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恋は昨日よりも美しい夕暮れ
恋は届かない悲しきテレパシー
恋は待ちきれず咲き急ぐ桜
恋は焼きついて離れない瞳
蝶々になる君のいたずらで
ただ朱くかたちなき夢を
染めていくような夕暮れ
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なんて綺麗な人なんだろうと思った。
そんなことは今までだって良く知っていたはずなのに。
もう駄目だ、と左胸の一番太い血管が悲鳴を上げた。
だって、仕方がない。
いつも颯爽としていて自信たっぷりのあなたが、そんな風に物憂げに、気怠そうに。
普段かけているでかいスクリーングラスを外して、夕映えを反射する純金のモビルスーツに背中を預けて。
心なんてどこか遠くに魂諸共置き去りにしたように、差し込む紅い光線を眺めている光景、なんて。
そんなものにデッキに入っていった瞬間にブチ当たるなんて。
想像もしないじゃないか。
驚愕に心が無防備になった瞬間に、不意打ちでその薄氷の視線がこちらを向いた。
俺に気付き、不意に其処に浮かんだ氷塊がゆるりと溶けて流れ出す。
やや身体を起こし、背に赤い日を受けて、微笑みを浮かべる。…ただ、それだけのことの筈だった。
少なくとも、彼にとっては。
受け身なんて、取る間もなかった。
心臓が針を刺された水風船みたいにぱしんと割れて、中から心がばしゃっと飛び散る。
俺だけじゃなく、あなたにもかかって、染みが広がって。
ぎらぎらの太陽光線が恨めしかった。こんなんじゃ、俺の貧相な心なんかすぐに乾いて跡形も残らなくなっちまう。
不意打ちの絶望に鼻の奥がツンと痛み、涙が出そうになった。
「どうしたんだ?」
馬鹿みたいにあなたを眺め続ける俺に向かって、不思議そうにあなたが問いかけてくる。
「……わからない。」
金の髪を煌めかせながら、あなたは顔を顰める。
「わからない?」
「うん…なんなんだろう。」
もやもやして、上手く掴めない。ニュータイプの感応の時に人と分かち合うあの感覚とも、少し違う。
もっと多分、親密で個人的な。
手に負えない。
始まってしまった、暴走は。
黙り込んでしまった俺に向かって、ふぅ、とあなたが軽く溜息をつく。
「…君は何時でも不満そうな表情をしているな。」
弾かれたように顔を上げる。相変わらず黄金に弾かれる射るような赤い光が目に滲みて痛い。
「それは、あなたが……。」
口に出してそう呟いたその瞬間、俺の心は俺にとって永遠の謎になってしまった。
―――あなたが?
「…私が?」
案の定、問い返された。
「あなたが、……悪い。」
意味なんてどうにでも好きにとりやがれ。
俺はあなたが望むものにならなんにでもなろう。
あなたにとって俺が永遠に理解できない存在であるように。
俺だって俺自身にとってはただの謎なのだ。
ただ一つだけ確かなのは。
地平線の果てに消えてゆく夕焼けの最後の赤光が。
瞳を閉じて溜息をついても瞼に浮かぶほど、俺の心の中にあなたを灼きつけてしまったということだ。
永遠のような刹那の刻に。
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恋は迷わずに飲む不幸の薬
恋はささやかな悪魔への祈り
こだまする君の囁きが
ただ朱くかたちなき夢を
染めていくような夕暮れ
武器を捨てて僕はここにいる
まぶたの内側で生きている
くすぐる風に運ばれるまま
ながめた夕暮れ
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