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13:耳まで侵して
本当にありがとう、と陣中見舞いを差し入れながらスメラギ・李・ノリエガは旧友に向かって手を合わせた。
「やっぱり、ELSとの戦闘のダメージが大きくて……」
「いや、こっちもさ、随分人員もモビルスーツも少なくなっちゃったし、連邦軍が、とかソレスタルビーイングがとか言ってる場合じゃないって。君たちに力を貸すのは当然だよ」
眼鏡を掛けた榛色の長髪の男……ビリー・カタギリは笑いながら手を振る。
「でも、あなた今かなり出世もしてるって聞いたし……」
「水くさいなあ、ガンダムをいじくれるなんて面白そうな仕事、僕以外誰が来るってのさ」
それにね、とビリーは付け加えた。
「僕の担当のエースパイロット君は、まだまだひっどい怪我で療養中だから、我が儘も無理も言われないし、結構暇なんだよね、僕」
当のエースパイロットが聞けば怒りそうなことを言いながらビリーはソレスタルビーイングの数ある基地の一つに作られたモビルスーツの格納庫で、イアンを捕まえて子供のように質問をしながら目を輝かせていた。
そこに、自分の機体の補修状況を見に来たマイスター達が姿を見せる。
「イアンさん、ハルートはどんな感じですか?」
真っ先に姿を現したのはアレルヤだった。後ろに、マリーと、スメラギに報告があったらしいフェルトとミレイナも続いてくる。
「おう、助っ人部隊が到着したからな、思ってるよりずっと早く直ると思うぞ!」
「そうそう、大船に……って、おや」
アロウズとの戦いの時に顔を合わせたメンバー達はビリーの顔を覚えていて、こんにちは、と挨拶をされるのに、ビリーもにこやかに返事を返す。
「そっかぁ、君が羽根付きガンダムのパイロット君なのか、若いねえ」
「いえ……」
そんなことは、と言いかけるアレルヤの後ろから、端末で書類を見ながらライルも格納庫にやってくる。
「サバーニャの火器は流石に全部いっぺんに、ってわけにゃいかねえだろうなぁ、おやっさん……おっと」
こちら、今回連邦軍から来たっていう助っ人さん? とビリーを見かけたライルが聞く前に、ビリーが眼鏡の奥の瞳をまん丸にして口を開いた。
「あれぇ? ニール君じゃない」
ぴしり、とその場の空気が凍り付いたが、ビリーは気付かなかったようだった。
「えっ、どうしたの? どうしてここにいるの? 僕、君は今回来るメンバーに名前見てなかったよ? 病院であいつについてなくてよかったの?」
「……ええと」
今二つ三つビリーの言っていることの意味が分からなかったライルは困ったような顔をして、久々にこのごろでは忘れかけていた、言い飽きた台詞を口にした。
「それは、多分兄さんです」
「……へ?」
分かっていないような顔をするビリーに、兄さんの奴、なんで連邦軍の技術者に知り合いが、と内心で思いつつもライルは続ける。
「ニール・ディランディは俺の双子の兄貴です。……」
「えっ! うわ、ごめん、ああ、そういや、前にそんなこと聞いたねえ!」
そうかそうか、君が噂の弟さんか、と言うビリーに向かい、ライルはそんで、と続けた。
「兄さんはもう、……死んでると思うんですけど……」
話は早いほうが良いだろう。一体どうして未だに間違われたのか、まあ、何年も会わなければそういう事もあるか、とそんな風に思いながらライルは言ったのだが。
「えええっ!?」
今度は、ビリーの方が固まる番だった。愕然とした顔のまま、ポケットから携帯端末を取りだして急いで電話をかける。
「あっ、出た! あ、あのねニール君、落ち着いて答えてくれる? 君いつ死んじゃったのさ!?」
電話口の向こうの相手はいきなりの電話に何かを言っているようだったが、ビリーは碌に聞いていないようだった。
「どこに居るって……ソレスタルビーイングの基地だよ! 今君の弟さんに会って! 死んだって聞いて! なんで死んだなら死んだって僕にも教えてくれなかったのさ水臭い!! ……えっ? いや、だからね、ここにいるニール君の弟さんから、ニール君が死んだって聞いて! そうだよ! へ? だったら自分も涅槃に居るのかってグラハムが聞いてる? ああ、あいつの事だから追いかけて行きかねないよねえ……惜しいパイロットを亡くしたもんだよ……良い奴だったのに……」
言っている内容がめちゃくちゃだ、というか、呆然とする仲間達の中で、一人だけ我に返ったアレルヤが尋ねた。
「あの、ロックオンが……ニール・ディランディが死んだのは、七年も前のことですよ? その、その電話、誰と喋ってるんですか?」
えええっ、とビリーが益々混乱した声を上げた。慌てて受話口に向かって泣きそうな声で叫ぶ。
「ニール君、七年も前に死んじゃってたの!?」
これはダメだ、とこちら側のメンバーだけでなく電話口の向こうの誰かも判断したのか、ビリーが某かのことを言われ、こくこくと頷いた後で端末の通話をスピーカーに切り替えて、皆の前に突き出した。
「れ、霊界通信じゃ……ないよね」
『くどい。仮に霊界からだとしてもこうして話せているからいいではないか』
「そ、それもそうか」
いいんだ、それはいいんだ。
やっぱり理系方向に吹っ切れている頭脳の持ち主は今ひとつ一般常識の方向性が迷子、という認識を抱いたその場に居合わせたビリー以外の全員の見守る中、端末から声が流れ始める。
『カタギリが……、いや、うちの技術者が混乱を招くようなことを言ってしまって申し訳なかった。こんな形でまさか連絡が取れると思っていなかったもので、死人が酷く動揺しているので代わりに私が失礼する』
途端、被せるように誰が死人だよ、とどこかで聞いたような声が聞こえてきて、うわあこれガチだ、とアレルヤは遠い宇宙に旅立っていった刹那とティエリアを今すぐ呼び戻したくなった。
『そうだな、……十分後にもう一度、今度はこちらから通信を入れる。死人の方はそれまでに生き返らせておくので、そちらも死者に対する質問事項をとりまとめておいて欲しい』
宜しく頼む、といって切れた通信を前に、ビリーだけが何故か涙まで浮かべて、ニール君生き返るんだ、よかったねえ、と胸を撫で下ろしていたのだった。
>>>END.
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