかし。

 それぞれの飲み物に口を付ける艦長とエースパイロットを見るカミーユの瞳が、一瞬だけキラーンと妖しく光ったのを知るものは誰もいなかった。


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「んー、相変わらずなかなか決まらないよな物事って。」

 書類の入ったアナログなファイルケースを持ったまま、アムロがうーん、と伸びをする。隣を歩くクワトロは苦笑を浮かべながらシフト管理総責任者を労った。
「まぁ。大人数の人間が一つ所に集っている以上或る程度は仕方のない事だろう。幸いにというべきか困ったことにと言うべきか、個性的な人間ばかりが揃っているようではあるし、な。」
 ぽん、と軽く背中を叩かれてアムロが笑った。まぁ、口答えの一つもない様ではそれはそれで先が思いやられるが。

「そうだよねぇ。でも俺達がさ、あの位の年のときってもっと素直で従順じゃなかったか?」
「…………。」

 思わず虚像の自分にとっての十五歳当時のアムロ・レイファーストインパクトとブライトからその後伝え聞いたワイルドキャットな実像の両方が頭を過ぎったクワトロだったが、賢明にもスクリーングラスで瞳の動揺を隠しながら返事をする。

「そうだな。少なくとも、大人という存在にはそれなりに敬意を払っていた…かな。」

 あの元気だけが取り柄の坊や達と違ってね、と。
 これまた今は亡きギレンやキシリア当たりが聞いたら青筋を立ててツッコミを入れそうな台詞を臆面もなく言ってのけながら、シャアが微笑んだ。

「なんにしても、若いというのは良い。」
「おや、年寄りみたいなこと言うじゃないか。」

 アムロが揶揄するように返し、促すように軽くその肩を叩く。

「ま、とりあえずお疲れさま。今日はもう上がりなんだろう?あなたは。」
「ああ、君は?」
「俺はまだまだ…先は長いなぁ、って感じ。」
 遠い目をしながら肩をすくめるアムロにクワトロが軽く笑い声を上げた。
「保父業も楽ではないな。」
「うん。教職免許ってさ、絶対士官学校の単位に加えるべきだと思わない?」
 戯けたようなからかいの言葉をさらりと返されて、クワトロは思わず指を伸ばして手袋越しにアムロの頬に触れる。流石に、アムロが少し動揺した。

「…なに。」
「では、終わってまだ体力があるようなら私の部屋の方に来て貰いたいな。」
 長いこと二人きりで会っても居ないだろう?と微かに糖分を含み始めた視線で促され、アムロが顔を顰めた。

 本気なのか冗談なのか、最近クワトロからのこの手の誘いが増えた。
 『二人きりで会う』といっても会って茶でも飲みながら他愛ない話をしたりするだけだし、女との逢瀬のように言われるのは釈然としないのだが。
 なのでアムロも敢えてつれない返答を返す。
「絶っっ対、行かねー。終わったらくたばってるに違いないし。」

 クワトロが首を振る。
「つれないな。」
「どっちが。」
 そこでアムロも思わず笑い出した。

 元々、過去の確執をようやっと乗り越えて、お互いの部屋を頻繁に行き来するような仲になった所である。
 知ってみると他人に余り干渉する質ではない程良いクワトロとの関係…恐らくもういい加減照れを克服して『友人関係』とか『友情』とかいう言葉を当てはめても良いのだろうが、その距離感はアムロにとって頗る心地よいものであった。
 思った以上に、というかいつの間にやら「一番近い他人」にさえなっている目の前の金髪の男と、階級も職務が似通っている事もあってここの所アムロは殆どずっとクワトロべったりなのだが。

…アムロさん後から来て狡いです、とこの間ついにカミーユに突っ込まれてしまった。見かけの派手さと不遜な態度に反して意外に人気者で頼りにされている競争倍率高めのクワトロ・バジーナ氏である。

「それではまぁ、君が来てくれることを楽しみに私は休むよ。」
「待ちぼうけって言葉、その自信過剰なあなたの脳内の辞書に単語登録した方がいいと思う。」

 無論、本気の誘いではないだろうが。なんせ自分もクワトロも長いことちゃんとした休みは取れていない。暇さえあれば少しでも睡眠時間を取り返すべく寝たいだろう。
 帰ってきたら俺のベッドにこいつが寝てたらどうしよう、まぁいいかそれなら俺がこいつの部屋行けばいいし、などとちゃっかり相手の部屋の合い鍵まで手に入れているアムロが考えている内に、彼等は目的地である食堂に着いてしまった。

 先に中に入っていこうとしながらクワトロが改めて声をかける。

「アムロ、部屋には来てくれなくても夕食くらいは付き合ってくれるだろう?」

 無論、アムロの方に異存はなかった。微笑んでその後に続く。
「今夜は何にしようかなぁ…。」
「とはいえ代わり映えはしないがね。…作って置いて貰っていてなんだが。」
 珍しく小さくぼやくクワトロが華麗とも言える育ちの関係上なのだろう、相当味に煩いのは結構以前から気付いていることである。殆ど表に出さないし出されたものは文句一つ言わずに綺麗に平らげるので殆どの人間が知らないことではあるが。

 ちなみにアムロが何で気付いたかというと例の如くクワトロの部屋でだらけていてなんと無しに見ていた地球圏のグルメ番組に横からこちらも珍しく暇とアムロを持て余していたらしい彼が読書中の分厚い本から顔を上げて手厳しい批評を加えたからである。

 アムロが悪戯めかして微笑んだ。

「…そこまで言うなら今度俺にも一回あなたの手料理ご馳走してよ。」
「うん?…まぁ、次の休暇にでもな。」
 以前じゃああなたは作れるのか、と聞いたら恐らくそこらの料理人よりは、と返された。謙遜という単語を知らないクワトロだが、自分を殊更飾ることもしないので聞いて以来クワトロの手料理はアムロの密やかな野望の一つである。
 それに。
「やった。…俺、嫌いなのはピーマンとグリーンピースと納豆と鶏皮と脂身とカボチャと後えーっと。」
「子供かね、君は…というかなんだその好き嫌いの数は。偏食児童か、アムロ・レイ大尉?」

 流石に呆れた口調になるクワトロがわざとらしくアムロの手にしたトレイの上に赤ピーマンの入った料理を置く。

「あっ!あなた何してくれるのさ。」
「食べたまえ。大きくなれないぞ。」
「……うるせぇよ。どうせ成長期は終わったよ…。」
 しおしおと項垂れる男性にしては小柄なアムロに、平均身長よりは大柄なクワトロがニヤリと優越感に満ちた微笑みを浮かべる。

 その後で、口調だけは気遣うようにアムロに向かって言った。
「なに、人間諦めないことが肝心だぞ。縦には成長しなくてもまだ横に伸びるという可能性が君には残されている。」
「おい。…"デブになる"っていうだけじゃないかそれっ!!」
「以外に鋭いな。結構。ま、気持ちの持ちよう一つだな。」
「ふざけんなっ!!」

 手にトレイと料理の皿を持ったままじゃれるように揉めている紅白二大エースの隣を微笑ましく見つめながら幾人かの女性クルーが通り過ぎていく。ラー・カイラムの中の女性陣には最近密かに「目の保養」扱いされていることは流石のニュータイプ二人組も与り知る所ではない。

 ピーマン入りの料理をクワトロのトレイの上に押し戻しながら、アムロがそういえば、と思い出したように金髪の男を振り仰ぐ。

「ていうかこの戦役終わったらさ、例のなんとかっていうスペインの世界一美味しいとか言う店連れて行ってくれるっていう約束、覚えてるよな?」

 そのアムロの言葉に思わずスクリーングラス越しにクワトロがしげしげとアムロを眺めた。居心地が悪くなったアムロが僅かに眉を顰める。

「…なんだよ。」
「いや。いつの時代も約束、というものは良いものだと思って。分かった、必ず連れて行ってやろう。」

 君が偏食さえ直してくれたらな。最後にきっちりと付け加えられた嫌味に、返答代わりにアムロがごつんとトレイの角でクワトロの肘に攻撃する。



 他愛ない未来への提案が幾つも積み重なっていって。

 全てが叶うことはないと承知していても、幾つかでも実現すればと彼等は沢山の約束をした。

 こうしていつもと同じように彼等の上には時間が流れていった…筈だった。


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 ラー・カイラムとロンド・ベルを震撼させるあの事件が起こる、それは前夜の出来事であった。






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+++To be Continued.

 

 

なんていうか、とことん青砥屋茶寮リミテッド縁起物の人生に付き合う気になったらしいです。(笑)
まだアムロもシャアもお互いのことをどう思っているかにも気付いているのか居ないのか怪しい頃の話です。
普通に男の子(子?)同士で仲がいい、というのを書くのも…結構、いやかなり好きなので(笑)

というか。テーマソングが確実にテレサ・テンだというのもどうなんでしょう、この二人…(笑)
「時の流れに身を任せ」です(爆)。
サブタイトルは「あんまりはっきりしないけど多分すごく幸福」くらいの意味の…つもり。

 

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