例えば君が知らない
-You Oughta Know?-

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 起きると、ベッドの下に脱ぎ散らされた服の中から綺麗に一部部品が消えていた。

 まったく、と溜息をついて隣で丸まっている人影を小突く。

「こら、起きろ」

 返事はない。仕方なく上体を起こしてその人影を腕で囲い込むようにして、真上から囁いた。
「おーい、起きろってば。襲うよ?」
「君になど襲われるものか」
 くぐもった声がシーツの中から響いてくる。
「わかんないよ、このまんま上に乗っちゃえば押さえ込めるかも。俺一応軍人さんだし」
「返り討ちだよ」
 くすくす笑い続ける男の鳩尾めがけてどん、と乗ってやると、分かった起きる、と言いながらシーツの中から輝く金髪が姿を現した。青い瞳が悪戯めかした輝きを含んでアムロを見上げてくる。

「で、何かね」
「何かね、じゃないだろう」

 シャアの上に乗ったままで、むっとした顔で聞く。

「出せ」
「君に最後まで搾り取られたからもう無理だ」
「そんなことはっ、……聞いてないっ!!」

 朝からナチュラルにセクハラ発言かますんじゃねぇ、と腹の上で今にも全体重をかけてバウンドしそうな青年に、流石にシャアも分かった分かった、と降参の手を挙げる。

「どれを」
「どれって、一つじゃないのかよ…。じゃ、とりあえず、靴!!」

 言いながらベッドの下を指差す。そこには昨夜脱ぎ捨てたアムロの靴が、所在なげに片方だけ転がっている。

「ったく、疲れてるからって先に寝たと思ってたのに、いつの間にこんな悪戯仕掛ける余裕あったんだ」
「君が余裕を無くしてる時に」

 言った後、アムロの凍り付くような非難の視線を浴びて分かった白状する、と笑う。

「正確には、君がシャワーを浴びている隙、だな」
「ろくな事しないよな、本当に」

 後ナニが消えてるんだ、と床に落ちた服を視線でチェックするアムロの腰に手を伸ばしながら、シャアが下から囁く。

「ガラスの靴を隠しておかないと、朝起きたときに消えているのは淋しいじゃないか、シンデレラ」
「靴のかたっぽくらいで俺は止められないよ、残念ながら」
 部屋隣だしね、と肩をすくめるアムロに、腰に回した腕にゆるゆる力を込めて引き寄せながら、シャアは苦笑する。
「次は羽衣ごと隠さねば駄目かね?」
「あなたのを借りてくだけだな」
 そんなもんじゃまだまだ俺を留めることは出来ないよ、どうする?と両腕を顔の脇について覗きこまれ、シャアはつい笑いだした。

「降参だ。靴はベッドの下に、シャツはクローゼットの中に隠してあるよ」

 その言葉を聞いて安心半分呆れ半分の顔で、アムロがそのままシャアの上に屈み込んで口付ける。

「それじゃあ、また逢う日まで」
「暫く逢えないような口振りだな」
「あなたが俺に、じゃなくて俺があなたに、の間違いでしょう、今夜にはネオ・ジオンにお帰りになられる癖に、総帥?」

 僅かに口調が拗ねたものに変わり、ぐしゃぐしゃと緩く波打った黄金の髪の毛が掻き混ぜられる。
 それも確かにそうだ、とされるがままになっていたシャアだが、やがてアムロの背中に回していた腕を引き寄せて、身体の上のアムロを胸の中に抱き寄せた。

「……アムロ」
「一緒に来い、とかいう口説きは聞かないよ」
「知っている」

 残念なことに、と苦く微笑みながら、アムロの耳元に甘い囁きを落とす。

「だが、せめて二人で何処かに行きたいな」
「お休みが合えばね」
「合わせよう」
「ブライトが泣くぞ」
「ブライトが休暇申請するときに我々が泣けばあいこだろう」
「それはいつになるんだ、比重偏ってるぞ、ってお小言貰いそうだなぁ」

 一瞬シャアの抱き寄せる動きに身体を固くしたものの、直ぐに緊張を解いて頭を預けたアムロがそのままの姿勢でくすくすと低く笑う。

「でも、行くならどこに行きたい?」

 言ってみな、と回答を促す琥珀色の瞳に、そうだなぁとシャアが考える振りをする。

「とりあえずは…」
「とりあえずは?」

 オウム返しに繰り返しながら更に先を問うと、男はニヤリと笑ってアムロの背中に手の平を怪しく這わせた。

「天国、などどうだろう」

 その言葉と行動に、さっとアムロの面が紅く染まる。

「…っ、さっき帰ってきたばっかりじゃないか!却下!!」

 そんなお手軽に行ける場所は候補地に入れません、とじたばた騒ぐアムロに、シャアが君の天国は手近なところにあるようだな、とくすくす笑いながら応じるのだった。

「気に入らないか」
「異議ありだよ。候補地の再考を提案します」
「異議を却下します」
「待て、あなたが裁判長なのか?!」

 そりゃ無いだろう、とまた鳩尾の上で跳ねられそうになったシャアが分かった、待ちたまえよと青年を制する。

「では、経由地ならば希望を聞いてもいい。最終目的地は譲れないが」
「譲れよ、そこを…」

 アムロは小さい声でぼやいたが、直ぐに何かを思いついたように顔を寄せてシャアの耳元で小さく何か囁いた。
 シャアの白皙の顔にほんの一瞬朱が走り、直ぐさまそれを恥じたようにさっと口元を手の平で隠す。

「あっれ、どうしたの?何処かに行く計画、立てないの?」
「……うるさいな」


 ガラスの靴が片方無くても羽衣が隠されていても、一番タイトに俺をここに縛り付けるあなたが居る限り何処にも行けやしないってこと、あなたは分かってるんだろうね?


 笑い続けながらアムロは床の上から片方だけしか目の届くところにはない靴を拾い上げ、シャアの目の前に差し出す。

「それで、履かせてくれるのかな、王子様?」

 答える代わりに、シャアは悔しげにその靴を引ったくって再び床の上に投げ捨てると、噛み付くようにキスを重ねた。






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+++END

 

 

甘いのを書こうと言うことでリハビリです。
理系二十題に入れるつもりで、お題に合致しなかったので普通に公開。
シンデレラの方が上位なのが萌えます(笑)

 

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