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>>>【守りたいの】
あーあーあーあー、と鳶色の髪の毛の男がぼやく。
「おま……ずぶ濡れになっちまったじゃねえか!」
言いつつ、まずはびしょびしょになった革手袋を外して腰に挟む。続いて、着ていたTシャツを思い切りよく脱ぎ捨た。
水分を含んですっかり重たくなったそれをぎゅっと絞ると、ぼたぼたと水が滴った。
「てめぇ、思い切りよくぶっかけてくれて……」
ぼやくようにニールは呟き、こうなる原因を作った金髪の士官の方を振り返った。
ちなみに、ホースでの散水ごっこを止めさせようとして頭に血が上って奪い合いに参戦した結果の双方濡れ鼠であるが、そんなことは成層圏まで放り上げる。
「おい、聞いてんのか、グラハム!」
「しかし、君とて遠慮なく私のことを追い詰めてくれたではないか!」
心外だ、と反論するグラハムの方もニールと似たり寄ったりで、上半身のタンクトップを脱ぎ、更にツナギを脱ごうとしている所だった。
胸元で弾むドッグタグ、無駄な筋肉など一つも無い引き締まった体躯に、ニールは思わず顔を盛大に顰めてしまう。
(なんだよ、……いいカラダ見せつけやがって)
所謂、モデルか俳優のような綺麗な身体ではない。俊敏そうな筋肉の付き方は、むしろ野生の獣を思わせる。
ちらりと見えた脇腹の傷だけでなく、見えている範囲だけでもあちこちに消えない怪我の痕が残されている。動く度に角度を変えるそれと滑らかな筋肉の動きに、正直に視線を奪われそうになって。
「ニール?」
どうやら、自分はグラハムを凝視していたらしい。不思議そうに首を傾げる男からかけられた声に我に返って、ニールは慌てて取り繕うように不機嫌な顔になった。
「つーか、どうすんだよ。俺着替えなんか持ってきてねえぞ」
「私のでいいなら貸すが?」
「はぁ? 上はいいけどな、下が合わねぇよ!」
「なんと! 試してみねば分かるまい!!」
あのな、と更に文句を付けてやろうとして改めて振り返り、ニールは流石にぎょっとした顔になった。
「お、おま……!」
「?」
男ばかりの集団行動が多い所為で羞恥心というものの今二つくらい薄い金髪の男は、既に半ばツナギを脱ぎかけて、ジッパーを一番下まで下ろしてしまっていた。
流石に赤くなって視線を逸らし、ニールがぶっきらぼうにグラハムに向かって言い放つ。
「パンツ見せんな、恥ずかしい!!」
言われた方はさっぱり理解出来なかったらしく、脱いだタンクトップを肩に掛けて不思議そうな顔をしている。
「男同士、まして君と私の仲だ、遠慮は無用だ!」
「断固辞退する!!」
まるで目の前の男の如く一刀両断に言い返し、ニールは目線だけでタオルを探した。一つくらいは持って来ていたような気がする。
このままでは、この金髪のエース様はパンツ一枚でこの辺りをうろつきかねない。いくらなんでも、それは流石に避けたかった。
タオルを探してその場を離れかけたニールに、その時気合いの程よく抜けた声がかけられる。
「おーっす、やってるねえ」
ニールが振り向くと、お気楽な声をかけてきた長髪の技術顧問がほてほてと歩いてくる。
足下は相変わらずの突っかけサンダルなのに上は白衣で、夏らしいのか暑苦しいのか今ひとつよくわからない装いだ。
そのビリーは手に提げていた差し入れの入ったビニル袋を二人の前に翳す。
「一息入れないか、って思って来たんだけどさぁ、楽しそーだね君たち」
「おお、カタギリ」
「カタギリさん! 聞いてくださいよ、グラハムが!」
はいはいはい、とカタギリは笑って言いつけに来るニールをいなす。
「犬も食わないなんとやらってね。君たち、いい年して水の掛け合いしてて風邪引きましたとか、ちょっと恥ずかしいよ?」
やだやだ、夏が益々お暑くて、とからかう口調を止めないビリーに、ニールとグラハムが顔を見合わせる。
「……カタギリ」
にっこりと、グラハムが不穏な微笑みを浮かべる。
「なにさ」
じりじりと距離を詰められて、ビリーは剣呑な空気を感じたのか、顔を引き攣らせて後退る。
「まあまあ、そう警戒しなさんな、カタギリさん」
ニールまでもが底知れない笑顔と共に近付いてくる。ぞくりとビリーの決して鋭くはない野生の勘が己に迫る危機を告げた。
「ふ、二人とも、妙なこと考えてとか、ない、よ……」
にこ、と金髪のエースが微笑む。……そして。
「死なば諸共だぞ、カタギリ!」
「カタギリさんごめんなさい!」
「成敗!」
「なんで僕が成敗されんのさ!? う、うわあああ!? 冷たい!!!」
エースパイロットとその恋人に左右から一斉に抱きつかれ、暴れたところで現役のモビルスーツパイロット二人に勝てるわけもなく。
白衣ごと濡れる羽目になったビリーは、差し入れなんかもう君たちには絶対買ってこないと喚きつつ、育ちすぎた悪戯小僧二人の尻を殆ど蹴り飛ばすようにしながらシャワーブースへ追い立てたのであった。
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...end.
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