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あなただけ見つめてる
出会った日から今でもずっと
あなたさえそばにいれば他に何もいらない
夢のHigh Tension
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何度も何度も何度も繰り返してすまないが、アムロ・レイという人間は総じて家事の類が全く出来ない人間である。
いつもいつも本当に心底不思議に思うのだが、出来ない…というよりは全滅、とか壊滅、というか頼むから興味を持たないでくれというか…。
という恒例の解説をまたまた付けたところで、今回は…まぁ、読んでくれれば分かるだろう。私を襲った最新の悲劇について聞いてくれたまえ。
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「ね、どう?」
間近に迫ったあどけない顔にそう念押しされ、シャアはこっくりと頷いた。
「うん…まぁ…。」
「美味しい?」
「そう…だな。革新的な…味…だな。」
まるでグルメ番組のレポーターのような生彩を欠いたコメントを残すシャアの目の前には、一皿の料理が置かれている。
最近、『料理に目覚めた』自称手作り乙女系な彼の恋人、アムロの自信作だ。モビルスーツを弄ったりハロを組み立てたりするのと同じような感覚なので、どこかで彼の心の琴線に触れるものがあったのだろう。
だろう…が。
「ねぇ、美味しい?シャア。」
アムロがにこにこと微笑み、シャアの前の席で頬に手をついて聞いてくる。
「……うむ。」
或る意味、どんな平々凡々とした料理だろうが、極端な話カップラーメンに湯を注いだだけでもシャアは美味しいと言っただろう。
そう、普通の食事なら。
しかし、シャアの目の前に置かれているのは『秋の味覚満載しめじと栗とサツマイモと秋刀魚の炊き込みご飯冷凍ストロベリー風味』という素敵に無敵な一品で、アムロの好物を集めた材料同士は最高なのかもしれないが出来れば別々に食べさせていただきたかった…といういわゆるひとつの「創作料理」である。いや、芸術的だとか創造的だとか革新的だとか言っても良いかもしれない。但し、適応するにはシャアの味覚も革新される必要がありそうだが。脂の乗った秋刀魚の生臭みと冷凍ストロベリーの半端でない甘味が口の中で渾然一体となって、嚥下どころか咀嚼も困難なブラックホールに似た異空間をシャアの口の中に創り出している。
この料理が出来上がってくる前から、シャアには嫌な予感が色濃くしていた。台所からはご機嫌な鼻歌が聞こえてきていたが、「シャランラシャランラヘイヘヘイイエーイエ〜シャランラ〜♪」等というその歌はシャアには呪いの呪文か何かのようにしか聞こえない。もっとも、途中から歌詞を忘れたらしく「デリケートに好きして〜♪デリケートに〜♪」とかいう歌に変わっていたが。「デリケートに」好きになって欲しいのはこっちの方だ、と思わずシャアは内心でツッコミを入れた。どうもアムロの思考回路は理解不能でいけない。
「…アムロの作るものなら…なんでも…食べられるよ…。」
何をどうしても彼のグルマンとしての最後の矜持が「美味しい」という単語だけはその完璧に整った唇に紡がせなかったが、涙目になりながらシャアは「ジオンの赤い彗星」のプライドと意地にかけてその「炊き込みご飯」とやらを一椀完食してのけたのだった。
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後日。
「クワトロ大尉、ちょっと。」
突如艦長室に呼び出され、クワトロは首を傾げた。ここの所彼は大人しくしているので、ブライトに怒られたり小言を言われたり苦情を言われたり怒鳴られたり文句を言われる身に覚えはないのだが。
そこまで考えて、はたと思いつく。クワトロの覚えがないと言うことは、またぞろ彼のパートナーが何事かやらかしたに違いない無い。今度はなんだ、一体、と思いながら連邦の白い悪魔のトップブリーダーは背中を僅かに煤けさせながら艦長室に出頭した。
「ブライト艦長、何事かね?」
言いながら部屋に入って、クワトロは少し驚いた。そこにはブライトだけでなく、カミーユやジュドー、他のスーパーロボット系のパイロットまで主だった人間が勢揃いしている。「何か緊急事態でも…」呟きながら、クワトロは素早く赤味がかった鳶色の髪の毛の青年の姿を探す。いない。と、いうことは。
「…では、ないようだな。今度はアムロがなにをやらかしたのだね。」
「クワトロ大尉は飲み込みが素早くて有り難いですな。」
苦笑気味に呟きながら、ブライトが部屋の中央の椅子を勧める。どうもキシリアの麾下に居るときといい自分はこの手の査問の席に妙に縁がある、と溜息をつきながらクワトロは腰を下ろした。
「クワトロ大尉、早速ですが、お聞きしたい。」
いきなりブライトが用件を切り出した。クワトロは腕を組み、なんでもどうぞとスクリーングラスの下から答える。
「他でもない、アムロの『新作料理』のことなんですが…。」
「新作料理?」
クワトロが聞き返したのには深い意味はない。彼は忘れていたのだ。アムロのあの程度の破壊工作活動など日常茶飯事に近い出来事だったので。
「ええ、『秋の味覚満載炊き込みご飯』とやらのことですが。」
「……ああ。」
流石に思い出し、クワトロは些かげんなりした声で相づちを打った。折角忘れていたあの摩訶不思議奇想天外な風味と喉越しが口中に甦ってくる。しかし、その不快感はおくびにも出さずにクワトロは続けた。
「あの…アムロ風に言うならば『炊き込みご飯』が一体どうしたというのだね。」
「クワトロ大尉が『美味しい』と仰ったとかで…あれ以来、アムロが喜んでしまって、会う人間会う人間に『クワトロ大尉が太鼓判を押した』と言っては食べさせようとするのですが…。」
言いにくそうに、けれどきっぱりとブライトが続けた。この口振りからすると、彼もどうやら犠牲者の一人らしい。ということは、この場にいる人間はもしかしなくても全員アムロの手料理を食べさせられたということか。アレを。思わずクワトロが絶句していると、ブライトは眉間の皺を揉みほぐしながら済まなさそうに、けれどきっぱりと言い放つ。
「クワトロ大尉…。」
「なんだ、ブライト艦長。」
「アムロを甘やかすのも程々にしていただかないと…被害は水際で堰き止めないと、段々甚大なことになっていっているのですが…。」
「………。」
「クワトロ大尉、俺達からもお願いします、アムロさんを止めてください!!」
「止められるのは大尉しか居ないんです!!」
いや、いやいや、甘やかしてなど決してはないのだが、艦長、と微かに遠のく意識の向こうで、後輩達にまでわらわら取りすがられながら、クワトロはそんな苦しい言い訳をしたような気がする。
ロンド・ベルの秘密武器、最終人型決戦兵器アムロ・レイ。乗りこなすパイロットはシンクロ率(アムロの側から見れば)400%のクワトロ・バジーナただ一人。しかし、ファーストでもセカンドでもサードでもいいが、出来れば選ばれたくなかったかもしれないと今日も淋しげに果てのない宇宙を眺める人身御供の家系の血筋に生まれた男の、苦難の日々は続く。
でも、別れないでね、面白いから。(読者諸氏の内心の呟き)
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あなただけ見つめてる
そして他に誰もいなくなった
地味に生きて行くの
あなた好みの女
目指せっっ!!Love Power Woo…
あなただけ見つめてる
独りで待つ二人だけの部屋
あなたの微笑みはバラ色の鎖
行けっっ!!夢見る夢無し女!!
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+++END.
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