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>>>【Carpe diem】
やめろやめろばか、と口先だけで言いつつも、言葉ほどには強く出られないのは、流れている空気の甘さが原因だった。
椅子に座ってくつろいで居たはずが、今日の日はいつになく歩き回っていた所為で足が痛い、などとうっかり零してしまった為に、見せてみたまえ、と金髪の男が喜んで足下に跪くことになったのだ。
いい、構うなと随分抵抗したが、草臥れているのもあって、結局は靴も靴下もあっさり脱がされてしまった。
顔が赤くなる。なまじ裸を見られるよりも、余程恥ずかしい……と思うのは一般家庭でそういう躾をされてきたニールだからで、グラハムの方は全く頓着しないようだった。
(まあ、……『そういう関係』なんだから、いい、か)
なんとかそうやって自身を宥めていると、グラハムは足の裏や足の甲、足首の辺りなどを熱心に親指で揉み解し始めた。
気持ちいい、というよりは、痛い。
「痛い! ちょ、やめっ……!」
涙目で言った瞬間、足の裏をグラハムの掌が擦って、今度はくすぐったくて妙な声が出た。
「君は足が弱いのだな」
「つうか、普通、ふつーだから! 俺だけ特別じゃ、絶対ねえから!」
誰か今すぐこの男に一般家庭の恥じらいの躾というものを授けてやって欲しい。
人前で素足なんか見せるのは売笑婦だけよ、と若い娘の服装を見つつ、眉を顰めて母親が言っていたあの言葉は遠い日の幻か。
そんな普段、人前で絶対見せないようにガードしている場所を、と言いかけると、グラハムは君は、と言って笑った。
「その革手袋の下の柔らかな掌も感じやすい。……まして」
言いながら、手にしていたニールの足を持ち上げて、爪先に口付ける。
「隠し通しているその心は、どれほどのものか」
暫くの間、ニールは完全に固まってしまっていた、と思う。
それを良いことに大胆に足の甲まで這い上がってこようとする無遠慮な口唇に、やっと我に返ったニールが盛大に赤くなってまてまてステイ! と喚きだした。
「おま、大の男が簡単に他人の足下に跪くな!」
「遠慮するな、私は君の騎士だ」
「嘘言え、そんなもん叙任した覚えねえぞ!?」
「命短し恋せよ乙女、という言葉を知らないのかね、姫」
「俺は乙女じゃねえし、姫でもねえ!」
アホか、と噛み付いた後で、まあ、とニールは片足を相変わらず男に捕らえられたままで言った。
上目遣いにこちらを見上げてくる自称ニールの騎士が、どうしたのだねと首を傾げる。
「……ただし、今日の花を摘め、って諺には丸ごと賛成だな」
いつまでそんなところで座り込んでるつもりだ? と逆に捧げ持っていた筈の爪先を伸ばされて顎をくいと上げられて、金髪の男の目に、鋭い光が灯る。
「……仰せのままに」
立ち上がる前にもう一つ爪先にキスを落とし、グラハムは本体の方を抱き寄せるべく、捕らえていた足を自らの方に力強く引き寄せたのだった。
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...end.
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