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07:愛する程に苛めたい
にゃあ、という鳴き声に、グラハムは相好を崩した。
「ニール、ご機嫌のようだな」
ごろごろと喉が鳴る。
「……私は小動物を飼う趣味は無かったのだが、こういうことならば主義を曲げてもいい」
にゃあにゃあ、と同調するような声が上がって、グラハムは珍しく声を立てて笑う。
「君もそう思うか。……どれ、ミルクを用意してやろう。好みの温度はあるかね?」
ふみゃあ、と前足が膝の上に乗せられて、グラハムは首を傾げる。
「しかし、立ち上がるのを許して頂かねば、私は君のミルクを作ることができない」
さて、困ったな、と呟いた時、背中にずしりと重いものがのし掛かって来た。
「……おい」
「おや、どうしたんだね、大きいニール」
「なんだその大きいニールって。お前さんの膝に居るのがただのニールでこっちが大きいニールっておかしかねえか?」
おかしいだろう明らかに、と続きそうな台詞に、グラハムは小さく笑う。
「ではこちらのニールは『可愛いニール』とでもしようか」
「ぶっとばすぞテメエ。……で、どこで預かってきた、その愉快な名前の仔猫」
絶対にうちでは飼いませんからね、とでも続きそうな詰問口調に、ついグラハムは口元を緩める。
「名前は不可抗力だぞ。今朝方、お身内の不幸とかで急に出かけられた隣家のご婦人からお預かりした大切なご家族だ。ちなみに、亡くなったご主人の名前だそうだ」
「亡くなったご主人って……」
「生きていれば御年八十にはかかろうかという矍鑠たる老兵だったそうだが……やはり、君の方を若いニールとでもした方がいいか」
「……あのな、もっとこましな呼び方ねえのかよ」
はあ、と諦めたようなため息を吐いてニールがグラハムの背中から立ち上がる。
「どこへ行くのだね?」
声を掛けられて、ひらりとニールは手を振った。
「キッチン。ミルクやるんだろ? 猫の世話なんかしたことねえ癖して、よく預かるの引き受けたよな」
「一晩だけだと聞いていたし、君と同じ名前の獣が路頭に迷うのは忍びないだろう」
「へいへい。……今度俺がグラハムって名前の犬を預かって来ても文句言うなよな」
口先だけは素っ気ないものの、口調ほどは腹を立てていないことなど分かり切っているので、グラハムはその背中に声をかける。
「……だから君は可愛らしいというのだ、『私のニール』」
ばっと鳶色の髪の男が真っ赤になって振り返った。
「だっ……誰が誰のだ! 所有格つけんな!」
しかし、金髪の男は堂々と胸を張って不遜に言い放つ。
「違うぞ、所有格ではない。私のご主人様であり、支配者であるところの素晴らしいニール・ディランディの略だ」
聞いたニールの眉が益々吊り上がる。
「嘘言え! 今考えただろ、それ!」
「騙されるのも家庭円満の秘訣だぞ、そうは思わないか、ニール」
ニールはこれ以上その話題を続ける気はない、という風に顔を顰め、腰に手を当ててグラハムに言い聞かせるように口を開いた。
「いいから、その猫! 明日はちゃんと返せよ、いいな!」
「了解した」
そこで立ち去るかと思えば、早口で低い声でぶっきらぼうに言い添える。
「それと、今夜。両手にニールを抱いて寝る、なんて言いやがったらぶっ飛ばす」
「……承知した」
背後で聞こえてくる低い含み笑いが爆笑に変わる前に、ニールは怒ったような赤い顔をしたまま、キッチンに逃げ込んでしまったのだった。
>>>END.
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