Sealed With A Loving Kiss

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 旧地球世紀でバレンタインデーなどと呼ばれていたイベントが近付いてきて、ネオ・ジオンの内部でも恋人に、或いは家族に送る品物選びで、何となく浮かれたようなお祭りムードが漂い始めていた。

 そんな中、この手の軽薄な(と、自分では信じている。決して負け惜しみなどではない!)イベントとは縁のない(むしろ興味がない、と言ってくれ)ギュネイ・ガスは、当日の朝、いきなり鳴った携帯電話のメール着信音で目を覚ました。目を擦りながらメールボックスを開けると、”jst had 2 snd a specL frNd, a wsh 4 luv & :-D.xoxoxo<3”となかなか解読不可能な文字が入っていて、ギュネイは正直目を白黒させた。

「…なんだ、これは」

 送信者を見るとクェスの名前になっていて、なんのイタズラメールだと思いながら、じっくり眺めて、ああ、と呟く。そういえば、アムロやカミーユが、クェスからのメールは若い女の子らしすぎて時々着いていけないと零していた気がする。ギュネイ自身は殆どメールを使うことがないため、特にそんな風に感じたこともなかったが。

 とりあえず寝ぼけたままで”me too”とだけ打って、この辺なら無難だろうと勝手に決め込むと、再び布団の中に潜り込んで、次は携帯電話の着信音で起き上がることになった。

「なんですか、こんな朝早くから」
『ギュネイ、お前さっき、クェスからのバレンタインデーのメッセージに適当な返事送っただろ。誠意がないって怒りのメールが俺の所まで回ってきたぞ?』
「ドクター・ビダンでしたか…」

 やっと覚醒してきた意識で電話の相手の名前を呼ぶと、カミーユは、お前分かってなかったのか?と呆れたように言った。

「メッセージっていいますけどね、なんか暗号みたいなメールなんですよ、読めませんよ!」
『もしも俺の所に来たのと同じなら、”Just had to send a special friend, a wish for love and laughter. ”…だと思うぞ』
「ええ?」

 ギュネイは通話をしたままで携帯電話を操作してメール画面を出し、クェスからのメッセージを見る。

「…そう言われりゃ、読めないこともないんじゃないかと思いますけど、いきなりじゃ分かりませんよ、そんなの!」
『お前、最近の若者の癖に順応力ないな』
「…用がそれだけなら、切りますよ」

 些かムッとしながらギュネイが言うと、カミーユは笑いながら、短気を起こすなよ、と言った。

『今日、この時間に家にいるってことは、非番か?』
「バレンタインデーですよ、総帥閣下が俺をご自宅に近付けるとお思いですか?」
『違いない。じゃあ、…ちょっと会えないかな、用事があるんだけど』

 カミーユにしては歯切れの悪い声でここまで言われても、いまいちその『用事』にピンと来ていないギュネイは、今からですか、とやや面倒くさげな声をあげた。

「せめて昼からじゃ駄目ですか、ここの所、総帥の御公務がそれこそ殺人スケジュールで、もう暫く寝たいんで」

 軍人である野生の本能が訴えかける体力回復の欲求に逆らえないまま小さな欠伸を混ぜて言えば、電話口の向こうでは僅かな溜息を織り交ぜた声が、分かった、でも昼からだと俺もいつ呼び出されるか分からないけど、と言った。

『俺とお前の距離は、”Too close to comfort”って感じなんだろうな』
「…え?なんて言ったんですか?」
『いや、なんにも。お休み』

 通話を切る間際にカミーユが呟いた独り言めいた言葉の意味を考える間もなく、ギュネイは今度こそ再び眠りの泉の中に引き込まれていった。





 昼過ぎに、ランチの時間はもう終わるぞ、と散々嫌味を言われながら待ち合わせたレストランで、ところで、とギュネイはカミーユに切り出した。

「ドクター・ビダン、朝起きたらメールが届いていましたが、”3 8 1”とはどういう意味ですか?」
「さぁ知らないよ、誰かに聞けばいいじゃないか」
「ドクター・ビダンまでイタズラメールですか?」
「指でも滑ったのかな」

 どことなく機嫌の悪いカミーユに、職場でなにか嫌なことでもあったのだろうかと見当外れに首を傾げつつ、ギュネイは旺盛な食欲を発揮して運ばれてきた食事を片付けたところ、ここは奢りだから、と言われて、余計に目を丸くすることになった。

「しかし、ドクターに奢っていただく理由が自分にはありませんが」
「…天然で言ってるんだからタチが悪いよな」

 ホントに割が合わないっていうかなんていうか、とぼやきながらギュネイが財布を取り出す前に支払いを済ませ、先に店を出ていくカミーユの後を、慌ててギュネイが追い掛ける。
 白衣を着ていない私服姿は青い髪の青年を殊更幼く見せ、一瞬自分と同い年かと疑うばかりの先をすたすた歩いていく青年に着いて同じ速度で歩きながら、ギュネイはもう一度声をかけた。

「ドクター・ビダン?それじゃ、自分が困ります。せめて半分払わせてください」
「そういうときは、今度は奢るからお茶でも飲みに行こう、って言うんだよ」

 途端に不機嫌に背中越しに言われて、ギュネイはじゃあ、お茶でも飲みに行きましょうか、とカミーユの言葉を忠実に復唱した。

「でも、俺、お茶を飲みに行く店なんて知らないな…」

 総帥やアムロ大尉のお供で行ったことがある店は、と真剣に立ち止まって考えこむと、遂にカミーユが焦れたように振り返って、深青の眼差しでギュネイの漆黒の瞳を睨み付けた。

「もう黙れよ、お前のその口、無駄が多すぎだ」

 言いながら伸びてきた細くて優雅な指先に、口唇の上をなぞりながら”SWALK”と描かれ、ついでに路上にも関わらずそれを実行されて、黒髪の青年は目を白黒させながら、綺麗に沈黙する羽目になった。





 後日、ネオ・ジオン総帥シャア・アズナブルは、部下の躾がなっていないと主治医の青年はおろか、その青年に泣きつかれたらしい自身の恋人や、果ては噂を聞きつけたクェスにまで責められて、私が一体何をしたというのだね、と目を白黒させながら、取り敢えずギュネイから聞かれた、謎の携帯メール暗号を解く仕事に取りかかる羽目になったのだった。



《3 8 1 -- Three words, eight letters, one meaning ......dat iz 2 sA, "I Love You!"》






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+++END

 

 

2006年バレンタイン話、最後はギュネカミ。
作中に出てくる英語のキーワード、これで最初のロンハーに続くのです(笑)
えー。鈍いというか、駄犬というか、分かってないというか・・・(笑)
二、三発修正しても良いと思います。総帥を。(そっちか)
天然系ボケ王子と、苛立って遂に自分で引っ張り回すツンデレ姫を書くのは得意です(ロンハー書きの血が騒ぐらしい:笑)
ちなみに、こういう携帯省略言語に訳してくれるサイトがあるんです(笑)
ttp://www.transl8it.com/cgi-win/index.pl
ついつい、本来の目的忘れて散々遊んでしまいましたよ(笑)
ちなみに「<3 」はハート(横向き)だそうです。わかるか!(笑)

Happy Valentine!!

 

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