Pink Disease:Forever



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「あれ?どうしたんだ、早いんだな。」

 大抵夜はアムロの部屋のデスクトップの前を占領してニュースを貪るように読んでいるキャスバルが早々にアムロがベッドメイクした(というか、バスタオルを床に敷いただけ)の寝床に入っていったので、雑誌を読んでいたアムロは驚いて声を掛けた。

「ああ、今夜はもう寝かせて貰う」
「キャスバルにしては早くないか?」

 言ったその後で、もう一つ別のことにも思い当たって問いかける。

「それに、床で寝るのか?俺のベッドじゃなくて」
「君に抱きぐるみにされているのは本来ものすごーく不本意なのだが、私としては」

 先日、仏心を出して添い寝をしてやったらば、この見た目より甘えたがりで孤独癖のある青年はキャスバルの添い寝がいたく気に入ったらしく、その後も毎晩かっ攫われるようにして半ば強制的に添い寝抱きぐるみ生活を強いられているキャスバルがとすとすと床を叩いて抗議をするが、アムロは聞いている気配もない。

「いいじゃん、冬だし、あったかいんだよなキャスバル。手頃なんだよ」
「私は湯たんぽじゃないぞ?!」
「中さ、ちょっと開けてカイロとか仕込めるようにしてもいい?」
「駄目に決まってる!人を殺す気か、アムロ君!!」

 一頻り不毛な舌戦を戦わせた後、キャスバルがはー、と深い溜息をついて、理由を口にした。

「今夜は新月だからな。」
「?」

 新月?新月ってなんかあったっけ。

 ニュームーンに会いましょうはウィンクだよな、と二十代後半に相応しい事を考えつつアムロは首を捻った。
 そのアムロを溜息をつきたいような表情で眺め、キャスバルがぼそりと呟く。

「今夜は新月だ、ということは私にかかっている魔法が弱まる、ということだ」
「それが?」
「…私は君に、魔法をかけられたあるコロニーの王子だ、と言わなかったか?」
「え?!あれ、マジだったの?!冗談かと思ってた!」
「おい!」

 憤慨したようにキャスバルが起き上がって足をぼふぼふ踏み鳴らす。

「そうじゃない、魔法が解けて人間の姿に戻ってしまうのだ!」

 アムロは、瞬間完全にフリーズした。…その後で、くにゅ?と首を傾げる。
「なんか、差し障りでも?」
「君、突然ここに、しかも眠っている君の隣に、全裸の美青年が出現したら不都合ありまくりだと思わないか?」
「いや、俺としては美青年てとこに不都合は本当にないのかツッコミ入れたいんですけど」
 ぼそぼそとぼやいた後、アムロが初めて事の重大さに思い当たる。

「え、ええ?!人間に戻る?!マジで?!」
「アムロ…私は君と出会ってすぐの時から何度同じ事を言えばいいんだ?」
 ぴきぴきと青筋(というか縫い目)を浮かび上がらせながらキャスバルが唸る。アムロが慌てて弁明を試みた。
「いや、だって、ホントにクマのぬいぐるみが人間になるなんて異常なことが起こるなんて、思っているわけが無いじゃないか!」
「それをいうならクマのぬいぐるみが喋っていること自体そもそも異常だろうが!」
「あ、ああ、そうか」
「納得するんじゃない!」
 不毛な舌戦を交わした後、、キャスバルがふう、と息を付いてとすんと座り込む。

「つまりだ。私は多分、もうじきしたら人型に変わってしまうのだよ。――それがちょっとみっともないかと思って、隠れていようかと…」
「ええ、なんで?美青年なんだろう?」

 服ないなら俺のを貸すよ、とアムロがいそいそ立ち上がる。キャスバルが首を傾げた。
「君の服が私にサイズが合うかな…」
「…縦に?横に?とか聞くぞコラ。」
「縦に決まっている。まぁでも、折角貸してくれるというなら貸して貰わないでもないが…」
 呟くと、キャスバルがはぁ、と溜息をつく。

「…――ランニングと縞のぱんつは気が滅入るなぁ…」
「悪かったな!」
「裸の大将放浪記じゃあるまいしなぁ…」
「頭から被せるぞ、パンツ!」

 このクマ!とアムロがふるふる拳を震わせる。くそう、頭からパンツ被せて間抜けな姿を嘲笑ってやる!と野望を誓うアムロを余所に、キャスバルがじゃぁそういうことだから、とぴこっと布の片手を上げた。

「というわけで、とりあえず私はここで一人で寝てしまって今夜をやり過ごそうと思う」
「そんなハンドタオル一枚でやり過ごせるか?公害振りまく気かよ?今毛布持ってきてやる」

 アムロが憎まれ口を叩きながら立ち上がって寝室に消えていく。
 程なくして、自分のベッドから剥がしてきたらしい毛布を手に帰ってきた。

「ほら」
「お心遣い感謝す…うわ?!」

 意趣返しに真上からぼふん!と毛布を被せられ、小柄なキャスバルは包まれてじたばた藻掻いた。
 ついでだから、とアムロが抑え付けるようにその上に乗しかかる。

「一反木綿じゃあるまいし、息が出来ないじゃないか!アムロ君、どけてくれたまえ!」
「って、あなた肺で呼吸してるんか・・・?精々頑張って人型に戻ってくれよー」
「な、なにを薄情な!!」
「ギブアップって言ったら離してやるけど?」
「だ、誰がっ!!」

 うがー!と抗議の悲鳴を上げながらじたばた藻掻いている毛布の下のちんまりした塊を苦もなく抑え付け、面白そうに眺めていたアムロが、その内に違和感に気付く。―――毛布の下でもぞもぞと動いているものが、少しずつ大きくなっていって―――。

「キャスバル?」

 思わず、声をかけてしまった。なんだ、と毛布の下からくぐもった声の返事が返ってくる。
 抑え付けていたはずの柔らかい物体が、段々嵩を増している気がする。

「なんか、大きくなってな―――――…」

 問いかけて、アムロはそこで綺麗に絶句して言葉を呑み込んだ。むくり、と毛布の塊が起き上がる。

「アムロ君、君ね。人が息を詰まらせたらどうするつもりだったのだ?」

 すぐ側にあったアムロの顔を覗き込み、睨みながら真っ白い肌を備えた腕が鬱陶しげに顔に落ちかかる黄金色の髪の毛を掻き上げる。
 アムロが、失語症に陥ったまま口をパクパクさせ、毛布の中から現れた人物を指差した。

「キャ、……?!…あ…、ま、マジ?」
「…アムロ君、人間の言葉で喋ってもらえないか?」

 キャスバルが眉を顰める。その後で、すっかりサイズの大きくなった自分の体を見下ろし、毛布を巻き付けたままああ、と呟いた。

「やっぱり元に戻ってしまったか」
「も、元って、元…って!!あなた、本当に人間だったのか?!」
「だからっ!初めからそう言っているじゃないか!!!」

 苛立たしげに叫び、キャスバルがボタンから輝くコバルトブルーに戻った青い瞳で床に座ったままアムロを見上げる。

「……というわけで、申し訳ないがやはり服を貸して貰えないか?」
「―――了解」

 すっかり雰囲気に飲まれつつ、アムロがこっくりと頷いた。
 ただ、視線だけは、突如降って湧いた輝く純金の髪の毛の、白皙の完璧な造形の美貌を備えた青年に釘付けになっていたが。



◇◆



「やはり小さいな」
「ほっとけ」

 アムロの持ってきたシャツとセーターに袖を通しつつキャスバルが呟き、アムロは顔を顰めた。
 丈がつんつるてんながらなんとかアムロの服を身につけ、キャスバルがさて、と改めてアムロに視線を移す。

「なにか質問があるのならば受け付けるが、アムロ君」
「……いや…」

 アムロは頭を掻いた。まだ突如出現した美青年(癪だが、アムロもそれは事実だと認めざるを得なかった)をどうしていいのやら混乱しているのが正直なところだった。
 しかしながら、話している声の調子も雰囲気もあのピンク色のクマのぬいぐるみと同じだし、彼がキャスバルで有ることだけは間違いがないようだ。

「ナンセンスだ。こんなちゃんとした人間がクマだったなんて、ナシだ……」
「だから魔法だった、と言っているだろう?心配しなくても、明日の朝にはまたクマだよ」

 どこか諦めたようにキャスバルがいい、軽く息を付く。

「その…悪かったよ。信じてなくて。元に戻れるといいな」

 もうじきクリスマスだし、と慰めるように声をかけるアムロに、キャスバルが肩をすくめる。

「ま、そうそう挫けはしないつもりだよ。今更」
「まぁ、その性格じゃ、大丈夫だな」

 言いながら、アムロがどっこいしょ、と腰を上げる。キャスバルを振り向き、その姿だったら飯食えるだろう、と続けた。

「一緒に食べないか。大したものは用意できないけど、一人でいつも食事じゃ、味気ないしさ」

 アムロの照れたような誘いに、キャスバルが微笑んで立ち上がる。無表情なぬいぐるみとは違う、生気の溢れる表情に、アムロがもう一つ息を飲んだ。

「喜んで。ああ、私がなにか作ろうか」
「できるのか?」
「あり合わせのもので良ければね」

 アムロの台所と冷蔵庫の中身は把握しているからな、という青年に、なにもなくて悪かったな、と悪態をつきながら、アムロはどこか青年を直視できない自分自身を感じていた。


 そしてその晩は、ここ暫くでは初めて、キャスバルの添い寝がお役後免になったのであった。






**********

end.

 

 

最早語るまい・・・!!ピンクのくまぐるみのキャスバルと、アムロ大尉のパラレルシリーズです。
キャスバル、初めて人間に戻りました。やったぁ!!
初めて出てきましたキャスバル兄さん、すっかりアムロの愛玩物のようです。
このあとノア家に貰われていくのに・・・(笑)
あ、これはリリカルメルヘンなので、キャスバルのぱんつについては深く考えないように。(笑)

 

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