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"昨夜は何をしてたの?"キミに突然聞かれた
"ひとりでビデオ観てたよ"ちょっとオドオド答えた
疑う目にもう涙が見えてる
"私もあそこにいたの"ヤバイ見られていたのか
"あのコはただの友達 そんな関係じゃなくて…"
焦りながら早口になってる
最初にちゃんと言えばよかった
こじれそうでへこみそうで マズイ
キミは泣いてツヨくなる嘘がバレて僕はもう
立場グッと辛くなるこんなハズじゃない
誤解なんだよく聞いてそんなつもりなかったよ
そっと肩に延ばす手を"イヤ"とはねのけられたよ
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子供の質問というのはいつも鋭い。おまけに容赦がない。
「ねぇ、大佐はアムロのどこが好きなの?」
クェスにそう聞かれ、シャアは一瞬返答に窮した。
「そうだなぁ…。」
金の髪の秀麗な顔の男は、真っ白い手袋をした手を整った顎に当てながら、ふと呟いた。
「思い当たらないな。だって……。」
その続きを、シャアに書類を渡しに来た筈のアムロはもう聞いていなかった。
突然臆病になった足はくるりと向きを変え、来た道と同じ方へ真っ直ぐに駆けだして行ってしまった。
一散に走りながら、アムロは呟いた。
そうだよな。
わかんないよな、好きになる理由なんて。
だって俺だって、シャアの好きなところなんて、顔だけしか思い浮かばないしな。
なんで一緒にいるの、なんて聞かれたら、首を傾げて分からない、って言うだろうし。
ただ、悔しいだけだ。
俺はまがりなりにもあのお綺麗な顔とか一個でも二個でも出てくるのに…。
シャアにはそれがなかった、ってことが。
ただ、それだけ。
けれど、それだけでは刺すように痛み出した左胸の鈍痛は説明がつかない気がした。
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当然だけれども、アムロに聞かれて、あまつさえ逃亡されたことに気付かないほどシャアも鈍くはなかった。
感覚の端でアムロを捉えたときには、もう言葉が口を衝いて出た後だったのだ。
誤解された、と思ったと同時に走り出していた。
後ろで何か叫ぶクェスのことはもう意識の中に残していなかった。
しかし、と前を走る青いフライトジャケットを見ながら、焦りはしつつも少しおかしく思う。
しかしだね、アムロ。クェスやハサウェイならともかく、もう三十路の大台に乗ったか乗らないかの我々二人が、こんな所でこんな風に全力で戦艦の廊下を走り抜けるなんて真似をするのはそれこそ年甲斐がないと思うのだがね。
しかも、理由は重大で些細な出来事だし。
ここできっちり捕まえて誤解を解いてご機嫌を取っておかないと、後が酷いのだ、アムロは。その位のことはもうシャアも十分以上に学習している。
ことシャアのことに関してだけは何故か思いこみも酷くて悲観的なエースパイロットにその事でどれだけ手を焼かされたことか。
本気で走れば捕まえることは容易い。
だけれど、とシャアはちらりと艦内の地図を頭に思い描いた。
ここでは、駄目だな。
僅かにスピードを緩める。次の角を右に曲がったら捕まえよう。左に曲がったら、もう暫く鬼ごっこ続行だ。
捕まえて抱き寄せて、チェックメイトと叫んだらアムロはどうするだろう。赤くなるだろうか、暴れるだろうか。
いずれにしても、アムロもシャアを待っているのだ。
その位のことは、この頃ではシャアも知っているが、アムロも分かっているだろう。
シャアが後ろから来ているコトなんて先刻承知の筈だから。
起爆剤を投げ込まれたように燃え上がる、一瞬の激情。そのまま持ち続けるには危険で、持て余して。…だけど。
説明が聞きたいから、言い訳がされたいから。
だけど感情が納得行かないから、走って逃げ続ける。
なんだ、まだまだ若いじゃないか。私も、君も。
シャアの口元が不謹慎にも僅かに吊り上がった。
未だこんな青臭いレンアイをしてどうする、シャア・アズナブルともあろうものが。
これが恋愛なのかどうなのかもシャアには実のところよく分からないが、すこぶるつきに楽しいのだけは確かだ。
アムロが怒るのは、シャア絡みの出来事だけだと言うことなど既に周囲にはバレバレだから、走る彼等をまたかという目でクルー達は見守っている。
きっと後で今度は何をやらかしたんだとシャアがブライトに怒られる羽目になるだろう。
昔、今の自分と同い年の人間はもう途方もない大人に見えたものだが。
齢だけ幾ら重ねても、分別とか理性なんて未だ殆ど身に着いていない気がする。ただ、我慢するのがちょっと上手になっただけだ。
というか、思春期の少女みたいにこんなことで全力疾走するか、あの鳶色の髪の毛の青年も。問い詰めに来れば幾らでも説明するのに。
愉快でたまらない。笑ってしまうとアムロは怒って益々頑なになってしまうだろうが。
その時、アムロが右に曲がった。
では追い掛けて捕まえようと、駆け足のスピードを上げる。
同じように角を曲がってしまえば、突き当たりはゴール…アムロの部屋だ。
中に飛び込まれても、悠々とドアのロックを解除してしまえばいい。今週のパスコードを頭に思い描きながらシャアは続いて角を曲がり。
そこで、急ブレーキを踏まされた。
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「…ア、ムロ?!」
驚愕の声、ぶつかる身体。
角を曲がった途端、向こうで待ちかまえていたらしいアムロが腕の中に飛び込んできたのを避けきれるはずもなく。たたらを踏んでシャアは急停止し、跳ね飛ばされるようにそのまま後ろに倒れ込んだ。咄嗟にアムロを胸に抱え込んで受け身を取ったのはもう脊髄反射としか言いようがない。
二人して倒れ込んだ床の上、半身を起こそうとして適わないシャアの上に馬乗りになって、アムロはぐいとその服の胸元を掴み上げた。
「いつもいつも同じパターンにはまると思うなよ!いいか、俺は言えるぞ。俺はあなたが……。あなたのその、綺麗な顔が……!」
しかしそこまでで何かの支えが挫けたらしい。肝心な言葉を言えずに俯いてしまうアムロに、シャアは助け船のつもりで口を開く。
「聞いてくれ。」
「いやだ。」
「なぜ?」
「黙れって言ってるだろう?」
「だから…。」
「先に言うな!」
「アム……。」
「今回は俺があなたに言い聞かせるんだ!」
首を振って言いながら、アムロは頬に向かって伸ばされた腕を煩げにぱしっと払いのける。
「…これは手厳しい。」
「やかましい。」
シャアは苦笑した。そして、間髪入れず素直ではない恋人に向けて先程から温めていた取って置きの言葉をぶつける。
「何故だか分からないけれどとにかく好きだというのがこの世で最高の理由だと思わないのかね、アムロ。」
それはもう感情さえ超えた領域だよ、と。嬉しそうに。
アムロが一瞬訳が分からない表情になり、次いで仄かに赤くなった。
「なっ…!」
「さっき私が言いたかったのは…そういうことだよ。」
囁いて微笑む金の髪の男に、また先を越されたと悔しく感じながら赤くなって口をパクパクさせるしかなかったアムロは。
「さ、先に言うなって言っただろう?!」
という精一杯の反論をしながら、ぎゅっと男の胸元を締め上げる。苦しいぞ、アムロ、と流石に眉根を寄せる男を見てさてこれからどうしようかと戸惑っていると。
その一瞬の迷いの隙をつかれて口付けをされてしまった。
腹が立つので噛み付いてみた。
意地の張り合いそのままのような、甘いキスが続く。
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後から一部始終が廊下の監視カメラに写っていたことが発覚してシャアが理不尽にも張り飛ばされるまでには、まだ四時間ほど時間的余裕があるようだった。
とりあえず、今回の鬼はシャアだったらしい。
三日ほど後の監視カメラには何に腹を立てたのか部屋に閉じこもるシャアの私室のドアを必死に叩いて何か言い訳するアムロの姿も見られたらしいが。
その映像はイツモノコトとしてさらりと流されてしまったため、理由は二人にしか分からないままである。
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"なんだよ信じてないの?"少し強気に出たけど
"信じられる訳ない!"ともっときっぱり言われた
逃げ出したいもうこんな部屋から
アタマの中で汗がふきだす
背中に壁追い詰められマズイ
キミは泣いてツヨくなる嘘がバレて僕はもう
立場グッと辛くなるこんなハズじゃない
いいかげんで悪いけど無実なんだ何もない
なんか重い雰囲気で夜はどこまでも過ぎる
謝ることは 認めることで
ここはひとつ どうかひとつ うまくだから…
泣くの止めて少しだけ僕の話真に受けて
今夜ふたり楽しんでこんなハズじゃない
"キミが好きさ世界一"滑ってゆくコトバでも
ホントなんだ嘘じゃないだから機嫌を直して…
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